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第732話

「えっと…」 何と返事をして良いものか?と躊躇してるミキに田口が後押しするように永瀬の援護射撃する。 「良いじゃないか。もう直ぐ就業時間も終わるし行ってこいよ」 余計な事を言うな!  俺は成り行きを見ながら、心ではそう悪態をついていたが顔には出さない。 「良いだろ?ここ最近さ、1人飯なんだわ。香坂 飯位、付き合ってくれよ」 透かさず畳み掛ける様に、ごり押しする永瀬に対してミキも苦肉の策に出た。 「え~と。じゃあ、田口さんも行きませんか?」 断り切れず、田口も一緒にと誘うが 「悪い。俺、約束あるんだわ。また今度な。俺の事は気にせずに、香坂、折角だから行って来いよ」 ミキの思惑も虚しく田口に断られて居た。 永瀬とミキが大学の先輩後輩と言う間柄を知ってる田口は遠慮したのかも知れないし、本当に偶々約束があったのかも知れないが……田口に勧められてミキの方が断り難い状況になってた。 そんなミキとは対象的に、永瀬はにこにこと笑顔で返事を待ってた。 最初に躊躇せずに、用事があるとでも田口の様に約束があると言えば良いものを……嘘がつけないミキには無理か。 困って俺をチラッと気にし見たミキが板挟みになってるのも可哀想だし仕方ないと思い ‘行って来い’ と田口達には解らないように目で合図した。 それに気が付きホッとした顔を見せた。 「解りました。夕飯に付き合います」 「本当か?良かった! やっぱ1人だと味気なくってな。奢るから」 「別に、奢って貰わなくても」 「俺が誘ったんだから奢るよ。何、食べたいか考えておけよ」 「……解りました。お願いします」 先輩は言い出したら聞かない所があるからな。 ここで押し問答してても……と思って、俺の方が折れた。 大学時代も結構こう言う場面はあったな。 やっぱり性格も余り変わってないかも。 懐かしいな。 「じゃあ、そこの駅前のスタバで待ってる。コーヒー飲んで待ってるから、気にさずにゆっくり来て良いから」 強引な所があるかと思えば、こう言う優しさを見せるのも……変わらない。 俺の仕事の事を気遣って。 「そんなに待たせないと思いますが、そうして貰えれば、ありがたいです」 そんなやり取りを資料を見た振りや片付けをしながら聞き、結論が出た所で永瀬に挨拶し先に会議室を出た。 そして課に戻る前に、スーツの内ポケットからスマホを出し、ミキにLINEを送った。 ♪*夕飯だけで帰って来いよ♪* ♪ピロ~ン……。 直ぐに、返事が来た。 ♪*すみません! 夕飯だけ行って来ます! 伊織さん の夕飯は大丈夫ですか?♪* 俺の夕飯の心配をするミキに優しさと温かみを感じ、そして何より嬉しかった。 ♪*大丈夫だ。適当に食べる♪* ♪*急で…すみません♪* あまりLINEのやり取りをしてるのも怪しまれると思い、もう返事は返さなかった。 ミキの返信に一応安堵し、課に戻りアメリカ支社への今回の資料作りを始めた。 ミキと田口もその数分後に課に戻り、就業時間まで仕事をして居た。 そして就業時間少し過ぎた頃に「すみません。お先に失礼します」と申し訳無さそうに挨拶し、ミキがオフィスを出て行く後ろ姿をパソコン越しで見送った。 これから永瀬と飯か。 どこに食べに行くのか?  本当に、夕飯だけで終わるんだろうな。 次に誘われたら…押しに弱いミキだからな。  断れるのか? LINEの返事があった時は安堵の気持ちだったが、時間が経つにつれ少しばかりの不安も出てきた  2人の事を考え気にしてる自分が情けなく気分も下降気味になるが、送り出したのは自分だ!と思い仕事に集中して考えないように努めた。 そして1時間程で田口と佐藤が退勤し、課には俺だけが残って居た。 マンションに帰って……1人寂しく飯を食うのも……それに、まだ帰ってないミキの居ない部屋で待ってるのも……。 そう思うと仕事をする事で時間を潰してた。

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