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第736話

それから先輩達の近況報告の場になった。 鈴木(貴士)先輩は食品会社のマーケティング企画部で働き2年前に会社の子と結婚し1歳の子供が居ると話し、子供の写真を見せてデレデレと親ばか振りを発揮してた。 立花(真司)先輩は自動車販売店のディーラーで、やはり同じ会社の子と半年前に結婚し、まだ新婚さんだと先輩達に揶揄れて居た。 俺も総合物産の海外事業部に勤めて居て、そこで偶然先輩と再会した事を話すと既に先輩達は永瀬先輩から俺との偶然の再会は聞いて居たらしい。 「恭介もアメリカ行って全然音沙汰無かったよな?俺の結婚式に招待する為に連絡しなきゃ、今頃はこうやって飲む事も無かったかもな。俺に感謝しろよ」 「アメリカ行ってからは忙しくって慣れるまで余裕が無かったからな。貴士の披露宴に参加して以降は帰国する際には連絡してるだろう」 「まあな。年に1回か2回な。それも会議とか仕事絡みで、帰国しても1週間も滞在しないじゃん。今回は珍しく長いけどな」 永瀬先輩と鈴木先輩の話しを聞いて、あんなに仲が良かった先輩達にもアメリカ行ってからは連絡無くなったんだ、俺だけじゃなかったんだ。 でも、数年後には年に1回か2回帰国してるのに……先輩達には連絡するようになったんだ。 鈴木先輩の結婚は2年前って事は……伊織さんと出会ってた時だ。 もし……伊織さんより先輩との再会が早かったら 永瀬先輩が鈴木先輩や立花先輩に連絡取ったように俺にも連絡きてたら……俺はどうしてだんだろう。 ふっとそんな事を考えてしまった。 そんな俺の考えを遮るように、立花先輩が先輩達の間に入った。 「まあ.まあ。今更言ったって仕方ねーじゃん。恭介は恭介でアメリカ行って色々あったんだろうしそれに俺達の仲は切っても切れないしな。いずれお互い連絡取り合ってたんだよ」 「俺はいつまでもお前達はダチだと思ってる」 「そうだな。こうやって大学卒業しても年に1回でも飲んだりしてるしな」 「貴士は恭介が居ないのが寂しいんだよ。俺達いつも一緒だったからな」 そうだった、友達が多かった先輩も特にサークルでリーダー的な先輩達はいつも一緒に居た。 お互い信頼してるから言いたい事を言い偶に喧嘩し笑ったりばかな事もしてた。 年に1~2回しか会わなくってもこうやって会えば直ぐに打ち解け合う先輩達を見て…何だか、伊織さんや祐さん.龍臣さんの関係に似てると思った。 先輩達の話を黙って聞いてた俺が蚊帳の外だと思ったのか? それからは4人共通のサークルの失敗談や面白ろ話しで笑い終始賑やかに笑って過ごした。 飲み放題.食べ放題だと言うことで、料理や酒を注文し楽しかったから、ついついお酒も進む。 そのうちに学生の時の恋愛話しを懐かしむように話す。 「恭介はモテたよなぁ~。結構、付き合う相手変えてなかった?」 「変えてた.変えてた。就活がある所為なのか?3年の後期頃から卒業までは誰とも付き合って無かったと思うけど。それまではモテる事を良い事に変えてた.変えてた」 「そう言う真司だって、告白されたりしてたじゃん。それに俺は付き合う相手をころころ変えてません! サークルが楽しかった所為で、あまり相手にしなかったから気持ちが離れていって終わりってパターンかな。毎週どこかにデートとか少しでも時間あると一緒に居なきゃいけないとか……やりたい事ある俺には無理だった」 確か…俺と付き合う前に何人か女の子と付き合ってたのは知ってた。 その時は憧れの先輩で、やはり女の子にモテるなぁ~と思ってただけだった。 「だからってサークル内の子とは付き合わなかったよな。サークル内だと話しも合うし、それこそ嫌でも一緒に居る時間あるじゃん」 「貴士、あれだよ、あれ」 「何?」 「覚えてないか?俺達が1年の頃でサークルに入って少し経って1年で1番可愛い子居たじゃん。恭介さぁ~、その子と付き合って3ヶ月位で別れじゃん」 「あ~、あの子な」 「そうそう、その子。何で別れたか?は知らねーけど、別れた後気不味くなって、その子がサークル辞めたじゃん。それからこいつサークル内では付き合わないって決めたらしい。付き合っても他の人達に気を使わせるし別れた後も気不味いって言ってさ。結局、サークル以外の子と何人か付き合ってたよな。でも、サークルに理解が無いから別れちゃっての繰り返し。俺達、あの時サークルのイベントやボランティアがめちゃくちゃ面白い時期でさ、大学の大半の時間費やしてたからな」 そんな事があったのか? 俺がまだ大学入る前の話しで初めて聞く話だった サークル内では絶対に付き合わないと決めた先輩が……俺と付き合おうと思ったのはどうしてだったんだろう。 あの時は先輩の熱い気持ちに押された。 ‘香坂が好きだ!’ ‘男を好きになった事に悩まなかったわけじゃないけど……今、香坂に俺の気持ちを伝えないと一生後悔すると思った’ ‘香坂の外見も好きだが、一緒にサークル活動して皆んながやりたがらない事も率先してやったり、失敗して落ち込んでる奴を励ましたりと優しい性格も好きだ’ ‘俺が無理言って、園田に香坂の家族の事は聞いた…これからは俺が側に居てやる! 寂しい思いはさせない! だから……俺もミキと呼びたい! 信頼出来る人にしか呼ばせないんだろ?俺もその1員になりたい!’ その時にはサークルを引っ張る行動力と皆んなに信頼されてる先輩は俺達後輩の憧れの人だった。 先輩は後輩には時には厳しく、そして優しかった俺とマコを特に可愛いがってくれて、気さくに話し掛けたり声を掛けてくれる事が多くなり、少しずつ3人で一緒に居る事も多くなって、その内にご飯も食べに行くようになった。 そして憧れから気になる存在になって……でも、男の人との恋愛なんて考えても無かった。 そして先輩の熱い告白に心を打たれ、初めて気になってたのは好きだからだと気がついた。 そして先輩と付き合うようになったんだ。 マコに報告した時には ‘いつかは、こうなると思ってた。先輩のミキに対しての目が僕達とは全然違ってたし、それに先輩はミキのタイプでしょ?’と、俺の事を良く知ってるマコが言うんだから、これは運命なんだと思ってたな。 恋愛話しを聞いてて、そんな事を懐かしく思い出した。 そして矛先が俺に向いた。 「そう言えばさ。香坂はサークル入る前は、結構女の子と歩いてるの見かけたけど?」 マコにサークル誘われる前だ。 あの時期は1人で居るのが嫌で、ご飯やデートに誘って来る女の子達と一緒に居た。 男子からは遠巻きにされてた時だったし、女子の方が何も気にせずに話し掛けてきたり積極的に誘ってきてくれた、だから女の子と一緒に居る事が多かったけど、誰とも付き合ってたわけじゃないその事には触れずに不思議に思った事を聞く 「サークルに入る前から、俺の事知ってたんですか?」 「香坂の事は噂になってたよ」 「そう.そう。そこら辺の女子より綺麗な奴が居るってな。モデルか芸能人じゃねーのか?ってな」 鈴木先輩と立花先輩は場を盛り上げる為に、多少話を盛って話してると思った。 「そこら辺のって……先輩、盛り過ぎ~」 「そうか?でもよ、噂の主が園田に連れられてサークルに入ってきた時には…今だから言うけど、ドギマギ…した。構内で見掛ければラッキーって思ってたし学年も違うし接点なんて無いだろうと思ってたから、尚更」 「俺も! くそぉ~、香坂が女の子だったらって何回思ったか~」 「男で悪かったですね!」 ちょっと拗ねた振りで話すと先輩達は俺の機嫌を取ろうと躍起になる先輩達が可笑しくって笑った 「そんな事言ってるとサークルのアイドルに嫌われるぞ!」 と言って、そして楽しそうに笑う永瀬先輩の姿の中にふと伊織さんを感じた。

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