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第737話
昔話に盛り上がり和気藹々(わきあいあい)と過ごし、学生の頃に戻ってた時間も飲み放題.食べ放題の2時間の時間制で終わりを迎えた。
会計の時は先輩達3人で俺の分も払ってくれた。
そして地下の店を出て階段を登り地上に出て、道端で帰るのを惜しむように話して居た。
「今度は園田も一緒に飲みたいな」
「マコも残念がってましたから、是非、誘って下さい」
「恭介の都合次第なんだよなぁ~。まだもう少し日本に滞在するんだろ?」
「今の所はあと1ヶ月あるかないか位かな。ミキの会社のお陰で仕事も順調に進んでるし、もっと早く渡米するかも知れないな。まだ何とも言えない」
「そうか。また機会があったら飲もうぜ」
駅に足を向けた先輩達に永瀬先輩が口を開いた。
「俺とミキはもう少し飲んで行くから」
先輩達の話しで、永瀬先輩の滞在期間が短くなるかもと知り……何とも言えない気持ちになってた所に、突然、先輩が言い出した事に戸惑う。
えっ! そんな話し聞いて無いけど……。
隣に居た先輩の顔を見ると、悪戯を仕掛けた子供の様に笑ってた。
俺がまだ行くとも行かないとも言って無いのに、先輩達の中で話しがどんどん進む。
「そうか。何年振りに会ったんだから旧友を深めろよ。俺達は家庭持ちだし、あまり遅くなると煩いからな」
「こういう時は独身って良いよな」
「そう言って可愛い奥さん子供が待ってるんだから、早く帰ってやれよ」
「そうだな。じゃあ、香坂、またな」
「香坂に会えて嬉しかった。サークルのアイドルが健全で良かったよ。また、機会があれば飲もうな」
「気を付けてな。奥さん、子供に宜しくな」
「先輩達も元気で体には気を付けて下さい。また今度。ご馳走様でした!」
取り敢えずその場は話を合わせる事にした。
そして手を振り駅に向かう2人に手に振り返し、その場で見送った。
「さて、今度は静かなBarで飲もうぜ」
「先輩。俺、行くとも何とも言ってませんけど?」
「そんな事言うなよ。まだ21時半回った所だぜ。もう1軒付き合えよ」
有無も言わさず先輩は俺の肘を掴んで歩き出した
まだ時間も早いと思って、先輩に流されるように引っ張られ歩いて行った。
こういう所、強引なんだよなぁ~。
俺が優柔不断だと言う事もあって、いざって言うと強引になる所が変わらない。
そんな先輩が懐かしく頬が緩んだ。
そして駅の近くを歩いて探し、ビルの2階にある1軒のBarに入った。
初めて入ったそのBarはカウンター10席あるかないかと言うこじんまりとしたjazzが流れ雰囲気のある店だった。
カウンター席に座ると直ぐに年老いたマスターからお絞りとお通しが置かれた。
「良い店ですね」
気さくな先輩がそう話すとマスターは笑顔になり
「ありがとうございます。老後の趣味程度の店で私がワインが好きなもので」
「じゃあ、お勧めのワインを2つと軽いつまみもお願いします」
「畏まりました」
誰とでも気さくに話す先輩は友人も多く、後輩にも慕われてたなと懐かしく隣で聞いて居た。
店には、俺達の他に2組程カウンターに座ってた
そして直ぐに赤ワインのグラスとナッツ類とチーズそしてチョコが置かれた。
「ごゆっくり」
俺達の前からマスターが去ると、ワイングラスを掲げグラスを軽く合わせた。
コクッ…コク…
一口二口ワインを口に入れると程良い甘さと深い味わいの葡萄の美味しさが解り、ワインに詳しく無い俺でも美味しいと思った。
「やはり、ワインBarを趣味で出す店だけあって美味いな」
先輩もそう思ったらしく笑顔を見せ、また一口飲んでた。
少し離れた所でグラスを磨いてたマスターが嬉しそうな顔を見せて居たのが印象的だった。
それからさっきまで一緒に過ごした鈴木先輩と立花先輩の話しになり、2人の間には笑いが起き距離がグッと縮まった。
「貴士と真司、ミキに会えて嬉しそうだったな」
「俺も卒業以来で嬉しかったです。2人共結婚してたんですね。鈴木先輩は少し貫禄が出てましたね。でも、優しそうな所が全然変わって無かったです。子供の写真見せた時の鈴木先輩ったら、メロメロ…でしたね。子煩悩で良いパパになりそうですね」
「貴士だろ?いつも写真見せるんだよ。今が1番可愛い時だからな。ミキは貫禄出たって良い言い方するけど、ただ単に太っただけだろ。幸せ太り!」
クスクスクス…
「幸せなら太ったって良いじゃないですか?」
「まあな。でもよ、あのまま太ったら、子供の運動会でキツいだろ」
クスクスクス……
「先輩、鈴木先輩が居ないのを良い事に酷い事言ってますよ?」
「本人の前でも言ってる! あいつもヤバいって自覚はあるらしい。真司もその内太るかもな」
クスクスクス……
「自覚あるなら大丈夫ですよ。立花先輩は変わりましたね。社会人になって揉まれたからなのかな?家庭持ったからなのか?あんなに学生の時はチャラい感じだったのに、凄く落ち着いて大人って雰囲気でした」
立花先輩は軽い感じでいつも楽しそうにしてた。
そしていつも女の子の話しばかりしてたけど、明るい先輩は女の子に優しくモテて居たな。
「確かに、学生の時はやたらと女の子には優しかったからな。見た目はチャラいけど本当は優しくって案外真面目なキャラ装ってたからな。結構、裏では合コンとかナンパとかしてたんだぜ。陰で遊んでるタイプ。でも本人のキャラなのか修羅場とか深刻にならないんだよな」
俺達が見てた立花先輩の別の一面を知って驚いた
「女の子の話しは良くしてたし女好きなんだとは思ってましたけど……裏で、そんなに遊んでるとは思って無かったです」
「だろ?上手い事やってんの。ま、そんな真司も家庭持って落ち着いたんだろーな」
それから俺とマコが大学に入学する前の先輩達の出会いから面白ろおかし話を聞かせてくれた。
先輩は友人も多かったけど、話す内容から特に3人の仲の良さが解った。
話しを聞きながらチビチビ…ワインを飲み干し「もう1杯いけるだろ?」と言われ、楽しかったから「はい」と答えた。
先輩は笑って、マスターにまた違うお勧めのワインを注文した。
今度は白ワインでフルティーですっきりした味わいの爽やかなワインで、また先程の赤ワインと違った美味しさがあった。
俺が一口ワインを飲むのを先輩がジッと横から見られてたのに気が付いた。
「これもまた美味しいですよ」
先輩からの俺を見る目が何となくさっきまでの和やかに話してた雰囲気とは違うと感じた。
何だろう?
この先輩の目……真剣な眼差し……昔、何度かこうやって見られた事がある。
先輩の手が動き、指の背で俺の頬をなぞる。
「ミキ……綺麗になったな」
先輩の俺に対しての昔からの癖…だ。
「……そんな事無いです」
そして…指の背から今度は手の平で俺の頬を撫でる……この一連の仕草も変わってない。
付き合ってた時はこの癖と仕草が好きで、俺も摩る手に頬を押し付け甘えてた。
この先輩の変わらない仕草と癖に懐かしさを感じた。
「学生の時も綺麗だったがまだ幼さも残ってたけど、社会人になって大人っぽくなり更に綺麗さに磨きが掛かったな」
そんな熱い眼差しと懐かしい仕草……困る。
ドギマギ…そしてドキドキ…胸が高鳴った。
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