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第739話

ガラガラガラ…… カウンター席に既に座って、おやじと親しげに話す龍臣が居た。 「よっ!」 「お前な。呼び出しておいて遅く来るとわな‼︎」 「遅れたって言ったって、ちょっとだけだろーが! おやじ、俺にもビールな。あと適当に料理頼む」 「解った。ま、座れ」 龍臣の隣に座り、直ぐに出てきたビールを掲げ、龍臣と乾杯した。 「俺と会うって事は美樹君はどうした?」 「ああ、出掛けてる」 「なる程な。寂しくって、俺に連絡来たってわけだ」 「別に‼︎」 実は…龍臣の言う通りだ。 ミキが永瀬やその友人達.真琴君と4人で会う事になり1人で寂しく待ってるのも時間が長く感じ嫌で龍臣に電話してみた。 忙しい龍臣だが、運良く今日は空いてたらしくおやじの店で飲む事にした。 龍臣がダメだったら仕事をして時間を潰すか?それとも祐一の店に行こうか?とも考えて居た所だった。 おやじがつまみと腹に溜まる料理を出し、それを食べながら飲み始めた。 最初はこの間行った花火大会の話しやお互い夏季休暇で旅行に行った時の話しをし、気分を紛らわしてた。 あの時はこんな事になるとは思っても居なかったな。 そんな俺の気持ちが顔に出てたのか? それとも俺が龍臣を誘った時点で怪しく思ってたのか? 龍臣は何かあると気がついて居たようでズバリ俺に聞いてきた。 「伊織、何かあった?俺を誘うって事は何か話しを聞いてほしいとか相談か?」 ビールをグビグビ…半分程飲み勢いをつけた。 「ふう~!……解るか?相談って言うか.悩みって程では無いんだが……自分でも気にしてないようでやはり気になって仕方ないんだ。それがイライラ…したりで気分が落ち込む」 「へえ~。強気なお前が珍しいな。そりゃ~相当ストレスになってるんじゃねーの。何?仕事絡みでは無いよな。どうせ、美樹君絡みだろ。言ってみろ。誰かに話す事で少しは楽になるし、俺も何か力になれるかもしれない」 俺も高校の時は優希の件で散々伊織や祐一に相談したり悩みを聞いて貰った。 そのお陰で随分救われた。 どんな些細な事でも俺は2人にはいつも何か力になりたいと思ってる。 弱味を見せたく無い伊織にしては珍しい。 相当参ってるのか? そんな伊織が話し出すまで待ってた。 「……実は…」 俺は龍臣に仕事でミキの昔付き合った男に会った事.その男が ‘ミキ’ と親しげに呼んでた事.その日の内にミキから昔付き合ってたと聞いた事.2人で夕飯食べに行った事.LINE交換しそれから頻繁にLINEしてる事.ミキから永瀬の話しが出る事が多い事.今日も他にも大学の知合いと真琴君を含め会ってる事を、永瀬とミキとの再会から今日までの事を一気に話し、またビールを一気に飲みおやじにお代わりした。 俺の話を神妙に聞いてた龍臣は暫く考え込み話し始めた。 「結構、キツいな。仕事絡みって事は暫くは顔を合わせなきゃなんねーしな。でも、話し聞いてる限りだと美樹君はもう終わった事だからお前に隠さずに話してるんだろーし。美樹君は悪気があってやってるわけじゃないよな、それは解ってるんだろ?」 「ああ、ミキの性格上隠す事は出来ないし。たぶん…龍臣の話す通りで終わった事だから、今は俺が居るって思って正直に話してるんだと思う。隠されるよりは良いが…ミキが楽しそうに話すのを聞いてるのも……気にしてない振りで聞くのも段々とキツくなってきてな。キツいからって、聞きたく無いわけじゃなくやはり気になるし……複雑なんだよ」 今の俺の気持ちを素直に話した。 「伊織の気持ち凄く解る‼︎ 俺も優希との時にそう言う気持ちになった時があったからな。でも、美樹君を信じてないわけじゃないんだろ?」 「そうだ‼︎ ミキの気持ちを信じてないわけは無い‼︎ これまでのミキとの付き合いの中で、ミキからの愛と信頼は勝ち取ってると自負してる。それに俺もミキへの愛は惜しみなく注いでるのも解ってくれてるはずだからな。ただ……下らない事かも知れないが……。永瀬とミキがなぜ別れたのか?ミキに聞いても解らないと言うんだ。ミキが言うには永瀬の念願だったアメリカ研修に選ばれ暫くは電話やメールで連絡取り合ってたが、数ヶ月経ち何度もミキから連絡しても永瀬からは音信不通になったらしい。そこからは何年も会う事も連絡も無く今に至ってる。別れた原因が解らないのも…ミキにとって消化不良って言うか.少しは引き摺ってるんじゃないかと…」 「なる程な。伊織の話す事ははっきりと言葉で別れてないから、美樹君の中では完全に終わってないんじゃないかって思ってるわけだ。確かに消化不良って感じもするが……もう何年も前で、そう言う気持ちもなくなったんじゃないのか?諦めって言うか.永瀬が音信不通にした事が全てなんだと思えるしな。最初は別れた理由が何なのか解らなくって辛かったかも知れないが、結局は時間が解決してるってことだよ」 「そうかも知れないな。俺の考え過ぎかも知れない。あと…もう1つ気になる事が……。ミキは本当に信頼する人しか ‘ミキ’とは呼ばせないのは知ってるだろ?それこそ家族や親友の真琴君……あとは恋人。前に…ミキと祐一の店で飲んだ時があってな。その時にやはりミキの昔の男が偶然店に入ってきた。その男はミキの事を美樹(よしき)って呼んでた。付き合ってた相手でも本当に信頼しミキからの愛が無ければ ‘ミキ’ と呼ばせてないと思い、昔の男の出現で嫉妬もしたがその事で心底愛した相手じゃないんだ!と安心したんだ。ミキがモテるのも知ってるし付き合ってた相手も男も女もたくさん居ただろし……嫉妬はするけど、本当に愛されてるのは俺だけだと思ってた。それが…あいつも ‘ミキ’ と呼んでた事に……俺より先に出会ってた事からすると……初めて信頼し愛した男なんだ!とそう考えるとな」 「確かに……今までは自分だけが…と思ってたのが自分だけじゃないと解るのはキツいよな。でもよ~、伊織も言ってたけど出会ったのはあっちが先なんだぜ。それはどうしようもない事だし今更言っても仕方ないだろ。伊織も本当は解ってるはずだ。その当時の美樹君にはその永瀬って奴が今のお前のような存在だったって事は事実で、でもそれは昔の事だろ。今の美樹君には本当にお前だけなんだからよ。気にするなって言うのは無理だろうが、こればっかりは自分と美樹君を信じるしか無い!」 龍臣の言う事は正論だし、俺も頭では解ってるが気持ちが……。 「いつもの強気の伊織はどうした?お前らしくねーじゃん。それによ、言っちゃ悪いが、その永瀬って奴、あと1ヶ月も日本に居ないんだろ?それまで美樹君とどうのこうのなるわけねーじゃん。美樹君だって、それまでただの先輩後輩として会ってんじゃねーの。嫌な事あるかもしんねーけどそいつが渡米するまでの辛抱じゃん。渡米したらもうなかなか日本には来ないんだろうし。そう考えれば少しは気が楽になるんじゃねーの」 確かに龍臣の言う通りだ。 あと1ヶ月の辛抱って言えばそれまでだ。 「どうしても付き合ってた時の事が気になるなら真琴君か祐一に聞いて見ろよ。学生の頃から知ってるし俺達より美樹君との付き合いは長いんだ。何かしら知ってるんじゃねー。ま、知らない方が良い時もあるし、それはお前の判断に任せるけどな」 俺の判断か。 昔の事を根掘り葉掘りほじくり返すのも……昔の事だと思っても居るが……他の奴ならここまで考える事もなかったと思う。 あの永瀬には何か引っ掛かるって言うか.気になる それが何なのかは解らないが…。 「そうだな。グチグチ考えても俺らしくねーしな頭では色々解ってるんだけどな、気持ちの方が複雑でな。ま、どうしようも無くなったら祐一にでも聞いて見るよ。何だか龍臣に愚痴聞いて貰ったな。悪かった。でも、少し気持ちが軽くなった」 「俺だって色々お前らには世話になったしな。俺がどうしようもない時に力になってくれたんだ。お前らが悩んだり困ってる時は力になるのは当たり前だ……それが親友ってもんだろ?」 最後の親友って言葉を恥ずかしそうに話す龍臣は俺にとっても祐一同様やはり親友だ。 親友って良いな。 「親友?悪友の間違えだろ?」 俺も照れて、そんな憎まれ口を利く。 「間違えねーな」 そして2人で顔を見合わせ笑った。 色々解決出来て無いが、自分でも整理出来ない複雑な気持ちを話した事で、少し気持ちが晴れた気がした。

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