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第742話
「どう言う事だ?」
「初めて永瀬と会ったのは…確か、永瀬が大学3年の時か。先輩なのか.知合いなのか知らないが、そいつに連れられて店に来たんだ。俺の店は基本は紹介制とされてるが、柄が悪くなくトラブルを起こさなければ別に入店しても構わないと思ってる。ただ、紹介制にしておいた方が客層も良いし信頼される店として認識して貰えるから、そうしてるだけだ。ま、そう言う事で永瀬も連れられて来てた。店に入って少し経つと、連れの方は知合いの所に行きカウンターで永瀬1人飲んでた。カップルなのか?と思ったが、そうじゃなかったみたいだった。永瀬も容姿は良い方だろ?やはり何人かに声を掛けられてたが、全て断って1人酒を飲んでた。偶に、店の雰囲気や酒を楽しむ奴も居るし、そう言う類いなのかと思ってたが、少し気になって声を掛けたんだ。‘好みのタイプは居なかったですか?’ってな。そしたら永瀬は苦笑いして ‘ん~~、相手を見つけに来たわけじゃないんです。ここに来ておいて何ですけど……。俺、今まで恋愛対象は女の子だけで付き合ったのも女の子だけです。実は…気になる奴が出来て…いや好きな奴が出来て……そいつ男なんです。自分でも初めての感情で戸惑って……もしかして俺は男が好きなのか?女の子も好きだからバイセクシャルなのか?って疑心暗鬼になって、知合いがそう言う店に出入りしてるって聞いた事があったから連れて来て貰って確かめようと……。1人でそう言う店に行って変なトラブルになっても嫌だったんで。やはり怖いんで誰かと一緒の方が良いかとそれでここに来ました’ とそう言ってた。偶に、興味本位や永瀬のように自分の真意を確かめる為に悩んで来る奴も居るからな。それが永瀬との初めての出会いだった。結局、永瀬は少し飲んで、そのまま連れを置いて先に帰って行ったが、それから1週間に1回か2週間に1回の頻度で店に来て、俺と話し酒を飲んで帰るようになった。店に居る時はもちろん誘われてたが全て断ってたな。好きな奴の話を嬉しそうに俺に話して、溜まっていく想いを吐き出してるって感じだった。たぶん、他に話せる人が居なかったんだろうし、店には大学なんかの知合いが居ないからな。その好きな奴が後にミキの事だと解った。‘男とは思えない程に綺麗で、そして性格も素直で可愛い’ とか ‘人に気を使い優しいんだが、人見知りするのか?周りからは綺麗過ぎて声掛けられ辛いのか?ちょっと浮いてるのが可哀想だ’ とか ‘時々、寂しそうな顔を見せるんだ。俺が側に居たら、そんな顔をさせない‘ とか言ってたな。俺は意見を言うでも無く黙って聞いてたから、それが良かったんだろうな。良くミキの話を惚気たり嬉しそうに話してた。そんな事が数ヶ月過ぎ、もう我慢出来なかったんだろうな。意を決して玉砕覚悟で告白する‼︎って話してた。そして上手くいったんだろう、数ヶ月後に、俺に報告がてらミキを店に連れて来て紹介してくれた。それからは俺の店が2人の密会の場の1つになってた。永瀬が社会人になっても2人で待合せして良く来てた。永瀬が渡米して連絡取れなくなり、ミキは永瀬の話を聞いて欲しくって1人で俺の店に来てたが、その内マコも連れて来るようになったんだ。違うか、マコが心配で着いて来るようになったのが正解か。俺が知ってるのは、そんな所かな。永瀬も最初は綺麗で可愛い後輩って感じだったらしいが、素直で懐くミキに後輩以上の気持ちになり…ミキを好きになった事を相当悩んでたが……‘諦めきれない。今、香坂に自分の気持ちを言わないとずっと後悔する’って言ってたな」
祐一は懐かしむように話して聞かせてくれた。
「永瀬は男はミキが初めてって事か。ミキもそれまで女としか付き合って無かったって事は………ミキにとっても初めての相手って事だよな?」
「……そうだな。お互いそれまで男に恋愛感情なんて持ったこと無かったんだからな。伊織! 誰にだって初めての相手は居るんだ。お前にも俺にもな。そんな下らない事に執着するな‼︎」
祐一に説教されたが……気にしないつもりでも、やはり心の中では気になるのも本音だ。
祐一の話す事は解るが、責めて相手が誰か解らないなら……目の前に、ミキの初めての相手が居る現実は……どうしても意識してしまう。
「……解ってるよ。頭では解ってるんだ……たが知らない相手ならともかく目の前にいるんだぜ。意識するなって言うのは無理だろ?」
俺の気持ちを正直に話した。
弱音を吐いてるようで、嫌だったが……。
「そうだろうな。俺も伊織と同じ立場ならそう思うだろうな。伊織、言い方が悪いかも知れねーが
ミキにとって永瀬は昔の男で、伊織は現在進行形の恋人だろ?それは揺るがない事実だ。永瀬の事を気にするなって言うのは無理だろうが、今の恋人はお前なんだ‼︎ 自分とミキを信じろ‼︎」
祐一に言われなくても解ってる。
そして厳しい事も話すが俺を励ましてくれてる事も。
「ミキを信じて無いわけじゃないが……永瀬の態度が気になる。ミキを誘ったり頻繁にLINEしたり……少しずつ2人の距離が縮まってる気がするんだ」
「永瀬がどう言うつもりなのか?は、本人じゃないと解らないが……これもまた言い方が悪いが……」
今度は言葉を止め、言うかどうか迷ってるように感じた。
言い辛い事か。
気になる。
「何だ?途中で止めたら気になるだろ?」
「……ん、そうだな。変な意味では無く…なんて言えば良いのか………永瀬と伊織は似たような性格なんだよ。ミキのタイプって事だな。2人共、行動力ある奴だし強引かと思えば優しいし、そして自分に自信があるのも似てる。ミキ本人は優しいし優柔不断不断な所があるからな、そう言う押しの強さや強引な奴に憧れてるって言うか.弱いんだ。ミキが永瀬と別れてからは、無意識に永瀬とは違うタイプと付き合ってたのかも知れない……俺が知ってる限り、永瀬と伊織以外はミキを蝶や花のように扱い優しいだけの男が多かったな。心底好きな相手じゃないから、付き合っても短いスパンで終わる。俺はミキと伊織が初めて俺の店で出会った時には、2人は惹かれ合うと思ってた。永瀬や家族の事もあり、ミキには本当に幸せになって欲しかった。だからあの時、お前を試すような事をしてお前の真意や本気度を知りたかった。
ミキに悲しい想いはさせたくなかったからな。ま、そんな事しなくてもお前は必ずミキを自分の者にしたんだろうけどな。そう考えると、お前の方が永瀬より強引か」
若い時の永瀬はそこまでじゃなかったかも知れないが、社会人になって揉まれ一皮剥けた今の永瀬なら……。
そして祐一の話を黙って聞いてたが……俺の胸にはズキッと取れない棘みたいなのが刺した気がした。
そうか‼︎
………俺が1番気になってたのは……。
このモヤモヤ…する気持ちが何なのか?祐一の話しでやっと解った‼︎
その時、遠くから真琴君の声が電話口に聞こえた
「祐さ~ん、お風呂空いたよ~。あっ!ごめん。電話中だった?」
「ああ、伊織からだ。永瀬の件で相当参ってるらしい。マコからも何か言ってやれよ。俺、風呂に入ってくるから」
仲良さそうな2人の会話が電話口から聞こえた。
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