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第743話
「もしもし?成宮さん?」
祐一から真琴君に電話の主が変わった。
「悪いな」
「永瀬先輩の事で相当参ってるって、祐さん言ってたけど?」
「いや、参ってるって言うか……気になって。ミキからも一応話しは聞いてるが……」
「そう……先輩から誘われて一緒に行った時あったでしょ。先輩に会う前に、僕は今更何なんだ! 自分勝手なんじゃないのか!って怒ってたんだ。ミキも僕の雰囲気で解ったらしく ‘マコ、もう終わった事だから。今の俺には伊織さんが居るから’って、ちゃんと言ってましたよ」
そうか、ミキがそう言ってたか。
真琴君の話を聞いて、少し気持ちが落ち着いたが俺も真琴君と全く同じ考えだ。
今更、どの面下げてミキを誘うのか?
ミキも、そんな辛い事をさせられて、なぜ会うのか?
2人の考えてる事が俺には解らない。
「それを聞いて少し安心した。ちょっと聞いて良いか?さっき祐一からは永瀬がミキを好きになって散々悩んで告白したって聞いたが……その時にはミキも永瀬を好きだったのか?恋愛対象は女だけだっただろ?悩まなかったのか?」
俺も祐一も真性のゲイだ。
だから、男が男を好きになる事は俺達には普通の恋愛と変わらないが……そうじゃない奴には相当悩むはずだ。
悩んだ末に、永瀬と付き合ったんだろうとは思ってるが、その当時のミキの事を知りたかった。
「先輩から告白されて、ミキも戸惑ったみたいです。それまではミキも僕や他の人同様に、先輩は憧れの先輩だったから。でも、もしかして先輩に告白された時には、ミキも少なからず先輩を好きになってたのかも知れません。本人はそれまで女の子が恋愛対象だったから、憧れの先輩って誤魔化してたのかも。じゃなかったら、先輩に告白されて結構押しが強かったとは言え、相手は男だし好きな感情がなければ、幾ら憧れの先輩でも付き合わないでしょ?それに ‘ずっと、この気持ちは憧れからくる気持ちだと思ってたけど、先輩に告白された事で気が付いた’ みたいな事を言ってました。憧れの先輩から自分では気が付かないうちに好きな人に変わってたと言う事でしょうね」
「そうか。ミキも好きだったんだな」
「たぶん少しずつ……。最初に、ミキをサークルに誘ったのは僕なんです。僕と仲良くなる前のミキは、その時は知らなかったけど家族を亡くして寂しくって心も弱ってたらしく1人で居たくないからって色んな女の子と誘われるがまま一緒に居て、それを気に要らない男子やミキが綺麗過ぎて声を掛けたくても掛けられず遠巻きにする男子が多くて、ミキも人見知りな所や本人はそのつもりじゃないけど人を寄せ付けない雰囲気があって、なかなか男友達が出来なかった。けど、女の子達って図太いって言うか.そう言う所は気にせずに、ミキに声を掛けるから自然とミキの周りには女の子が寄ってきてました。僕とミキが仲良くなって今のままじゃいけないと僕が入ってたサークルに誘ったんです。イベントサークルだけど、ボランティア活動も結構してたから忙しいし人手不足だったし……ミキにも良い刺激になって転機になるかと思って」
「で、サークルの先輩に永瀬が居たわけだ」
「はい。先輩はその時には3年だったから、既にサークルではリーダー的存在でテキパキと指示し厳しい事も話すけど優しくフォローするのも忘れず、あの通り外見も良いし自信があって少し強引な所も大人に感じて、僕達後輩からは尊敬と憧れの先輩だった。ミキも先輩と接するうちに憧れるようになって、良く2人で先輩の話しもしてました。先輩は後輩を可愛がり慕われてましたけど、特に僕とミキを可愛がってくれて、その内に3人でご飯や出掛けたりするようになって距離も近くなりました。先輩は ‘香坂って…時々寂しそうにするよな。何だか放っておけないよな?園田もそう思うだろ?’と僕に言った事があって、先輩はその時にはミキの家族の事も知らずに居たはずなのに、ミキの本質を良く見てる.この人ならミキを解って寂しい想いはさせないのかも…って、その当時の僕は思いました。先輩は既にミキに惹かれてたんだと思います。ミキも何かと可愛いがり構う先輩に懐いてました。ミキの中でも先輩の存在が大きくなってたんだと思います」
「惹かれあうべくして惹かれあったって事か」
「まあ、そう言われればそうですけど。でも、成宮さんとミキもそうだったでしょ?それに僕がミキを任せても良いと思った人は、その当時の先輩と成宮さんだけです。そして今は成宮さんだけ。先輩は……もう昔の話で。どう言う経緯があったかは知らないけど、ミキを裏切った時点で僕は2度と信用しません! 幾らミキが ‘もう昔の事だから’と言っても‼︎ミキは優しいから…先輩が日本に1ヶ月位しか滞在しないから後輩として相手してるだけですよ」
真琴君に信用されてる事は凄く嬉しかった。
俺自身もミキには愛情を注ぎ信頼されてると自負してる部分もある。
祐一と話してた時に1番気になる事を聞いた。
「ありがと。真琴君から見て……俺と永瀬は似てるか?」
聞きたくないが……聞かずには居られない。
ミキの事を1番長く側で見てきた真琴君の答えが全てのような気がする。
「似てるって言うか……ミキのタイプです」
遠回しに気を使って言ってくれたが……似てるって事だろう。
さっき祐一に聞いた時に胸に刺さった棘がストンッと抜け落ち、そしてその跡には小さな傷が残った気がした。
ずっと気になってたと言うか.俺の中で引っかかってたモヤモヤしたものの正体が解った!
昔の男の永瀬と言う存在やミキの初めての相手、再会してからの2人の距離が縮まった事……それも気になってた事だが……このモヤモヤ…の正体は……永瀬が俺に似てるからだ‼︎
自分でも言うのも何だが、俺は容姿にも自分自身にも自信があるし仕事もできるし多少強引な所もある。
その強引さで、今まで欲しいと思った事ややりたいと思った事は全て上手くいってきた。
この間ミキが永瀬を含め他の先輩達と久し振りに会って話してくれた時に ‘何年月日が流れても仲の良い先輩達を見て、伊織さんや祐さん龍臣さん達もこんな感じだなって思いました‘ と言って笑顔を見せてたが……俺はその時に何かモヤモヤ…したものを感じ始めた。
そうか、あれはあのモヤモヤ…した気持ちは、そう話すミキが永瀬に俺を重ねて見てた気がしたんだ!
その時には解らなかったが、祐一や真琴君が俺と永瀬が似てるって話す事で、あのモヤモヤの正体が解った。
永瀬に俺を重ねたのか?
それとも俺に永瀬を重ねて見てるのか?
そう思うと、これまでのミキとの付き合いに…不安を感じる。
いや、考え過ぎだ‼︎
動揺して変な思考回路になってる‼︎
「成宮さん?」
俺が考えを巡らせ黙ってると真琴君が心配し声を掛けてきたタイミングで書斎のドアがノックされた。
コンッ!コンッ!
「少し待っててくれ」
真琴君に小さな声で話し、スマホをパソコンの陰に隠す。
そしてパソコン画面を見てる振りをした時に、ミキがドアからちょこんと顔を出した。
「伊織さん、まだ終わりませんか?コーヒー入れましたけど、こっち持って来ますか?」
「いや、もう終わる。リビングに行くから」
「じゃあ、待ってますね」
ミキがドアを閉めたのを確認し、俺はパソコンの陰からスマホを取り出した。
「済まない」
「ミキには内緒にしてるんだ」
「まあな。俺が気にしてると解ると、ミキは気を使うだろ。それにこうしてこそこそ祐一や真琴君に聞いてるのを知られるのも情けないし」
「ミキには言わないです。それに気になるのは、どうしようもないですからね。少しは役に立ちました?」
「ああ、俺が知らない事を知れた」
「成宮さん! ミキは成宮さんを愛してます! それは信じてあげて下さい。今の恋人は成宮さんなんですから」
真琴君に励まされ、弱気になってた自分の気持ちが情けなく感じた。
「ありがと。祐一にも礼言ってたって言ってくれ
じゃあ、ミキが待ってるから」
「解りました。また何かあったら連絡下さい。成宮さんの為じゃなくミキの為でもありますから。じゃあ」
最後の言葉は、ミキを崇拝する信者の真琴君らしい言葉だった。
スマホの電話を切り「ふう~~」大きく息を吐いた
色々聞いて、頭がまだ整理出来てないが1人で、悶々と考えるより色々解って良かった。
そして何より俺にはこうして話せる祐一と真琴君そして話しを聞いてくれた龍臣と言う強い味方と仲間が居る。
そう思うと、少し気持ちが晴れると同時に恐怖も少なからず感じてた。
俺に似てる永瀬……そう考えると永瀬の行動や考えが解ってくる気がした。
俺の事は俺が1番解る!
その俺に似てるなら…。
これまでもミキと付き合う中でも色々あったが……初めてミキを奪われる‼︎かもと………恐怖を感じた。
もし仮に…ミキを奪われる相手とすれば……俺に似てる…永瀬だろう。
頭をブンブン…振り、両頬を叩き弱気になりそうな自分を奮(ふる)い立たせた。
俺がミキをどんな事があっても離さない‼︎
この2年余りの付き合いは伊達じゃない‼︎
それだけの愛を注ぎ信頼を得て絆を深めた‼︎
しっかりしろ!
大丈夫‼︎大丈夫‼︎
気持ちを落ち着かせ書斎を出て、そしてミキが待ってるリビングに向かった。
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