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第744話

永瀬との打合せが15時から始まる。 今日は前回の打合せで手拭いの図案が決まり、その見本を見て最終決定する予定にしてた。 たぶん、このプロジェクトはトラブルが無い限り今日で終わるだろう。 そうすれば永瀬と会う必要も無くなる。 会議室には俺も含め田口.ミキと今回は最終打合せだと思い佐藤にも加わって貰った。 そして記念品(粗品)としての手拭い見本とノートパソコン.資料等を机に並べて、俺達は永瀬が来るのを待ってた。 5分前に上野さんから永瀬の来社を内線で連絡あり、永瀬を会議室まで連れて来て貰う。 会議室のドアを開けて直ぐに永瀬が挨拶した。 「今日も宜しくお願いします」 俺達も頭を下げ挨拶した。 「こちらこそ。それでは打合せに入りますから、こちらに座って下さい」 田口が永瀬に席に座るように促す。 「ありがとうございます」 言いながら移動し、ミキを見て笑顔を見せた。 そしてミキも笑顔で返す。 その2人の行動に、俺は確実に再会した当初より距離が縮まってると確信した。 初めての打合せの時には、永瀬と顔を合わせ無いようにさり気なく資料に目を通す振りをしてたが……。 ミキの心境の変化が見て取れた。 そして永瀬が席に着いた所で打合せが始まった。 田口が進行役を買って出て、前回までの確認と今日の打合せ内容を話す。 「では、本日は手拭い業社にお願いしてました見本が届いたので、永瀬さんに見て貰います。最終決定の商品では無いので、まだ細かな所は修正出来ます。意見が有れば遠慮なく仰って下さい。じゃあ、香坂」 今度はミキが田口からバトンを受け話す。 「こちらの2点が前回打合せで決まったプリント画に沿っての見本です。違いとしては、水墨画と言う事で富士山や雲海の濃淡を変えてます。あとは、フェス名の大きさと字体もゴシック体と書体の2種類にしてます。一応、見本はこう言う風にしてますが、色々組み合わせて見て最終的に決めても良いと思います。如何ですか?」 「見本を手に取っても?」 「どうぞ。手に取って構いません」 永瀬は手に取り肌触り.鉢巻風にしてみたり.2つを並べて少し離れて見たりと思案してた。 俺達は黙って、永瀬の行動を暫く眺めてた。 「ん~、どちらも甲乙つけ難い程良い出来です。何パターンか組み合わせて確認しても良いですか?」 田口がノートパソコンを開き、既に見本の画像を取り込んだ画面を開き話す。 「こちらで組み合わせ出来ますから、画像として見れます」 「それは有難い。では、ここをこっちoxoxoxox o……oxoxoxoxox……oxoxox……」 永瀬の指示に従い何パターンかを画像操作し進行していく。 そして3パターンに絞り、それをプリントアウトし最終的に決める事にしたようだ。 「本当に色々ありがとうございます。最初の打合せから提案資料や今日もこうしてサクサク進められるのも、色々下準備とか仕事が早く凄く助かります。もっと時間掛かると思ってたので……貴社と仕事出来て、自分自身も勉強になりました。あと前回の図案を共同開催する他の2社にもメールで確認して貰った所、凄く良いと喜んでました」 良い仕事が出来たと永瀬もこのプロジェクトの終わりが近い事を解ってるようだ。 「こちらも勉強になりました。また新境地が開けこれを良い機会に色々考えていこうと思ってます」 俺も永瀬にそう話すと喜ぶ顔を見せた。 そしてプリントアウトされた画像を机に置き、永瀬が最終決定する。 暫く見比べ考えて居た。 そして1つのプリント画を手にした。 「これに決めました!」 それはフェス名と年号は1番濃い墨で書体にし目立ち、富士山と雲海の間にバランス良い大きさ.そして富士山頂(濃).雲海(淡)幻想的にしフェス名や年号を引き立たせて全体的に良い感じだった。 俺達も納得した。 「それで言い忘れてました。1つだけお願いが… この記念品(粗品)のどこかに3社の社名を入れられたら…。今後の仕事にも繋がる可能性も有りますから」 殆ど決まり掛けてただけに、田口もミキも困惑してた。 もっと早く言えば良いものを……。 永瀬が決めたプリント画を手に取り暫く考えた。 「小さく角(すみ)に社名入れても目立たないだろ?どうせならフェス名と年号の下に3社名を横並びに小さめに入れたら、どうだ?田口、ちょっとパソコンで入れてみろ」 「はい」 田口は早速、永瀬から3社名を聞きスペルを確認しながら入力し、画像操作し社名の大きさなどを思案しパソコンを覗き込む永瀬と決めてた。 また、プリントアウトした。 永瀬はそれを受け取り満足する顔で見てた。 「良いです‼︎ これでいきます‼︎」 決定したか‼︎ 田口.ミキ.佐藤も満足気な永瀬を見て、自分達の仕事に満足し皆笑顔を見せた。 「香坂、決定したプリント画像を手拭い業社に送って、どのくらいの納期か確認の電話掛けてこい」 「はい」 俺に指示され、田口からノートパソコンを受け取り会議室を出て課に戻った。 ミキが戻るまで、田口.佐藤.永瀬と雑談が始まり俺は資料を見ながら聞いていた。 10分程で、ミキが会議室に戻って来た。 「どうだった?」 「画像を見て特に問題は無いようです。この画像プリントで、もう1度見本を作って送ってくれるそうです。納期は1ヶ月位は欲しいと言ってました。今、他の仕事が入ってるらしく。11月中旬か末、遅くとも12月初旬にはうちに納品すると言ってました」 4月のフェスだ、充分に間に合う。 ミキの報告を聞いて俺は永瀬に確認する。 「それで良いですか?弊社としては年内にアメリカ支社向けの荷物に乗せます。永瀬さんにも荷物の一報は入れますが、後は弊社のアメリカ支社とやり取りお願いします。アメリカ支社には、今回の件は既に話しは通してますから」 「納期は充分間に合います。何から何まで、ありがとうございます」 「香坂。後で、手拭い業社に連絡頼む」 「はい」 これで今日の打合せは終わりだ。 今日で終わらせるつもりが、もう1度最終見本で顔を合わせる事になるのか。 たが、確認だけだし時間は掛からない。 会議終了と言う雰囲気が漂う。 最後に、俺は永瀬に今後の事を話した。 「永瀬さん、今回は突然だった事でもあり、うちの課で受けましたが、本来はアメリカ支社を通す案件です。これから先々毎年のように開催すると言う事でしたら、土台は今回で出来たでしょうから、来年からはアメリカ支社と打合せお願いします。弊社の都合で申し訳無いですが」 アメリカ市場で展開する仕事なら本来はアメリカ支社で決定した事を日本の業社に連絡と依頼するのが俺達の本来の仕事だ。 社内でプロジェクトを組みアメリカ支社に提案し市場に売り込むのも仕事だが…手拭い洗顔.籠バック.ヘルシー食等が今までの実績だ。 これはミキとの事とは関係なく会社組織として話してる。 「すみません。アメリカで探す事はしてみたりしたんですが、どうもしっくり来なくて。やはり日本の物は日本でと考えて……。こちらこそ突然押しかけ……他で断られたのに、仕事を受けて貰った事に感謝してます。成宮課長が話す通り、土台が出来れば後は大丈夫です。実は、プリント画を見せた他の2社と‘これからは手拭いで絵を変え.年号を変え、この商品スタイルで毎年記念品作ろう’と話してたんです。相当気に入ったみたいで。それに毎年開催し、これを収集する人も出来てくれば良いと考えてます」 俺も同じ事を考えてた。 毎年記念品を色々変えるより、逆に構図を変えた方が収集家が出来るだろうと思ってた。 日本的な物は欧米人には好まれるからだ。 それに今回は予算ギリギリで利薄だが、それでも良い商品が出来た。 この1度きりで終わらせるのは勿体ない、シリーズ化した方が良いと考えてた。 最後にその事を提案しようと思ってた所だった。 永瀬が話してた毎年開催を目指し、そして大きなフェスにしていくと言う目的と今は水墨画風だが少しずつメジャーになり、そして少しずつ色をつけていけば……それも面白いと思う。 永瀬の考えと俺の考えは同じだった。 似たような性格で……今の段階では仕事絡みだが考え方まで似てるのか⁉︎

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