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第746話

「皆んな、ビールはあるな。本来は、もっと早く親睦会をするべきだったが…。打合せもひと段落つき、後は、最終確認のみとなった所で遅くなったが一席設け、永瀬さん達のフェスが今後知名度も開催規模も大きくなり我が社にも大きな利益を齎すと信じて…乾杯! 今日はお疲れ」 『乾杯~!』 「ありがとうございます。期待に添えるよう頑張ります。乾杯!」 会社近くのいつも利用するたぬ吉の個室で俺の音頭で始まり、皆んなもジョッキを合わせ、永瀬も礼の挨拶をし乾杯し親睦会と言う名の飲み会が始まった。 俺が上席で左側に永瀬と田口が横並びに座り、右側には佐藤とミキがやはり横並びに座った。 ミキは店員に飲み物や料理などの遣り取りの為に下っ端の自分の役目と、いつも出入りの近くに当然のように座る。 座席の指定はして無いが……永瀬の隣に田口が座ってくれて良かった。 田口辺りが気を利かせ、先輩後輩で永瀬が話し易いだろうとミキを永瀬の隣に座らせる可能性もなきにしもあらずと考えてたが、俺の考え過ぎだったな。 「ん~~美味い! 仕事終わった後の一杯! 最高っす!」 お調子者の佐藤がそう話すと、透かさず田口が突っ込む。 「お前、今回なんか仕事した?」 「酷いっす。皆んなの為に、たぬ吉に電話したの俺ですよ。それも立派な仕事です」 「それも課長の指示だろーが」 「香坂~、田口さんが虐める~」 隣に居るミキに泣き真似をし、戯けてミキを盾にしようとする。 ミキは困った顔をしながらも笑ってた。 やはり佐藤が居ると雰囲気が明るく賑やかになる 本当にムードメーカーだな。 佐藤の良さの1つだな。 「田口、弄るのもそれくらいにしてやれ。佐藤には他にも仕事して貰ってたからな」 「やっぱ課長っすね。優しいっす。どっかの誰かさんと大違い!」 「おい! どっかの誰かさんって誰の事?」 「ん~~誰だったかな~」 俺が間に入っても、2人の掛け合い漫才の遣り取りは続く。 ま、俺達にとってはいつもの事だがな。 「おい.おい。今日は永瀬さんも居るんだ。すみません、いつもこんな感じなんで」 田口と佐藤に一言話し、蚊帳の外に居る永瀬に声を掛けた。 「仲が良いんですね。打合せの時も凄くチームワークが良いなぁ~と思ってましたけど」 「まあ、仲は良い方だとは思いますよ。人数も少ないですし、でも仕事はなあなあではしません。課長もそこは厳しいですからね」 「大人数だと意思疎通がいき渡らないですからねま、私としては少数精鋭って思ってます」 俺が皆んなの事を褒めると、一同に嬉しそうな顔を見せた。 「所で、永瀬さん。あと、どのくらい日本に滞在出来るんですか?」 佐藤の質問に永瀬が答える。 「予定では2ヶ月程滞在する事になってます。あと3週間位かな。延びても1週間ですかね。フェス開催の記念品(粗品)の協力会社を探し商品にするまでが、今回日本に来た目的ですしお陰で思ったより早く終わります」 滞在期間があと3週間位と言う永瀬の言葉に俺はミキの反応を見て居た。 一瞬、顔が強張った気がした。 俺の気の所為か。 先輩の滞在期間があと3週間と聞いて、俺は…寂しく思った。 また、会えなくなるんだ。 ただ純粋にそう思った。 それから日本滞在中の永瀬の仕事の事やなかなか帰国出来ずに疎遠になってた友人や知人に会ってる話をしたりして居た。 会社で偶然ミキに会った話になり、ミキも話しに加わり学生の時の話も少し出た。 世間話程度だったが、会社の飲み会ではそんなものだろう。 そして田口がアメリカでの話を聞くと憧れと気力だけはあったが、実際渡米してからの現実の厳しさと苦労話しを少し話す永瀬の話を聞いて、俺もアメリカ支社に転勤になり言葉や文化の違いに苦労した事を思い出した。 あまり多くは語らなかったが、永瀬の当時の気持ちは俺には解る。 また1つ永瀬との共通点が見つかった。 酒が進むとやはり独身男性だけと言う事と恋愛話が好きな佐藤が居る事もあり、自然な流れで恋愛話しになった。 「永瀬さんは恋人は?」 「佐藤、居るに決まってるだろ。モテるだろうし」 永瀬は佐藤と田口に苦笑しながら、そしてチラッとミキを見た気がした。 「そんなにモテませんよ。今は恋人は居ません」 「勿体ない。俺が永瀬さんなら、選り取り見取りで入れ食い状態なのに。理想高いとか?」 「へえ~、佐藤は選り取り見取りで入れ食い状態が望みなんだ。ふ~ん、無理だろ」 田口の嫌味に佐藤は急に恐縮し 「違うますよ。例えば話ですよ。で、永瀬さんはどう言うのがタイプ何ですか?」 「タイプって言うか。可愛いより綺麗系かな。外見より性格が素直で可愛い人が良いですね。皆さんは恋人いらっしゃるんですか?」 「居ません」 「私も前の彼女と別れてからは居ませんね。ま、仕事も面白いし今は仕事優先って感じですね」 「成宮課長や香坂は?」 俺をチラッと見て、それから小さく答えた。 「…えっと…居ませんよ」 「香坂には先輩を差し終えて作るなって話してるんです」 「それってパワハラ?」 「え~~! パワハラになるんですか?香坂、嘘.嘘。先に作っても良いぞ」 「佐藤さん、大丈夫です。俺も田口さんと一緒で今は仕事が優先ですから」 佐藤の慌て振りに笑いが起こり調子に乗った佐藤は勝手に俺の事を話す。 「成宮課長には素敵な恋人が居るんですよ。普段はプライベートの話しはしないんですけど、偶に惚気たりするんですよね~」 「おい、佐藤。酔ってんのか?いつ、惚気た?」 「前に、どんな人って聞いた時に ‘綺麗なのに優しく素直で可愛い’とか ‘俺には勿体無い。ベタ惚れだ’ とか言ってましたよ。その時に、課長にこんな事言わせるって、どんな人なんだろうって思ったんで印象に残ってるんですよ」 「そんな事言ったか?まあ、本当の事だしな」 俺はチラッとミキを見ると、少し頬が赤く照れてビールを飲んで居た。 頬が赤いのは酒のせいか?それもあるが照れてるんだろうな。 可愛い~奴だ。 追い討ちを掛けるように田口も話してきた。 「そう言えば、旅行のお土産頂きましたよね。その時に、上野さんが言ってました。‘私にも個人的に頂いた上に皆んなで食べて下さいってお菓子まで頂いて、彼女さんの気遣いですかね。本当に良くできた彼女さんですね’って。やはり彼女さんの気遣いですか?」 確かに、ミキに土産を渡され皆んなに配った。 俺だけなら菓子で済ませるか.土産すら持って行かなかったかも知れない。 自分の恋人を褒められ嬉しくないわけがない。 「そうか、上野さんがそんな事を。まあな。俺には気付かない事を良く気付いて気遣いや何でも一生懸命なんだよ」 「やはり!」 「また、惚気ですか。課長にこんな言葉言わせるなんて会って見たいです。写真とかないんですか?」 俺はまたミキをチラッと見たが、やはり頬を染め照れ隠しにビールを飲んで誤魔化してた。 「あっても見せるわけないだろ。見せたら見せたで、今度は会わせろって言うに決まってる。もう俺の話は終わり! 今日は永瀬さんとの親睦会なんだからな。すみません、内輪話しで」 「いいえ、私も話を聞いて羨ましいと思いました 成宮課長がベタ惚れって言う位ですからね。佐藤さん達が興味深々になるのも解ります」 「永瀬さんは今は恋人居ないって仰ってましたが好きな人とか居ないんですか?ま、永瀬さんからアプローチされたら、直ぐに恋人できるんでしょうけど」 佐藤、良く聞いてくれた。 俺が気になってた事を次々と聞いてくれる。 「好きな人って言うか.忘れられない人なら居ますけどね。あの、佐藤さん俺の事持ち上げ過ぎですよ。そんなにモテませんから。佐藤さんこそモテるでしょう?」 ‘忘れられない人’って言うのは……ミキの事か?それとも渡米してから知り合った人なのか? 上手く交わされて話の矛先を佐藤に向け突っ込む事もできない。 「まあまあですね。どっちかと言うと皆んなで騒いで楽しみたいタイプなんで」 「昔は合コン好きで困ったもんだった。なあ、香坂」 「あっ、はい。佐藤さんは女性には優しいですし一緒に居て楽しいからモテますよ」 「香坂、俺の事良~く理解してくれてる。流石、直属の後輩だな」 「どっちが先輩か後輩か解らない時があるがな」 「またまた~。直ぐにそんな事言うんだから。俺、泣いちゃいます」 戯ける佐藤に笑いが漏れる。 本当に佐藤はこう言う場には欠かせないな。 場を和ませ話題を次々と出し盛り上げてくれる。そして、また仕事の話しに戻り宴会時間まで過ごし、最後に永瀬のフェスの成功と発展を願い宴会は終了した。 たぬ吉を出て、明日も仕事と言う事で次には行かず帰る雰囲気だった。 「香坂、一緒にタクシーで帰らないか?」 課で飲んだ後は帰る方向が一緒だと知ってる佐藤と田口はいつもの事だと気にも留めない。 「良いですか?」 「帰る方向一緒だろ?電車乗るの怠いからな」 「じゃあ、お願いします」 一応、皆んなの手前そう話す。 「んじゃ、俺達は電車で帰ります。永瀬さんも電車で帰ります?」 「はい」 「じゃあ、課長.香坂。明日」 「お疲れさまでした」 「今日はわざわざ会を開いて頂き、ありがとうございました」 「いいえ。じゃあ、気を付けて。佐藤.田口、明日な」 『じゃあ、お疲れ様でした』 俺とミキがその場を立ち去ると、皆んなも駅の方向に歩いて行った。 永瀬が振り返り、俺とミキを見てたとは気が付かなかった。 帰りのタクシーの中で無言だったが、こっそり手を繋いで居た。 俺は永瀬に現在恋人が居ない事や忘れられない相手がミキなのか?考えてた。 そして仕事以外で面と向かって話して見て……祐一や真琴君が ‘俺に似てる’ と言った意味が解り、 ミキが俺の中に永瀬を見てるんじゃないか?と一抹の不安が心の奥に広がりつつあった。 先輩が ‘今は恋人居ない’ その ‘今は’って言葉が引っかかってた。 アメリカで恋人が居たと言う事? 俺と音信不通になって……別れた理由はやはり心変わりだった? 忘れられない人って、その人なんだろうか。 先輩の話にズキッとしたりチクッとしたり気持ちが下降し、伊織さんの恋人自慢に恥ずかしくなって照れてしまったけど、やっぱり嬉しくて気持ちが浮上したりと何だか気持ちが安定して無かった 別に、先輩とは何も無いけど…伊織さんと先輩が仕事以外で一緒に居ると、どんな顔で居れば良いか困惑してた。 佐藤さんのお陰で乗り切れた。 はあ~、疲れた宴会だったな。 それぞれの複雑な気持ちのままタクシーは2人の愛の巣へ向かった。

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