747 / 858

第749話

東京駅構内で、教授宛のお土産を探す目的であっちこっち歩き、偶に、お土産以外のお店にも入り物色する。 お土産買うんだよね? 物珍しいのか?先輩は色々な店に足を運び楽しそうだ。 俺は2~3軒を見て歩き、てっきり直ぐに決めるものだと思ってた。 これじゃ……まるでウインドゥショッピングしながら……デートしてるみたいだ。 でも………先輩、楽しそうだし……そんな先輩を見てると……何も言えないな。 こうやって良く2人で買い物や映画に出掛けたな~ 懐かしいな~。 大学に一緒に行くって決まって……俺達もあの頃に戻ったみたいだ。 先輩の懐かしい声.話し方.笑い方…隣で、一緒に歩き話す先輩はあの頃のようだった。 ‘迷ってる’ と言ったお土産は、東京駅にしか売ってない限定のお菓子を薦めた。 そのお菓子を買うと、先輩は「良い日本酒もさっきの店にあったから、それも買う」と言い、手土産なのに2つも買ってた。 もしかして…既に、日本酒を手土産に買う事に決めてた? それなら迷う必要はないはず……俺の思い過ごし? 「ミキのお陰で良い手土産を買えた。これなら教授も喜んでくれる。ありがと~な」 笑顔で話す先輩を見てたら……やはり思い過ごしなんだろう。 「良かったです。時間は大丈夫ですか?」 「あっ! 教授に会う前に、大学構内見て歩きたいからな。そろそろ行こうぜ!」 「はい」 手土産片手に持つ先輩と一緒に、そのまま電車に乗り大学まで行く事にした。 電車の中でも懐かしい風景が見えてくると、自然と話も弾む。 そして大学に着き構内に足を踏み入れた。 「うわぁ~、懐かしい♪」 「もう何年も経つのにな。建物やキャンパスは全然変わってないな」 チラホラ居る大学生が構内を歩いてる。 「俺達、浮いてないかな?」 「俺はともかく。ミキは大丈夫だ。そうやって私服着てると、ミキも大学生に見えない事もないって」 「その言い方……微妙」 「大丈夫.大丈夫!」 俺の背中をバン.バン叩き笑って話す。 「さてと、歩いて見て回ろう」 先に歩き、懐かしい思い出の場所を見て回った。 待ち合わせに使ってた片隅にあるベンチ. キャンパス内の大きな木々と緑.広大な運動場.体育館.売店.食堂.カフェテラスetc……全てが懐かしく思い出がある。 学内の教室を見て回り、サークルで使用してた部室を見に行く。 俺達の1番の思い出の場所。 ドアを開き中を見ると懐かしく感じた。 小道具や衣装、紙芝居.絵本とまだ俺達が使ってた物も有れば新しい物も沢山あった。 「先輩! この絵本…まだ使ってる。あっ!この紙芝居も」 「懐かしいな。施設の子供達に良く読み聞かせしてたよな」 「うん! 子供達、凄く喜んでくれてた」 「おっ! これ、お姫様衣装か?流石に、俺達の時のは無いか。いつもミキがお姫様役だったな」 「嫌だって言ったって、皆んな面白がって…」 「いや、ミキよりお姫様役が似合う奴なんて居なかった。女の子達でさえ、ミキのお姫様の格好見たがってたんだからな。綺麗だったな」 軽口から……最後の方は隣に居た俺を見て、そして頬に手を当て真剣な口調に変わった。 あの頃と変わらない俺の頬を触り撫でる手は先輩の癖だ。 この場所が、あの頃の俺達を思い出させる。 付き合ってた時は……その仕草が大好きで、その手が好きで……俺も頬を押し付けるようにしてた…けど……今は……。 俺はさり気なくその手から離れ、部室内を見て回った。 そんな俺を先輩が苦笑してた事は知らなかった。 懐かしい物を見つけ話し、今の活動計画が貼ってる紙を見つけ自分達の時の事を話してた。 「やべぇ~、そろそろ教授の所に行かねーと」 「待ってらっしゃるかも。早く行って下さい」 なかなか来れなかった大学も見て回れたし、先輩とはここまでと思ってそう話す。 「なあ、ミキ。ここまで来たんだから、教授に会あうぜ。教授も俺1人より喜ぶし。な、行こうぜ」 「えっ! でも……」 まだ返事もしてないのに、先輩は俺の腕を掴んで部室を出る。 俺は部室を出る前に、最後にもう1度懐かしい部室内を見た。 そして先輩に半端強引に連れられ学内の廊下を歩き、教授の居る研究室(教授室)に向かった。 先輩…本当に強引なんだから。 こう言う所も変わってない。 教授に会うつもりは無かったけど……ここまで来んだから……懐かしい教授に会って帰ろう。 そのくらいは良いよね。 腕を引っ張られ歩く俺をまだ学内に居る学生は不思議そうに見てる。 「先輩! 手を離して下さい。一緒に行きますから」 ピタッと止まり、俺を見て 「本当か?帰らない?」 「帰りませんから。先輩が言うようにここまで来たんだから、折角だから教授に会ってから帰ります」 そう言うと、手を離し嬉しそうに笑った。 「でも、俺……何も持って来てない」 先輩は持ち歩いてた手荷物を掲げた。 「ここに2つある。1つはミキからって事で」 「先輩……最初から、そのつもりで」 「そうじゃない.そうじゃないって。最初からじゃなく途中から…かな。土産を物色してて…ミキも教授に会ってくれればな~って。ま、良いから、行こうぜ」 先に歩く先輩は何だか嬉しそうだ。 何だかここまで…先輩に振り回されてるような… そう思いながら後に着いて行く。 コンッ!コンッ! 研究室に行き部屋に入ると、教授はデスクに向かい何やら書類を書いて居た。 そして俺達を見ると目尻を下げ嬉しそうに笑う。 うわぁ~懐かしい! でも、やっぱり歳を感じた。 目尻の皺や白髪が増えた気がする。 「永瀬、元気だったか?ん、香坂か?香坂も来てくれたのか?」 「ご無沙汰してます。教授もお元気そうで」 「先輩に着いて来ちゃいました。ご無沙汰してます」 「いや~、こうして卒業生が会いに来てくれるのは教職冥利に尽きる。嬉しい事だ」 本当に嬉しそうに話す教授を見て……来て良かった!と思った。 そして手土産を渡し、ソファに座り暫く近況報告し合う。 20分程で、教授が立ち上がり 「じゃあ、飯でも食べに行って、そこでゆっくり話そうか」 「はい! 是非!」 「………俺は」 「香坂はダメなのか?予定でもあるのか?」 教授の残念そうな声に…申し訳なくなり迷ってると。 「香坂、特に予定無ければ行こう‼︎ 教授と飯食いに行くのも滅多に無いし。な?」 「………でも」 「予定があるなら、無理強いはしないが」 俺の返事があやふやな事で、教授が気を使った事が解り、尚更、申し訳なく思った。 「いいえ、予定は特にありませんが。ただ、俺も一緒に行って良いのか?と」 「そんな事か。1人増えようが関係無いし、卒業生と飲めるのも嬉しいもんだ」 嬉しそうな教授に俺は断れずに一緒に夕飯を食べに行く事になった。 そして伊織さんには、先輩達の目を盗んでこっそりLINEした。 伊織さんにLINEで教授と先輩と夕飯を食べに行く報告した事で、少し伊織さんへの罪悪感が自分の中では軽くなってた。 先輩から連絡あってあれよあれよ…と、予想外の展開になっていった。 先輩がそうなるように仕組んで居たとは思わなかった。

ともだちにシェアしよう!