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第751話

ほんの少しの間……見つめ合い……黙ったままで居る事に耐え切れず、俺は動揺しながら言葉を発した。 「な.何?」 俺の動揺してる気持ちが解ったんだろう先輩はクスッと笑い、そしてまた真剣な目で見て徐ろに手を伸ばしてきた。 「やはり綺麗だなって思ってな」 そう言って先輩と再会してから幾度となく俺の頬を触る癖で、やはり俺の頬を触り撫でた。 ドキドキ……が止まらない。 そして、その手を拒めずに居た。 「そんな事ない…です」 「今まで会った時は仕事仕様の格好だっただろ。それでも見る人が見ればミキの美しさは解る。この間会った時にもそう思ってたが、今日は……私服で眼鏡も無い素のミキだろ。やはりこっちの方が良いな。あれから何年か経ったが……大人になって色っぽくなり綺麗さが増したな」 何だろう? 口説かれてるのかな? それともただ単に……数年振りに会いお世辞? 先輩の真意が解らないけど……先輩が何か話す度にドキドキ…が大きくなる。 「先輩も大人になって逞しさと男らしさに磨きがかかり……増して格好良くなって…」 「ありがとう。ミキにそう言って貰えると嬉しい」 本当に嬉しそうに笑い相変わらず頬を撫でてる手を止めない……俺はされるがままにしてた。 その手が懐かしくなり……思わず頬を押し付けてしまいたくなる。 酔ってるのかも⁉︎……お酒とこの雰囲気に。 「ミキ……今…付き合ってる人は…居るのか?」 先輩が聞くか聞くまいか迷うように、途切れ途切れに聞いてきた。 なぜ?そんな事聞くの? 再会してから今まで聞かなかったのに……お互い恋愛話は意図してなのか.無意識なのか避けていた 「…居ます」 俺は嘘はつけないと正直にドキドキ…しながら答えた。 俺の返事を聞いて撫でてた手をピタッと止め…そしてもう1度だけ指の背で撫で離れていった。 なぜか?その離れていく手に寂しさを感じた。 先輩は赤ワインをグッと飲みカウンターに両手を乗せ、手を握り考え込むような感じで話し出す。 「相手は……女?それとも……男?」 先輩と付き合う前は女の子としか付き合って無かった事を知ってる先輩は俺がまた女の子と付き合ってると思ったのか?言葉に間が空いて、男と聞いたのは…男の自分と付き合えた事で他の男の人との可能性もあると考えたようだ。 男の人と付き合ったのは…先輩が初めてで……先輩と離れてからの俺の事は知らないはず。 何て答えよう。 一瞬迷った自分は何?……伊織さんに申し訳無く思った。 そして俺はまた正直に話した。 「…男性です」 先輩の肩がピクッと動き一瞬黙り込む。 「………どんな人か聞いて良いか?」 聞いてどうするの? この遣り取りに、何の意味があるの? 「俺には無いものをたくさん持ってる人です。男らしく行動力があって、少し強引な所もありますけど凄く優しいです。頭も切れて仕事が出来…凄く尊敬と信頼出来る人です。そして何より俺を愛してくれて言葉にも行動でも示してくれて……。俺…直ぐに内に秘めちゃう所があるから、凄く解り易く安心できます。俺には勿体ない人です」 ドキドキ…しながらも、仕事相手という事で伊織さんの名前は出さずに思ってる事を正直に話した 惚気と思われたかな? 少し恥ずかしいのと先輩にこんな事を話さなきゃならないのか?と思う気持ちとで、何だか複雑な気持ちにされた。 それと、もう1つ……自分で言ってて前半の方は先輩にも当て嵌まると気が付いた。 そう言う点では、先輩と伊織さんは性格的に似てるのかも……俺は今の先輩は知らないけど…学生の頃の先輩はそうだった。 変わっただろうか? 「先輩は?」 これ以上は突っ込まれたくなくって、先輩に話題を振った。 「俺?今は決まった相手は居ない。寂しいもんだ」 さっきの重苦しい雰囲気から変わり明るくそう話す。 ‘今は’……そう言った先輩の言葉にチクリッ!と胸が痛んだ気がした。 何、今の⁉︎ 俺と別れて何年も経ってるんだ! こんなに格好良い先輩なら……付き合ってた人は何人か居ただろう。 大学の時もモテてたし俺と付き合う前には何人かと付き合ってたのも知ってる。 それに……今の俺には関係無い事だし…。 「先輩なら…直ぐに素敵な人が出来ますよ」 一般的な事を言ってしまった。 先輩は組んでた手を離しワインを飲んで、そして俺を見つめた。 「素敵な人か……何だか、ミキに言われると辛いな」 そう言えば会社の懇親会の時に…‘忘れられない人が居る’って言ってた。 まだ、その人の事忘れられないのかも……そう思うと……またチクッ!と胸が痛む。 どんな人何だろう? 俺と別れてから出会った人? だから、俺に連絡しなくなり……その人を選んだって事? 色々頭を過ぎるけど……今更だ。 「幸せか?」 短い言葉で真剣に聞く先輩。 「はい」 「そうか……。幸せか………俺がそう言わせたかったな」 最後の方は口籠良く聞こえなかった。 「何ですか?」 「いや、何でも無い。幸せなミキと寂しい俺とでもう1度乾杯しよう」 笑って話す先輩に俺も微笑みグラスを傾けた。 先輩から漂う雰囲気が変わった時には戸惑ったけど……恋愛話も動揺した……訳の解らないドキドキ…と胸の痛みもあったけど……最後には、こうしていつも明るくしてくれる先輩はやはり昔と変わらないと思った。

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