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第752話
「ただいま~」
…………。
返事が無い事に、不思議に思った。
ん、居ないのか?
リビングに入り「ミキ」と呼んでも返事も人の気配も無い。
「買い物か」
てっきりそうだと思い、ジムで汗を掻いた体をさっぱりしたいとそのままシャワーを浴びる事にした。
さっぱりした体で髪を拭きながらリビングを通りキッチンに行き、冷蔵庫から水のペットボトルを取り出しゴクゴク…飲み、そのままソファにドサッ!と座った。
結構、自分でも体を苛め抜き追い込んだ。
疲れたが、これで体も大分軽くなった。
「ふう~」
カタッ!
持っていたペットボトルをテーブルに置くと、紙が乗ってた事に気がついた。
ん、何だ!
目を通し読んでいくにつれ、紙を持つ手に力が入っていく。
はあ‼︎ 何で⁉︎
今時、道に迷う奴居るか⁉︎
スマホもあるし、近くの人に聞いても良い!
そんな事、普通の大人なら解りそうなもんだ‼︎
……優しいミキの事だ、困ってると思って慌てて出て行ったのかも……それはあり得る。
俺は ‘永瀬にやられた‼︎’ と、憤りと不愉快な思いが込み上げてきた。
今までは平日にミキを誘う事が殆どで、休日に誘う事が無かった為……油断してた‼︎
くそぉ~!
ミキの性格を知ってるなら……どうすれば断れなくする事は容易に考えつく。
ミキの優しさにつけ込めみやがって‼︎
俺と似た性格なら……やりそうな事だ‼︎
俺自身、同棲してる事に油断と甘さがあった。
それでも、この置き手紙を読むと直ぐに帰って来るようだと少し安心もしてた。
ミキが帰って来た時に、このイラつく気持ちで迎えるのもな。
気持ちを落ち着けろ‼︎
直ぐに帰って来る‼︎
良し‼︎
イライラ…して待ってるのも精神的に良く無いとソファに横になり落ち着くようにリラックスする事にした。
それでも今頃何してるのか?
やはり考えてしまうが、ジムで苛め抜いた体は疲れを感じ休息を欲していたお陰で少しずつ睡魔に襲われていった。
「ん……んぁ」
目覚めた時には日も沈んで部屋の中は暗かった。
どれくらい寝てたのか?
まだ、ミキは帰ってないのか?
部屋の電気を点け時計を見ると、寝てたのは2時間弱位だった。
道案内なら幾ら何でももう帰って来ても良いはず
……何かあったのか?
連絡が無いか?スマホを確認するとLINEが入ってた。
LINEでの連絡に嫌な予感がした。
LINEを開いて見ると、成り行きで永瀬と一緒に大学に行きお世話になった教授に会って、そのまま3人で夕飯食べて帰る事と俺の夕飯の心配をし謝りのLINEだった。
カタッ‼︎
スマホをテーブルに置き落胆し、ソファに深く座り天井を見た。
今頃は飯でも食ってる頃だろう。
なぜ、道案内から大学に行く事になったのか?
LINEだけじゃ全然解らず説明不足だ。
電話を掛けようか。
LINEしようか。
迷い……止めた。
一応、ミキから細かな経緯は書いて無いが連絡はきてるし、永瀬と2人っきりではない事に取り敢えずは安堵してた。
ま、教授と一緒なのがまだ救いだ。
嘘が吐けないミキの事だ、これは疑う余地は無いと判断した。
ミキを疑う事は無いが……疑わしいのは永瀬だ!
道に迷ったとミキを呼び出し、なぜか一緒に大学に行く事になり教授との食事……この一連の流れが意図的に永瀬が画策したんじゃないか?と俺は睨んでる。
確信犯だろう⁉︎
俺と永瀬の性格が似てるとするならば、永瀬の考えてる事や姑息な手段も俺には何となく解る。
強引にされると弱い(素直で順応な)ミキの性格を熟知していれば……俺が永瀬の立場なら…同じ事をするからだ‼︎
それとなくミキを誘導して断れ無い状況を作ったに決まってる。
その証拠にLINEには ‘成り行きで……’と書いてあった。
ミキとしては予想外の事だったんだろうと解る。
またしても……やられた‼︎
くそぉ~‼︎
腹が立つと、腹も減ってくる。
俺はどうせ夕飯は1人だしと思い、キッチンに行き冷蔵庫の中を見たが作るのも面倒でカップラーメンを食べる事にした。
ズルズルズル~…ズルズル~……
一人虚しくカップラーメンを啜りながら、今頃は美味い飯でも食べてるんだろうな。
LINEの時間から見ても…あと1時間位で帰って来るだろうと思って居た。
シャワーも浴びたしカップラーメンも食べたし、何もする事が無くボーっとTVを見て時間が経つのを紛らわしてたが、あと1時間位で帰って来るだろうと思ってた俺の予想も外れ、なかなかミキは帰って来ないしあの後からの連絡も無かった。
教授との夕飯って、そんなに時間掛かるか?
友達や同僚などの気安い間柄なら盛り上がり時間も忘れるのは何となく解るが……。
連絡も無い.帰っても来ない……一緒に居る永瀬の事を考え悶々としてた気持ちがイライラ…に変わってくる。
何やってんだ~‼︎
あ~、イライラ…する‼︎
くそぉ~‼︎
キッチンに行き、冷蔵庫の中を開けビールを手に取り、またソファに戻る。
プラトップを開けプシュッ‼︎と良い音がした。
時間をチラチラ…見たり、黙って待ってるのも…色々余計な妄想をしてしまう自分が嫌で酒に逃げるようだが…実際…逃げてるんだろう。
1本だけ。
グビッゴクゴクゴク…ゴクゴク……
一気に半分近く飲んだ。
それでもなかなか帰って来ない事と連絡無い事にイライラ…し、そしてビールの本数が自然と増えていった。
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