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第753話

マンションに着いた時には、23時近かった。 思ってたより遅くなっちゃった。 伊織さん、心配してるよね。 あ~ごめんなさい。 心の中で詫びて玄関ドアを開けた。 「ただいま~」 ………。 返事が無い。 寝てるのかな? 急いでリビングに入ると、部屋は明るかったけど伊織さんの姿が見当たらない。 やっぱり寝たんだ。 寝室に行って様子見ようとした時に、ソファに横になって寝てる伊織さんの姿を見つけた。 こんな所で寝ちゃって。 ん?テーブルには缶ビールが3本置いてあった。 いつも飲むとしても1本位しか家では飲まないのに……。 珍しいとは思ったけど、この時の俺は伊織さんの気持ちを全然考えて無かった。 「伊織さん.伊織さん」 肩を揺り動かすと、ゆっくり目を開けた。 「ミキ、帰ったのか?俺、また寝たんだな」 「遅くなりました。今、帰って来ました。珍しく結構飲んだんですね」 今、帰った? 時計を見ると23時近い…。 本当は…遅くなった事への文句の1つも言いたい所だが……幾ら、同棲してても一々帰りの時間をグダグダ…言うのも……大人気(おとなげ)無い気がした。 「ああ、偶にはな。それで、永瀬はどこで道に迷ったんだ?」 「それが……俺の早とちりって言うか.勘違いしてたみたいで」 「はっ! どう言う事だ?」 「先輩から電話あって ‘迷ってる’って言ってたので、何年振りかの日本で色々変わってるからと。だから、てっきり道に迷ってると思って急いで行ったら……大学教授に会う為の手土産を何にするか迷ってたみたいで……俺の早とちりでした」 ミキの話を聞いて……やられた‼︎と思った。 勘違いさせる言い方をわざとしたんだ。 まんまとミキは嵌ったって言う訳だ。 やはりミキの性格を良く熟知してる‼︎ それから大学内を見て行こうと誘われた事や教授にも会う事になり夕飯に行く流れになったとミキから説明された。 全て、永瀬の計画的策略だろう。 くそぉ~‼︎ 永瀬は何がしたいんだ⁉︎ 自分から音信不通になり、再会したからと言って今更何だ‼︎ ミキもミキだ‼︎ そんな奴に付き合ってやる事無い‼︎ 昔やられた事を考えるなら拒絶しても良い位だ…が、ミキにはそんな事は出来ないんだろうな。 そんな性格も永瀬は利用してる。 説明するミキからは嘘は見当たらない。 少し頬が赤らみ酒臭い。 「夕飯食べた後はどうした?」 「………駅で教授を見送り帰るつもりだったんですが……先輩がもう少しだけ飲みたい!って…」 「2人で行ったのか?」 「……はい」 どう言うつもりで……永瀬に強引に誘われたからか? 別れた奴と2人でって! これが永瀬じゃないなら、まだマシだった。 ‘ミキ’っと呼ぶ永瀬じゃなかったらな。 「……昔、付き合ってた相手と2人で?ミキは永瀬をどう思ってるんだ?」 永瀬と再会してからずっと聞きたいと思ってた本音が少し出た。 「2人で行った事はすみません。でも…伊織さんが考えてるような事は何も無いです」 「俺が考えてる事?」 意地悪な言い方だと自分でも思った。 「……先輩とは終わったんです。もう、昔の事だと思ってます。それは本当に、そう思ってます。もう会う事も無いと思ってたし、偶然の再会で正直戸惑ったりしました……ただ……」 「ただ…何だ?」 「誤解しないで欲しいんですけど……。正直に言います」 ミキの話が何なのか……胸がモヤモヤ…する。 俺も悪い方へ悪い方へと考えてしまう。 今まで聞く事はしなかった…いや、避けてたのかも知れない。 永瀬と再会して……気持ちが揺れてるのか? 聞きたいが……聞くのが怖い‼︎ 大丈夫.大丈夫‼︎と自分に言い聞かせてきたし、ミキを疑うな! 信じろ!って思ってるが、心の奥底ではやはり不安だった。 「言ってみろ」 虚勢を張ってるが、ミキの話す内容を聞くのが…怖い! 「……先輩と偶然に再会した時にドキドキ…しました。最初は突然の事でドキドキ…してるんだと ……でも……会う度に胸がチクッ!としたりドキドキ…したりするんです。それが何か……自分でも良く解らないんです。先輩、また渡米したら…また会う事が無くなると思います。だから…今…このドキドキ…する意味を知りたいんです。もう、先輩とは自分でも終わった事だと思ってます。本当に、そう思えたのは伊織さんの存在のお陰です愛してるのは伊織さんだけです。それは本当です」 永瀬と会うとドキドキ…する? それは……恋?憧れ?どちらにしても、俺にとってはいい気がしない‼︎ ミキは永瀬に対しての自分の気持ちが解らない.知りたいと言うが……それは…また好きになったと言う事なのか?永瀬と会うとドキドキ…すると言うのは、そう言う事じゃないのか? 客観的に聞くとそう聞こえるが……。 愛してるのは俺だけだと、はっきり言ってくれた事がまだ救いだ。 俺的には……複雑な気持ちだが。 なぜか妙に落ち着いてる自分がそこに居た。 「……ミキ……1つ聞いて良いか?」 「何ですか?」 「永瀬と俺は……いや、何でも無い。これは愚問だ。ミキはこれからも永瀬に誘われたら会うつもりか?」 「………俺としては、このドキドキ…が何なのか知りたい気持ちはあります。それが解れば、すっきりする気がして…今は解らないからモヤモヤ…して……でも、俺からは誘いません! 先輩が渡米するまでに会う事が無ければ……それはそれで良いです。また、時間が忘れさせてくれます」 本当に、それで良いのか? モヤモヤ…したまま……ミキも俺も。 「それで良いんだな」 「…はい。俺には伊織さんが居ます‼︎」 「そうか」 俺には伊織さんが居ます……その言葉が永瀬の代わりに……って聞こえた気がした。 だめだな! 悪い方へ悪いへ考えがいく。 さっきも言ってただろ。 愛してるのは俺だけだ‼︎って。 その言葉を信じるんだ‼︎ ミキの真意がどうであろうが、俺にはミキしか居ない‼︎ 愛してるのも側に居て離したく無いのもミキだけだ‼︎ 「もう、遅い。風呂に入ってこいよ。俺は先に寝室に居るから」 「はい」 自室にしてる部屋に向かい着替えを持って浴室に消えた。 俺は寝室に行き、ベットに横になり考えてた。 20分程で、ミキはベットに入ってきた。 俺は寝たふりしながらもミキを胸に抱き、確かに俺の腕の中に居る事を確かめて居た。

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