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第754話
記念品(粗品)の最終サンプルが届き、永瀬にも実物を見て貰い最終確認する為に、田口が連絡を入れ、金曜日の10時に会社に来てもらった。
殆ど、前回での打合せで本決まりで、今日は実物を見る為の来社と言う事で、そんなに時間も掛からないはず。
本来は田口やミキだけで永瀬に対応し確認して貰えば良い事だが、俺は田口に「最後まで見届ける」と言って、永瀬との打合せに参加する事にした。
年内に、アメリカ支社宛の荷物と一緒に送り、後はアメリカ支社で対応して貰う。
俺達の仕事としては今日で終了する。
永瀬も、あと1~2週間で渡米するだろし、もう会う事もこれで無いが……あの日から、俺はずっと心の中にモヤモヤ…イライラ…するものがあり、そしてミキからの ‘先輩と会うとドキドキ…する’ その言葉がどうしても頭から離れず……少なからず俺の心は傷ついてもいた。
素直なミキの気持ち何だろうが、俺から言わせると……恋する前の状況に見えて仕方ない。
俺を愛してると言うのも本音だろうが……何でも素直に話せば良いってもんじゃね~だろうと、理不尽に思ったのも本音だった。
たが、素直に正直なミキだからこそ、信頼に値するのも解ってる。
俺の心は……永瀬と似てると言われ、永瀬に似てるから…俺と付き合ってるのか?永瀬の代わりなのか?と、ずっと心のどこかにある。
それに追い討ちをかけられるように、ミキからの ‘先輩と会うとドキドキ…する’と、打ち明けられた事で傷つき……俺の心を少しずつドス黒い何かが蝕(むしば)んでいた。
それもあり、表面上は前と何も変わらないように振る舞っては居るが……俺の中ではギクチャクしていた。
今回も田口も打合せに居る事はいるが、俺が居ない所で2人が対面する事はやはり気分が良く無い……それなら自分も参加した方が精神的に良いと思い参加する事に決めた。
永瀬は予定通り10時に来社し、また会議室で打合せをした。
会議室のテーブルにサンプルを置いて永瀬を待ち構える。
上野さんが永瀬を会議室に通し、ドアを開け直ぐにミキの姿を見つけ笑顔を見せる。
ミキも再会当初とは別人の様に笑顔で応える。
2人の距離が前に見た時より、もっと確実に縮まってる。
そして俺や田口を見て挨拶する。
「今日が最終打合せなんですね。何だか寂しいです。貴社には無理なお願いを聞いて頂いただけじゃなく、本当に仕事も早く私も勉強になりましたありがとうございます」
「こちらこそ! これから仕事の範囲を広げる良い切っ掛けになりました。色々勉強になったのは私共の方です。ありがとうございました」
俺も上司として挨拶すると、田口とミキも頭を下げて同調した。
そして目の前のテーブルに置かれたサンプルを目にし「見ても良いですか?」「どうぞ」と、言うと永瀬は手に取り、まじまじと隅から隅までサンプルを見ていた。
大丈夫だと思うが、田口もミキも最終的な判断を緊張しながら黙って待ってた。
サンプルをテーブルに戻し
「凄く良いです。実物を見るとやはり良い!」
喜んでくれた事に、ミキも田口もホッと胸を撫で下ろしたようだ。
そして商品の枚数.出荷日程をミキと田口と確認し俺からは最終的な見積書を手渡した。
「少し予算オーバーですが、この商品を見れば共同開催の人達も納得してくれます。これでお願いします」
送料もアメリカ支社の荷物と一緒に送る事にし、安いプリント仕様で業社と交渉し、デザインなども本来はデザイナーに頼めばデザイン料も取られる所をうちで色々考えてる事でデザイン料も無しにしてる。
俺は利薄でも利益を取れる様に省く所は省いた…そして最終見積もりを出した。
そう言う裏の努力も解って欲しいもんだ。
「当初、お話しさせて頂いた様に利薄でも利益は出さないとうちも困りますから。今後に繋がると言う事で、かなりこれでも勉強させて頂いてますこの先、記念品だけじゃなくグッズ等もご検討お願いします。このサンプルはお持ち頂いて共同開催の人達にも実際に手に取り見て貰って下さい」
「ありがとうございます。本当に何から何まで。貴社の恩に報いる様に頑張ります!」
「永瀬さん、頑張って下さい」
田口がそう言い握手する。
「先輩なら出来ます。また、一緒に仕事出来るように私も頑張ります」
「ありがとう」
今度は永瀬から握手を求め、ミキも少し照れて応じた。
上司としては、ほのぼのとした光景に本来なら和やかな気持ちで見てるはずだが……ミキと握手をする永瀬に ‘俺の者に気安く触るな!’ と、本心では苦々しく見てたが一社会人として何事もないかの如くその場に居た。
そして永瀬は最後に俺に向き合い。
「絶対に、成功させてみせます。本当に、ありがとうございました」
にこやかに握手を求めてきた。
「頑張って下さい。期待してます」
俺も仕事モードで対応し、握手する手に知らず知らず力が篭った。
そして永瀬共々会議室を出て、田口とミキがエレベーターまで見送り、俺は課に戻った。
これで終わった‼︎
仕事面ではこれで終わったが……プライベートではあれからも相変わらずミキにLINEがきてる事は知ってるし、火曜日には前回真琴君が行けなかった他の先輩達と今度は改めて真琴君を含め飲みに行ってた。
その時は真琴君も一緒と言う事で少し安心はしてたが、やはり帰りは遅かったが……。
気分は良いもんじゃないが…隠されるよりマシと思い我慢してる。
たが、それも永瀬が渡米すれば解決する。
あと少しの辛抱だ!
田口とミキが課に戻り、ミキは早速手拭い業社に電話し報告し、これからの計画を話し合ってた。
田口も永瀬との仕事が終わり、本来の仕事に戻ってた。
トルル~♪トルル~♪……♪
俺のデスクの内線電話が鳴った。
「はい、成宮です」
受付からだった。
「受付にIP企画の永瀬様が成宮課長にお話があるそうなので代わります」
「解りました」
永瀬?
帰ったんじゃ……わざわざ受付から電話⁉︎
ミキや田口の前では話せない事か?
それとも仕事の事で言い忘れた?
訝しく思いながら、永瀬が電話口に出るまで待つ
「成宮課長、先程はありがとうございました。今日の夜、少しお時間ございますか?折り合って話しがあるんですけど…。時間取って頂ければ…」
話⁉︎………。
何の話だ⁉︎
何か解らないが……受けて立つ‼︎
そう言う気持ちだったが、会社に居ると言う事もあり電話では社会人らしく対応してた。
「解りました。場所と時間の方は?」
永瀬が指定する場所と時間をメモし内線を切った
そしてミキをチラッと見た。
田口と何やら話してる顔は真剣そのものだった。
手拭い業社との事で、田口に報告してるんだろう
永瀬から連絡あった事は……ミキには取り敢えず言わないでおこう。
まだ、どんな話か解らないからな。
永瀬もわざわざ内線を掛けてまで俺を誘うって言う事は、ミキには知られたくないと言う事だろう
でも、ミキじゃなく……なぜ俺に?
俺と似てる性格だと言うが、今回の永瀬の行動の真意は俺でも解らない‼︎
話しって言うのは、仕事に関してなのか?
それなら、わざわざこうやって隠るように2人で会う必要もないだろう。
前回同様に課の皆んなで、また打上げを兼ねて会えば良い事だ。
一瞬、ミキの事か?とも思ったが、俺はミキから永瀬との事は聞いてあるが、永瀬が俺達の関係を知ってるとはミキから聞いた事はない。
永瀬は俺とミキの関係は知らないはずだ。
慎重派のミキが仕事面でも関わり合いがある永瀬に俺達の事は言わないと踏んでいる。
多分、俺の為に…会社にバレるような事は言わないだろう。
俺は別に構わないが、ミキの性格上そう言う気遣いをする事は解る。
そうなると、尚更、永瀬からの話しが何なのか?気になる!
ま、いずれにせよ、何の話しかは会って話しを聞くしか無いだろう。
この永瀬からの話しが、また俺の気持ちを一掃不安に掻き立てられる事になった。
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