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第756話
コトッ…スー。
お代わりのワインが永瀬の前に置かれた。
グラスを持ち一口飲み、そして息をスッと吸い意を決したように話し出す。
「成宮さん!……単刀直入に聞きます。ミキの今現在付き合ってる人は……成宮さんですか?」
何の前置きも無く、本当に単刀直入だな。
永瀬の性格が、そのまま出てると思った。
やはり、話しは……ミキの事か。
「どうして、そう思う?」
否定しない事が肯定してるようなものだが、はっきりとはこの時点では言わなかった。
「ミキが男と付き合ってる事には、驚かないんですね?その事は…ま、良いです。どうして、成宮さんと思ったのか?でしたっけ。それは、前にミキと飲んだ時に ‘付き合ってる人が居るか?’ 聞いた時に、誰とは言いませんでしたが ‘付き合ってる人は居る’ と正直に話してくれました。その時に ‘どんな人か?’ 聞いた時のミキの答えた人物像が……ミキの周りで該当する人物は…成宮さんしか思い浮かばなかった。今の俺にはミキの周りの人間で知ってる人は限られてるから何となくそうかな?と……でも、全く知らない人かも知れないとも思ったりもしました。でも、以前に懇親会を開いてくれましたよね……。で、恋愛話になった時にミキがチラチラ…成宮さんを気にして見てたミキは素直だから、そう言う所は隠せないって言うか.無意識に出ちゃって……その時に成宮さんじゃないか?って俺の中では確信に変わりました」
永瀬もミキの性格を熟知し、懇親会の時にミキの様子を良く見てたって事か。
それと、ミキが永瀬に正直に ‘付き合ってる人が居る’ と言ってくれた事が嬉しかった。
「そうか。ここからは仕事も関係なくプライベートで話す。永瀬が考えてる通り、ミキの付き合ってる相手は俺だ‼︎」
もう仕事とは関係無いと思い、永瀬さんから永瀬と呼び名を変え話した。
殆ど確信してただろうが、俺からはっきり言われ肩がピクッと動いた永瀬はワインをグッと飲み
「やはり、そうだったのか。ある意味、成宮さんで納得はしてます。ミキの好きになるタイプですからね」
永瀬の言葉には少し棘があった。
‘ミキの好きなタイプ’ それは永瀬も含まれ……自分にも当て嵌まるって言う事か⁉︎
俺の深読みか⁉︎
俺もワインをグッと飲み
「俺も永瀬がミキの昔の男だと再会した時に、直ぐにミキから聞いてる」
ミキから正直に何でも聞いてる! 俺達の間には隠し事はない! と、俺とミキの絆の深さを強調した
永瀬は俺をジッと真剣な顔で見てた。
俺も目を逸らさない。
「俺からも聞いて良いか?」
「何ですか?」
永瀬のワインを飲むピッチが早い。
「なぜ、別れた?ミキからは大体の話しは聞いてるが、別れた理由については解らないと言ってる渡米してから数ヶ月後に突然音信不通になったと
別れるつもりなら、なぜ?きちんと別れ話をしなかった?」
今更聞いても仕方ないのかも知れないが、永瀬がまた渡米したら、もう聞く機会は一生ないだろう
ミキや真琴君.祐一に聞いても解らないと話すし、
永瀬の口から理由を聞きたかった。
フッと永瀬が笑った。
どう言う笑いだ⁉︎
「俺はべつに別れたつもりはないんですけどね」
はあ⁉︎
何言ってんだ⁉︎
音信不通になって、どんだけミキが不安で辛い思いしたか‼︎
何年も経って ‘別れたつもりはない?‘だと~‼︎
どの面下げて言ったんだ⁉︎
俺は沸々腹が立ってきた。
「どう言う事だ⁉︎ はっきり別れ話をしてないからって事か?音信不通にしたのは、お前だろ⁉︎ 別れたも同然だ‼︎」
「解ってますよ! それくらい…俺でも。別れ話をしなかった事も音信不通にしたのも俺がした事ですからね……あの時は余裕が無かった。前にも話しましたが、社内研修選考され意気揚々と渡米したものの……文化の違いや言葉の壁.そして人種差別なのか.アジア人にはシビアで、夢見てた俺は現実を痛感してた。毎日、ミキからのメールや偶にくる電話に癒されてた……そんなミキに甘えて愚痴を言ったり弱音を吐いてた俺に、いつもミキは応援してくれ励ましてくれた。俺もミキが支えになってた……けど、気がついたんだ。俺はミキに甘え情けない姿を晒してるって。ミキが尊敬し憧れて頼りにしてた俺じゃないってね。このままじゃ自分がダメになると思った。ミキに甘え.会いたくなり逃げ出してしまうと……。だから、自分への戒めにと思って、ミキと少し距離を置き逃げ場を無くし1人で頑張ってみようと。半年程、頑張ってやるつもりで……ミキなら待っててくれるとそれだけ自信もあった。その甲斐もあり色々と慣れコミニュケーションが取れ始めると、仕事が面白くなりやる気も出た。無我夢中だった。研修が終わる頃には、日本に帰らずアメリカ支社を立ち上げる事に専念し、余裕ができた時には時間が経ち過ぎて……ミキに連絡出来なくなった。日本には帰るつもりもないし……周りがミキを放っておかないだろうし良い人が出来たかも……と思うとミキの口から別れ話や恋人の話を聞きたくなかった……そうなると益々連絡出来無かった。そしてズルズル……きてしまった」
永瀬の気持ちも半分は解る。
俺も渡米し苦労したし、ミキに情けない姿を見せたくないって言う気持ちも。
ずっと憧れの先輩で居たかったんだろう。
若かったんだな。
見栄や虚勢…自信過剰……若さ故にある事だ。
だが、全ては永瀬の自分勝手な行動だ。
余裕が無いのも解るが、結局は自分の事しか考えてない。
綺麗事では ‘逃げ場を無くしたかった’ とか ‘甘えてダメになる’ とか言ってるが、結局は仕事とミキを天秤に掛け……仕事を取ったって事だろう!
いやミキを切り捨てたんだ‼︎
「別れた理由って言うか.音信不通になった理由は解った。だが、俺から言わせると、自分勝手で自分の事しか考えてないと思う。残された方の待つ気持ちは考えなかったのか?ってね。たぶん、自分の事でいっぱいで考えてなかったんだろうが、はっきり別れを言わない事も永瀬の狡さと我儘だと思う。それが、どれだけミキを傷付け悲しませたか?解ってるのか⁉︎」
俺がキツく言い放すと、永瀬は引き攣り辛そうな顔を見せワインを飲み干した。
そしてマスターにお代わりを頼む。
「成宮さんの話す通りですよ。当時の俺は自分の事しか考えてなかった。甘えて癒されてる一方でミキからの応援や励ましがプレッシャーにもなってた。ミキの前では憧れの頼りになる先輩.そして恋人で居たいと言う俺のエゴです」
「恋人の前では皆んな格好つけたいもんだ。若い時は尚更だ。ま、今更言っても仕方ないが。それで、ミキの恋人が俺である事を確認する為に誘ったのか?で、俺と解ってどうするつもりだ?」
ここからが本当の本題だろう。
今日、何度目かのお代わりのワインを口にし
「それもありますけど。ミキの恋人が成宮さんと解ったなら話しておきたい事があって。いや、お願い事かな」
嫌な予感がする‼︎
ミキの恋人と知って頼み事⁉︎
永瀬の話しはとんでもない事だった。
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