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第758話

「ふぁ~~」 「伊織さん、昨日眠れなかったんですか?そんなに何度も欠伸して」 昨夜は永瀬と飲みながら話をし帰りは22時頃だったが、何だか妙に疲れてシャワーを浴び酒も入って居た事もあり直ぐに寝たが……夜中に目が覚め今度は寝付けなくなり、悶々と永瀬との話を思い返し考え目が冴えてしまった。 逆に、今度は朝方の変な時間に寝てしまった。 「悪い」 クスクス…笑うミキは何も知らずにいつも通りだった。 俺は永瀬が今日ミキを誘うと言ってた事もあり…いつ連絡がくるのか?気が気じゃなかった。 ミキのLINEのスマホが鳴る度にドキッ…としてた 今の所は永瀬からの連絡はないようだ! 連絡するなら、早くしろよ‼︎ で、さっさとミキと話して終わらせろ‼︎ 結局、永瀬から連絡あったのは11時頃だった。 ミキのスマホから電話が鳴った。 LINEじゃなく電話か⁉︎……直接話した方がミキから断り辛いだろうとミキの性格を良く読んでると思った。 「はい。あっ! 先輩?えっ! 今日…あ……う…ん」 俺をチラチラ…見て電話してる。 「ん……ちょっと待ってて下さい」 電話を保留にし、俺に聞いてきた。 「伊織さん……先輩が観光したいから付き合ってくれって。あと……世話になったから、お礼に夕飯奢りたいって言うんですけど……行って来ても良いですか?」 行って来ても良い? 行く前提で話してるミキに心が沈むが、永瀬との約束もあり断れ!とは言えない。 「そうか。解った」 心の中ではやはり気分は良くなかったが…一応、ミキも俺の事を気にしてると解り顔には出さずにそう答えると、ミキは嬉しそうな顔を見せた。 そして弾むような声で永瀬に話す。 「解りました。で、何時にどこに?」 嬉しそうに話すミキを見てられずに顔を背け、新聞を読む振りをした。 永瀬と会うのが、そんなに嬉しいのか? 楽しそうに話してたミキ達の電話が終わった。 「伊織さん、すみません! 夕飯はチャー飯作って行きますから」 「良いよ。適当に食べるから気にするな。で、何時から行くんだ?」 「14時に浅草駅で待合わせです。先輩も浅草なんて、やっぱり日本が恋しいんですかね?あっ、そうだ! 浅草に行くならスカイツリーまで足伸ばそう。先輩行った事ないだろうし、あとは…食べ歩きも良いよね」 俺に話掛けてるようだが、殆ど独り言を言ってる それからミキは浅草周辺やお台場や渋谷などをスマホ検索し「豊洲市場とか…」と、ブツブツ…独り言を言ってた。  その姿は側から見ると、まるでデートプランを考え楽しそうに見える。 ……デート行くみたいじゃねーかよ。 永瀬に誘われたのが、そんなに嬉しいか⁉︎ 楽しそうなミキの姿を見て余計な邪心が湧き起こる。 そして昼頃になり、ミキはキッチンで料理を始めた。 ミキが作ったカレーを食べてると「夕飯もカレーになりますけど…温めて食べて下さいね」と話す カレーを作ったのは俺の夕飯の事を考えて……永瀬とのデートを楽しみにしてるんじゃないか?と思った自分を恥じた。 ミキはちゃんと俺の事も考え蔑ろにしてないじゃないか。 自分のバカな考えが……恥ずかしい。 そして時間を見て、ミキは支度を始めた。 「伊織さん。じゃあ、出掛けてきます」 「ああ、気を付けてな」 「は~い」 玄関ドアが閉まった音が聞こえた。 「あ~あ、行かせてしまったな」 直前まで「行くな!」と言うか迷ったが……永瀬からの挑発に負けるようで……それも悔しい‼︎ お洒落してたな。 ま、元々お洒落が好きだからな。 着飾ると尚更……綺麗だったな。 髪もセットしてたし黒のスキニパンツに白シャツと薄手の長めの黒のアウター。 確か…あの白シャツ……襟とかボタンが変わってて裾丈も違い……ミキのお気に入りだった。 永瀬も……惚れ直すんじゃないか‼︎ 別に…永瀬と会う為にお洒落してた訳じゃない‼︎ ミキは元来お洒落なんだ‼︎ 浅草で待合せって言ってたな。 浅草→スカイツリーに行って…その後お台場か。 確か……そんな事言ってた‼︎ デートコースじゃねーか。 それで夕飯どっかで食べて……あのワインBarで話すのか⁉︎ 永瀬と会うと帰りは大体23時頃か過ぎに帰って来る事が多かった。 それもあのワインBarで飲んでた事が昨日解ったが……。 落ち着けて店の雰囲気も良かったな。 あそこで飲みながら永瀬に口説かれる訳か。 ミキは何て答えるんだろう! いや、答えなんて決まってる‼︎ …… ‘ミキの初めての男’ それは…忘れられない相手って……そう言う意味合いで永瀬が言ったんだろう。 何らかの自信があるのか⁉︎ あ~~~‼︎ イライラ……する‼︎ ここに1人で居たら延々と悶々と考えてしまう。 俺は気分転換と無心になる為に、マンションのジムに行く事にした。 体を苛め抜いて追い込み……何も考えられないようにするんだ! 良し‼︎ そうと決まれば実行あるのみだ‼︎ 俺は部屋に居ても要らぬ事を考えてしまい気持ちが落ち込むと思うと同時に、ミキが帰って来るまで長い時間ここで待つのも耐えられないとジムに行った。 3時間近くみっちりと走ったりバイク.筋トレしたりし何も考えずに体を苛め抜く事だけに集中した ミキの居ない部屋に戻るとまた1人で悶々と考えてしまうとは思うが、体は疲れきりへとへと…で汗臭い。 部屋に戻り直ぐにシャワーを浴びソファで体を休めた。 ジムに行ったお陰で体は軽くなりシャワーを浴びたらすっきりとした。 喉が渇きキッチンへ行き冷蔵庫の中から迷ったが缶ビールを取り、その場で一気に半分程飲んだ。 「くっ! 美味い‼︎」 折角のトレーニングがこれで水の泡となるが、トレーニングの後のこの一杯が止められない。 もう1本缶ビールを持ってリビングに行き飲みかけともう1本のビールをテーブルに置き、俺はそのままソファにドサッと座った。 部屋を見回し、ミキの姿が無い事と静かな空間に改めて永瀬と会ってるんだと実感した。 あれから数時間経ち……そろそろ2人は夕飯でも食べてる頃か? それとも店を探してるのか? そんな事を考えてると2人がイチャイチャ…仲良くし店を探す想像をしてしまう。 ダメだ‼︎ 余計な事考えるな‼︎ 俺は飲みかけのビールをまた一気に飲んだ。 静かな部屋が嫌でTVを点けようとして、フッと思い出した。 ディスクを取り出しセットした。 TV画面には夏季休暇に旅行に行ったセブ島の海でシュノーケリングしてる2人が映し出された。 手を繋ぎ泳ぐ2人.ジンベイザメに並走し泳ぐ姿.顔を寄せ映る姿.海亀を指差し近くまで泳ぐ姿.海の中でキスしてる姿……etc.楽しかった旅行が映し出され、俺はビールを開け黙って見てた。 ビールが無くなるとキッチンへ行き冷蔵庫からビールを取り出し、またTVの映像を見ながら飲んでた。 その内、ビールが効いてきたのか?ジムでの疲れからか?俺はそのままソファで寝てしまった。 TVからミキの声が聞こえ、まるで部屋に居る錯覚と共に安心して寝てた。 1時間位寝てたようだ。 目が覚めた時には、部屋の中は暗くTV画面からは画像が切り替えられニュースが流れてた。 時計を見ると19時過ぎてた。 まだ帰らないだろうな。 永瀬と会うといつも23時過ぎてた。 ここからが長いな。 「はあ~」 溜息と共に寂しさと不安が襲ってくる。 そろそろ永瀬から話しを聞いてる頃か? それともまだか? あのワインBarに居るのか? 話を聞いたミキは何て答えるのか? 少なからず好きだった男だ……そして最初の男。 再会してから…昔の気持ちが蘇って…いや、ミキに限って……。 俺はまたビールを取りに冷蔵庫を開けたが、ビールが残り1本だけだった。 あっ!そうだった。 ミキから最近飲み過ぎと言われ、冷蔵庫にはここ最近2~3本だけ入っていた。 永瀬とのLINEしてる時に楽しそうなミキを見てられずにビールを開ける本数が多くなってた。 酒に強い俺はビール位じゃ酔う事はない。 最後のビールを手に取りソファに戻った。 ビールを煽りながら寂しさを感じてた。 「飲み足りねーな」 1人で寂しい部屋で飲んでると悶々と要らぬ想像とネガティヴな方向に考えが囚われる。 それと誰かに話しを聞いて欲しい気持ちもあった 「良し‼︎ 久し振りに祐一の所に行くか‼︎」 忙しくとも祐一なら話を聞いてくれるだろうし、飲み足りない酒も飲める。 ここに1人で居るよりマシだ! 残りのビールを空け俺は出掛ける事にした。 俺のこの安易な行動が更に事態を悪化させてしまう事になろうとは……。

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