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第759話

何ヶ月振りか? 祐一の店 ‘R’moneのドアを開けた。 上品で洒落た内装に落ち着いたBGMが流れ、程よく賑わい大人の遊び場。 ’R’moneに来るのも久し振りだ。 「よぉ!」 カウンター内に居る祐一に軽く声を掛けた。 「どうした?1人か?ミキは一緒じゃないのか?」 今聞かれたくない事を聞かれ、俺の顔から祐一は何かを悟ったようだ。 「ああ、1人だ。飲み足りないから、美味い酒でも飲もうと思ってな」 1人では居たくなかった事と、そして少し話を聞いて欲しかった。 「飲んでるのか?ミキは……永瀬か?」 「……まあな。いつものやつロックで!」 「ここに来てる事は、ミキには知らせて無いんだろ?悪い事は言わない、酒は作ってやるがそれ飲んだら帰った方が良い」 そして俺の為にバーボンを注ぐ。 祐一は何か真琴君に聞いてるらしく、俺がミキには言わないで、ここに居る事を心配してるようだ まあ、ここはそう言う店でもあるからな。 「美味い酒を飲みに来ただけだ。なあ、真琴君から何か聞いてるのか?」 目の前に、スーっとバーボンが置かれた。 手に取りグイッと飲むとカーっと焼けつく程のアルコールが喉を通る。 「くっ! きつ~」 今日はそのアルコールのきつい酒を飲みたかった きつい酒だが鼻から抜ける香りが良い。 「そんな風に飲むな。酒は楽しむ為に飲めよ。悪酔いするぞ!」 「はっ! 俺が酒に強いの知ってるだろ?これくらいじゃ酔わないっつーの」 俺の自暴自棄とまではいかないが、そんな様子を見て祐一は顰(しか)めっ面をした。 店では表情を変えない祐一だが、それ程心配してるって事だろう。 「この間、マコとミキと永瀬がここに来た。ミキから聞いてないか?」 初めて聞く話しで、ミキからは聞いてなかった。 「永瀬と会う時は俺に話して行くが、ここに来た話は聞いてない」 なぜ?祐一の店に来た事を言わない? 言う必要が無いからか?だとしても…隠す必要はないはずだ! 俺と祐一がダチだと知ってるミキには隠してもバレる事は解ってるはずだからだ。 また1つ不信感が……心に広がる。 「その日は大学の先輩達と飲むって聞いてたが、その後で3人で来たみたいだ。俺は永瀬とは、永瀬が渡米してからは会ってなかったから何年振りかだった。懐かしそうに店を見て3人で話してた型通りの挨拶と近況報告と世間話をして、あとは店も混み出したから俺は余り相手はしなかったが3人で懐かしい話をしてたようだ」 先輩達と?……ああ、あの日か。 真琴君が前回来れなくてなり、また改めて誘われた日だな。 その後3人でここに来たのか。 そう言う事か。 取り敢えず、俺が聞いてた日と解り安心した。 何も言わずに、今度はチビチビ…酒を口にする俺を見て祐一が話す。 「伊織が気にする様な事はなかったぞ。マコが常に側に居て見張ってたからな」 真琴君が居れば、取り敢えず俺も安心出来る。 「真琴君には感謝だな。いつもミキの味方になり側に居てくれる。俺もミキの親友として真琴君には感謝と信頼してる」 祐一は俺が真琴君を褒めた事に僅かに口角を上げ他の人には解らないだろうが喜んでたのが解る。 「ただ……誤解はするなよ?マコから聞いたが…再会した当初より、永瀬とミキとの距離感が縮まってる気がすると言ってた。俺も3人でカウンターで話してる光景見てたが……昔のようだった。イチャイチャしてたとかじゃないぞ! 何だか、仲が良い先輩後輩って感じだった、マコも含めてなあと…気になる事が……マコとミキが帰り際にトイレに立った時にな、俺にミキの付き合ってる人はどんな人ですか?って聞いてきた。俺はお前の名前は伏せて正直に言ったし ‘ミキは今は幸せだよ’って言ってやった。それをマコに話したら、マコにも同じ事聞いてたらしい。ミキの付き合ってる相手の事を聞いたり気にするって、今更永瀬はどう言うつもりなのか?ちょっと心配になった」 俺と直接対峙する前にリサーチしてたって訳か。 祐一の話しを聞きながらバーボンを飲み干し、お代わりを頼んだ。 祐一は渋々酒を用意し「本当に、最後だぞ」と渡してくれた。 そして俺は昨日永瀬との直接対峙し話した内容と今日ミキが何も知らずに会ってる事を話した。 祐一は他の客の酒を作りながらも、俺の話しに耳を傾けてくれた。 「そんな事があったのか。ったく! お前も何でそんな挑発に乗るかなぁ~。ま、永瀬ならやりそうな事だな。言っただろ、お前に似てるって。強引な所もそうだが、そう言う真っ直ぐな所や後悔しないようにやり遂げる所とかな。……別れた理由を聞いて、ミキはどう思うんだろうな。ずっと心の何処かに引っかかっては居たと思うからな。理由が解ればミキももう蟠りが無くなり、永瀬との事も本当に終わったとケジメがつくって言うもんだ。今のミキにはお前が居るしな」 俺に似てる…か。 だからこそ嫌なんだ! あいつがしそうな事も解るが、逆にあいつも俺のしそうな事を解るって事だろ。 先手を取られ現れ挑発する様に、今日ミキと会う事を公認させた。 これが裏でこそこそしてやがったら、俺も絶対に行くな!と言えた。 祐一は最終的には俺を励ましてたが……俺の中では大丈夫!と言う気持ちと……少しの不安がある。 部屋に居ると、その少しの不安が色々考え過ぎて押し寄せてきそうだった。 だから、こうやって祐一に話を聞いて貰い…不安を打ち消す様に酒を飲みに来た。 ……愚痴りに来たのかもな。 恋人としての意地や年上としての器の大きさを見せるように見栄を張り、ミキの前では平気な振りしてたが……祐一に愚痴を言う程、不安や不満が蓄積されてたのかも知れない。 何だか情けない。 はあ~……。 酒を煽り「最後にするから」と言い、渋る祐一にバーボンのお代わりを頼んだ。 「本当に、それ飲んだら帰れよ!」 心配する祐一だったが、いつまでも俺と話してるわけにもいかず、他の客から呼ばれ行ってしまった。 話す相手が居なくなると、今度はミキと永瀬の事を悶々と考えてしまう。 それでも強い酒と騒つく空間が1人で部屋に居るより精神的には良かった。 祐一が離れて暫くすると、待ってたかの様に俺に声を掛けて来た。

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