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第760話

「ここ、良い?」 俺の隣の席を指差し聞いてきたが、一瞥し直ぐに断った。 「悪い。1人で飲みたいんだ」 「そう、残念。凄くタイプなんだけどな。一緒に飲みたくなったら、声掛けて」 残念そうに去って行った。 見た目もスタイルも悪くは無かった。 断った後のさっぱりしてる所も好感は持てたが… ミキが居る今の俺には触手が動かない。 それから何人か、やはり声を掛けてきたが「1人で飲みたい」と言って断ってた。 その間、祐一が他の客と対応してる間に、バイトに頼んで何回かお代わりをしていた。 飲んでも飲んでもミキ達の事を考え頭から離れない。 自分では酔ってないと思ってた。 今頃は永瀬に話を聞いた頃か? それとも聞き終わって、何らかの答えを出したのか? 俺の事を愛してるとは思ってる。 それは信じてる! だが……やはり昔の男……最初の男は特別なものか? 愛する人が1人とは限らない……辛いが。 どっちかを選ぶのかは……ミキだ。 大丈夫‼︎と自分に言い聞かせてるが……俺に似てる永瀬・初めての男…この2点が不安にさせる。 ミキに関しては、いつも強気で居る俺でも……常に不安はある。 ‘誰にも渡さない’ ‘離さない‘ と強気に言ってるがミキにそう言う事で洗脳してる部分もあり自分にも言い聞かせてた。 それでもいつかこうやってミキを奪う相手が現れるんじゃないか?と、怯えと恐怖が心の底には常にあった。 それが現実的になってる今の状況に、結構精神的に参ってた。 だから愚痴り酒を煽り……現実逃避だな。 「おい、そろそろ本当に帰った方が良い!」 「解ってる! これ飲んだらな」 仕事をしながらも俺の事を気に掛けてくれてたんだろう祐一が見兼ねて声を掛けてきた。 スマホをチェックするが、ミキからの連絡は無い 時間も、まだ21時過ぎた所だった。 早く帰っても……1人でミキを待つのも…。 永瀬と会うと大概23時過ぎか近くだ。 もう少しだけここで時間を潰し帰ろう。 もう1杯だけ、祐一の目を盗みバイトにお代わりを頼のみチビチビ……飲んで居た。 それから店も混み出し、やはり声を掛けて来る者が増えてきた。 その度に断ってたが、そろそろここに居るのも限界か?と、いちいち断るのも面倒になり帰る前にトイレに行く事にした。 スツールから下りた時にふらついた。 自分では酔ってないつもりだったが、結構足にきてたようで、そのままふらふら…とした足取りでトイレに向かった。 そう言えば……ミキの作ってくれたカレーも食べずにビール飲んでたし、ここに来てからもずっと強い酒飲んでたな。 空きっ腹に強い酒を飲んだせいか⁉︎ 動いた事で、急に酔いが回ってきたようだ。 ふらふら…とトイレに行き用をたし手を洗い洗面台に手をつき鏡に映る自分の顔を見た。 目や頬が赤くなり、珍しく酔ってる自分がそこに居た。 何だか情けねーな。 頭はふわふわ…するし体も怠い……情けねー。 その時に、ドアが開く音がした。 そこにはさっき俺に断られた男が現れ懲りずに声を掛けてきた。 俺がトイレに行くのを見逃さずに後を着いて来たのか? 「ねえ?結構、飲んでたけど大丈夫?」 「ああ、大丈夫……」 立ち去ろうとした時に少しふらつくと、直ぐに側に来て「大丈夫じゃないじゃん」と言って手を貸してくれた。 そして壁際に寄り掛からせられた。 男は俺の目の前に居て「やっぱ、タイプ!」と色目を使い話す。 俺は酔いもあり黙ってた。 「ねえ、具合悪そうだからさ。このままホテルで休む?」 俺の耳元に顔を寄せ、そう囁く。 耳たぶを舐め耳裏にキスしてきた。 ヤバい…ヤバい……警報はなるが、酔った頭では判断も鈍くなる。 何も出来ずに居る俺の耳元から離れ、俺の顔を見て今度は唇が近づいてきた キスされる! 思わず反射的に顔を背けた。 「何?キスはだめなの?」 咄嗟にキスを避けたのは、相手がミキじゃないからだ! だが、顔を背けたが突き飛ばすわけでもなく離れていかない俺に脈あり!と見たのか?首筋に舌を這わし唇を落とす。 俺は……こいつはミキじゃない!と解っては居たがされるがままになってた。 この時の自分は自分ではない気がした。 頭はボーとしふわふわ…とし他人事のように思え状況判断が読めず鈍くなってた。 「ねえ、いいでしょ?」 何が良いのか?判断がつかない。 そしてまた耳元で囁き始めながら、片手で俺の胸元を弄りその手が徐々に下がり、そして太腿を撫で摩り這い上がってくる手が股間を触った。 「まだ勃ってないの?」 スリスリ…スリスリ…たまにギュッと握ってくるが、俺のモノは酒の所為なのか?相手がミキじゃないからなのか?触られても反応を示さなかった それでも俺はまだされるがままで居た。 スリスリ…スリスリ……スリスリ…… 「お酒飲み過ぎた?なかなか勃たないね。でも、平常時にこんな大きいなら……凄く楽しみ!」 何が楽しみなのか? ボーとし頭が回らない。 触られても体が拒否してる。 やはり相手がミキじゃないからだ。 頭が回らなくても、体と心は正直だ。 俺は少し笑った。 やはり俺はミキなしじゃだめだ! もう心も体も‼︎ それなら……やる事は1つだろーが‼︎ 何、弱気になってたんだ‼︎ ミキの気持ちを考えて⁉︎ そんな大人ぶった対応してるから、こんな事になってんだ‼︎ 自分の気持ちを優先しろ‼︎ ミキを離さない! 渡さない! 万が一奪われたら奪い取る‼︎ それが本来の俺だ‼︎ こんな状況でもミキにしか反応しない正直な自分の体と心にやっとモヤモヤ…が晴れていき、さっきまでボーっとしてた頭もやっと回ってきた。 「手がだめなら、他で勃たせてあげる!」 そう言い俺の視界から消え跪き、俺のジッパーに手を掛けた所で俺はその手を掴んだ。 「やめ……」 俺が ‘止めろ’ と言いかけた時に、ドアが開き誰か人が来たと思いドア付近を見た。 「伊織さん、居る?」 そう言ってドアを開けて入って来た人物は…ミキだった。 「…っ!……酷い‼︎」 この状況に一瞬2人共固まり、ミキは信じられないと言う顔をし目を見開き、そして絶望と悲しい顔に変わりその場から踵を返し出て行った。 俺は一気に血の気がサ~っと引き青褪めた。 「ミキ! 違う…違うんだ‼︎」 そう叫んだが、もう既に遅かった。 「誰?あれ?ま、良いか。続きしよう」 ジッパーを下ろそうとする男の肩を押し尻餅をつかせ「何するの~」「行かないでよ」と腕を掴み離そうとせず喚く男を突き放し、俺はそのままふらふら…とおぼつかない足でミキを追う。 何で、ここにミキが居る? 永瀬は? なぜ?どうして? 頭の中は、それでいっぱいだった。  未遂だとしても……あんな顔をさせてしまった! 絶望と悲しそうな顔を見せたミキの顔が目に焼き付く。  

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