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第761話

先輩と分かれ、帰りの電車に乗ってる時にスマホが鳴った。 電話の相手は祐さんだった。 珍しいな。  マコと何かあったのかな。 電車の中で電話に出て小声で話す。 「はい」 「ミキか?今、どこ?」 「家に帰る途中で、電車の中です」 「そうか。なら丁度良い。タクシーで帰そうか迷ったが、伊織が店で結構飲んでるから迎えに来れるか?俺が言っても帰らないからな」 「迎えに行くのは構いませんけど。伊織さんが?祐さんの店に?何で?」 「仕事中で余り話せないが…永瀬の事……結構、キテルらしい。家に連れて帰って良く話しをした方が良い」 「すみません。直ぐに、タクシーに乗り換えて行きます」 「待ってる」 俺は今乗ってる電車でなるべく近くまで乗り、途中からタクシーに乗り換え‘R’moneに向かった。 タクシーの中でも、伊織さんが先輩の事を気にしてたなんて……俺は伊織さんの気持ちを考えずに先輩と会ってたりLINEしてた。  どんな気持ちで……祐さんに言われ、初めて申し訳無く思ったと同時に伊織さんの事を蔑ろにしてたのか?と自問自答してた。 お酒の強い伊織さんが酔う程飲むなんて。 そう言えば……最近、部屋でもビールの飲む量が多かった。 伊織さんからの何らかのメッセージだったんだ。 俺は全然気付かに……。 部屋に帰ったら、祐さんに言われた通り良く話し合おう。 そして……先輩に対して…伊織さんに対して…の正直な気持ちを話そう。 俺にとっても久しぶりの‘R’moneの前でタクシーを止め、そのまま待って貰った。 重厚なドアを開けると、時間も時間だからか?凄く賑わい煌びやか世界だった。 キョロキョロドア付近で伊織さんの姿を探したが見当たらない。 「祐さん」 カウンターに居た祐さんに声を掛ける。 「おう、来たか。さっきまでそこに居たんだが、たぶんトイレだと思う。珍しく相当飲んでるからな。早く、連れて帰った方が良い」 「すみません!」 俺は祐さんに一言謝り、店の奥のトイレに向かった。 珍しいな、お酒の強い伊織さんがそんなに酔う程飲むなんて。 その時の俺は伊織さんがそこまで追い詰められて居た事に気づきもしてなかった。 「伊織さん、居る?」 声を掛けながらドアを開けた瞬間……目の前の光景が信じられなかった。 壁に凭れ掛かる体勢の伊織さん。 その目の前でしゃがみこみ伊織さんのジッパーに手を掛けようとしてる男の人。 何をしようとしてるか……一目瞭然だった! 衝撃的な場面に頭が鈍器で殴られたようにガンッ!とし、目の前が暗くなっていった。 「……っ!………酷い!」 言葉に詰まり、伊織さんの裏切りに ‘酷い!’ と言うのが精一杯だった。 その場に居たくなかった……だから、逃げるように、その場を去り店の中を慌てて走る俺の姿にカウンターに居た祐さんが声を掛けてきた。 「ミキ! 伊織、居なかったのか?」 「……伊織さんの事、宜しくお願いします」 足を一瞬だけ止め、祐一さんに頼み俺はそのまま店を出た。 そして階段を駆け上がり、店の前の道路に停めてあったタクシーに乗り込んだ。 「すみません。出て下さい」 「どちらまで」 「取り敢えず、出発して下さい!」 「解りました」 急いでると言う態度で話すと、タクシー運転手も取り敢えず出発してくれた。 何で?何で? 嘘⁉︎ 嘘⁉︎……伊織さん……信じてたのに‼︎ さっきまではショックの余り無の状態だったが… あの光景を思い出し涙が溢れて止まらなくなった 「どうします?どこまで?」 泣いてる俺に、運転手さんは気を使いながら聞いてきた。 俺はマコの所に行こうか?それともマンションに帰るべきか迷った………行先は、マンション近くを告げた。 帰っても……伊織さんの言い訳聞きたくない! 聞ける状態じゃない‼︎ 俺が先輩と会って居ない間に……酷いよ‼︎ 俺に黙って祐さんの店に行くって言う事が、どう言う事か解って行ったって言う事⁉︎ 最初から……そう言う人を探しに⁉︎ 先輩の事で……結構キテルって祐さん言ってた…それで、もう俺の事嫌になった⁉︎ ……俺に気持ちがなくなったなら、そう言ってくれれば良いのに……。 祐さんからの迎えを頼まれなかったら……俺は何も知らずに……そして伊織さんはそのままあの人と……酷い! 信じてたのに‼︎ 裏切るなんて‼︎ 酷い…酷い……酷いよ‼︎ あの光景が頭から離れず涙が溢れ頬を伝う。 そんな時に、スマホの電話が鳴った。 ♪♪♪♪…♪♪♪♪…… 伊織さん⁉︎ 画面を見ると……先輩だった。 このタイミングで…と思ったけど、電話に出た。 誰かと話して、さっきの光景を一時的にでも忘れたかった。 「…は…い」 「ミキか?まだ帰り道か?」 「は…い。帰る途中です。どうしたんですか?」 涙は溢れて、少し声もうわずってた。 「いや、ちゃんと帰れたかな?ってな。それと… ありがとうな。きちんとお礼言いたかった」 「そんな……俺こそ……」 「ミキ?どうかした?」 俺の様子が変だと気付いた? 「何でも…ない」 俺は溢れる涙を堪え、先輩に悟られ無いように必死になった。 「ミキ。俺はいつでもミキの事を思ってる‼︎ 何かあったら、いつでも相談乗る‼︎ ミキは一人で抱え込むタイプだからな。いつでも俺を頼りにして良いんだよ」 こんな時に…このタイミングで……優しくしないで……先輩に縋り付いてしまいそうになる。 「ありがとう…ございます」 そして先輩との電話を切りスマホの電源を落とし 運転手さんに行先の変更を告げた。 今の状態では……伊織さんの顔も見れない! ……一緒に居たくない‼︎ 言い訳なんか聞きたくない‼︎ 冷静では居られない‼︎ 愛してる‼︎って言ってくれた言葉は……嘘だったの? もう俺の事は……。 伊織さんの裏切りに……酷い言葉を投げつけてしまう‼︎ このままの状態では一緒には居られない‼︎ タクシーの中で溢れる涙を拭う事もできない程、ショック状態だった。 そして……先輩の優しさが…身に染みた。

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