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第762話
店の中を慌てた様子で追い、カウンターに居た祐一に聞く。
「ミキは?」
「今、‘伊織さんの事、宜しくお願いします’って言って店を出て行ったぞ! 何かあったのか?2人共変だぞ」
「後で、連絡する!」
「大丈夫か?そんな足取りで。飲み過ぎなんだよ!ったく!」
祐一のお小言は無視し、俺は店を出て階段を駆け上がり外に出てキョロキョロ…周りを見回したがミキの姿は既に無かった。
通りでタクシーを捕まえ乗り込み、一旦マンションに帰ってみる事にした。
マンションに戻って居てくれ!
頼む!
マンションに居なかったら……真琴君の所か⁉︎
取り敢えず、マンションだ!
早く.早く着かないか⁉︎…と焦る気持ちでタクシーの中に居た。
マンションに近づくに連れ、突然の出来事に焦ってた気持ちが少しずつ冷静さを取り戻し、そして酔いもすっかり覚めてた。
あのシチュエーションじゃ……誤解するよな。
幾ら、酔ってたとしても……そのまま何もせずに放置してたのは…俺だ!
俺は後悔してた。
どうか、マンションに居てくれ!
そしてマンションに着きエレベーターの中も、もどかしく感じ祈る気持ちで乗ってた。
部屋のドアの前で、頼む!どうか部屋に居てくれ!と祈りながら玄関ドアを開けた。
「ミキ!」
靴も脱ぎ捨て、慌ててリビングのドアを開けた。
部屋の中は暗かった。
それでもミキ用の部屋に篭ってるかも知れないと僅かな希望を込め、ミキの部屋のドアをノックしたが応答が無い。
部屋のドアを開けると、やはり部屋の中は真っ暗だった。
俺は暗いリビングに戻りソファに力無く座り、頭を抱えた。
5分程そのままの状態で居たが、やはり真琴君の所だろうと真琴君の携帯に電話してみた。
♪♪♪♪…♪♪♪♪…
数コールで真琴君は電話に出た。
「はい。成宮さん?どうしたの?」
「真琴君の所に、ミキ、行ってないか?」
「えっ! 来てないけど?何かあったの?」
「ちょっとな。また後で連絡するが、もしミキがそっちに行ったり連絡あった場合は、俺に連絡頼む!」
「解った! 本当に、後で何があったか連絡して!」
「ああ。取り敢えず、切るな」
電話を切り、途方に暮れた。
真琴君の所にも居ない⁉︎
俺より先に店を出たはずだ、真琴君の所に行ってるなら、既に着いてるはずだ!
真琴君の電話での様子からは、嘘を吐いてる感じは無い!
それなら、どこに行った⁉︎
ミキのスマホに電話を入れたが、電源が入ってないと無機質なアナウンスが流れた。
俺と話したくないって事か⁉︎
ショックだったが、ミキを探す事が先決だ!と気を持ち直し、ミキの行きそうな所を考えた。
あとは…沙織の所か?
いや、沙織の所なら今頃俺の携帯に文句を言いに掛けてるはずだ。
沙織の所じゃないとすると…優希さんの所か?
一応、優希さんの携帯に電話したが、来てないと言われた。
優希さんも心配する口調で「何かあったのか?」と聞かれたが「いや、ちょっとした痴話喧嘩」と言って直ぐに電話を切った。
あとは……田口や佐藤の所だが……それは無いだろう。
俺とミキの関係がバレる様な事はしないだろう。
残るのは……永瀬か⁉︎
考えたくなかったが……残るのは…それしか思い当たらなかった。
確か…名刺貰ったはずだよな。
永瀬への連絡は田口が窓口になってた為、俺が永瀬に電話する事は無かった。
名刺入れを取り出し、永瀬の名刺を探した。
「あった.あった!」
名刺の裏に手書きで携帯の電話番号とアドレスが書かれていた。
緊急の連絡の為に、一応書いてあったんだろう。
いざ、名刺を手に取り……電話するかどうか迷って居た。
念の為に、電話するだけだ!
ミキを疑ってる訳じゃない!
だが……永瀬の所に居たら……永瀬を頼って……
今日、永瀬と会って話を聞いたはず……もし…万が一、永瀬の所に……それがミキの答えなのか⁉︎
いや、ここでありもしない事を悶々と考えても仕方ない!
一応……念の為だ‼︎
♪♪♪♪……♪♪♪♪……♪♪♪♪…♪♪♪♪…
なかなか出ない電話。
時間も時間だ、寝てるのかも知れない。
それならミキは行ってないって事だろう。
電話を切ろうとした時に、永瀬が電話に出た。
「はい、どなたですか?」
そうか、俺の携帯番号は登録されないから解らないのか。
「夜分遅くに、済まない………。ミキ、そっちに行ってるか?」
言葉に詰まったのは確認するのが、怖かったからだ。
「………来てますよ」
嘘だろ‼︎
永瀬の言葉が信じられず頭がガンガン…痛む‼︎
「代わってくれ! 話しがしたい!」
「……何があったかは知らないですけど。ミキは泣き疲れて寝てます。落ち着くまで、ここに居させます。明日は日曜日だし、ミキが話してくれるか?は解りませんが、落ち着くまで俺が側に居ます!」
泣き疲れて寝てる⁉︎
誤解だとしても、あんな場面見たら……ショックだっただろう。
‘泣き疲れて寝てる’と言われ、ある意味納得してしまった。
俺の所じゃなく……永瀬を頼り部屋に行った事が……ショックだった。
「迎えに行く! 場所、教えてくれ!」
「……ミキは寝てます。少し、そっとしてあげて下さい。これ以上ミキを疲労させないで欲しい。落ち着いたら、成宮さんに連絡いくでしょう。それもミキの考え次第ですけど。じゃあ、おやすみなさい」
「ま.待て! 切るな!」
スマホの画面には電話が切れた表示が出てた。
俺は直ぐにまた電話を掛けたが……電源が切られ連絡出来なくなってた。
ミキのスマホにも電話したが、やはり電源が切られ、俺は何度もLINEを入れた。
♪*連絡くれ!♪*
♪*誤解なんだ! 話しがしたい♪*
♪*何時でも良い、連絡待ってる♪*
♪*頼む! 連絡欲しい♪*
同じようなLINEを何通も送ったが、既読もなく未読が並ぶ。
永瀬の話す事が本当なら…泣き疲れて寝てるなら既読にならない……それが永瀬の所に居ると証明してる気がした。
やはり泣き疲れて寝てるのか⁉︎
なぜ、永瀬なんだ!
俺の所や真琴君の所じゃなく……永瀬を頼った⁉︎
……それがミキの出した答えなのか⁉︎
そして自分の行動に後悔と恐怖が湧き起こる。
ばかな事をした!
今度こそ……永瀬に奪われる‼︎
俺は頭を抱え、鳴らないスマホをジッと見つめてた。
ミキ…ミキ…ミキ……。
連絡くれ!
頼む!
スマホを持つ手に力が入った!
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