762 / 858

第764話

ガチャッ! リビングが開く物音で目が覚めた。 眠れないと思ってたが、また知らぬ間に寝てたようだ。 そしてリビングを静かに歩くミキの姿があった。 帰って来てくれたのか。 ホッと胸を撫で下ろす。 ミキはソファに居る俺に気づかないのか?自室に静かに音を出さないように歩いてる。 仕事に行く為に着替えるんだろう。 ミキの服装は土曜日に出掛けたままだったからだ 部屋のドアを開ける寸前に、慌てて声を掛けた。 「ミキ!」 声を掛けられ、俺がリビングに居るとは思ってなかったのか?一瞬驚き、そして顔を強張らせる表情を見せた。 その表情を見て、俺は咄嗟に聞いてしまった。 「今までどこに……永瀬の所に…居たのか?」 俺の言葉を聞いて強張らせた顔から表情を無くし 人形のような感情もない無表情に変わった。 ヤバい! この顔を見せると言う事は相当怒ってる証拠だ‼︎ 俺はまだはっきりミキから聞いてもいないのに…失言だったと謝るか.訂正しようとした時だった。 「だったら?」 それだけ言って、ミキは部屋に入り鍵を閉めてしまった。 ミキの冷たい表情と返答に血の気が引き意識が遠のくようだった。 やはり……永瀬の所に……寄りを戻した⁉︎……いや、それは…無いと思いたい……。 そのままミキの部屋の前で立ち尽くしてた。 あんな事を言うつもりなかった。 心配してた事や帰って来てくれた事を嬉しく思う気持ちを話すべきだった。 自分の心の中で1番気になってた事が咄嗟に出てしまった。 部屋の中ではガタガタ…音が聞こえる。 会社に行く為に、着替えて準備してるんだろう。 俺はドアの前から、ミキに聞こえるように話した 「さっきの言葉は失言だった。悪い。謝る。ミキが帰って来てくれて、俺は嬉しいんだ。ミキ! 今日はこの部屋に帰って来るだろ?ちゃんと話し合いたい!」 「…………」 返事は無かった。 ダンッ! ダンッ!……ドアを叩き、もう1度話す。 「頼む! ちゃんと話しがしたい‼︎」 ガチャッ! ドアが開き、スーツに着替え眼鏡を掛け会社仕様のミキがビジネスバッグを持ち現れた。 俺を一瞥し、そのままリビングを歩いて行こうとするミキの腕を掴んだ。 「頼む! きちんと話し合おう‼︎ このままじゃ、俺達、だめになる‼︎ 俺の気持ちも正直に話すしミキの話しも聞きたい‼︎ 頼む‼︎」 「……解りました。今日は帰って来ます」 今日は? その後は? 気になるが、先ずは話し合う事が先決だとスルーした。 「ありがとう。今日は何がなんでも定時で上がる! ミキもそうしてくれ!」 「解りました。もう、良いですか?会社に行きますから……いお.課長も早く着替えた方が……」 掴んでた俺の手をミキの手で離された。 そして、そのまま部屋から出て行った。 冷たい表情.いや無表情のミキの他人行儀な言葉使いと……伊織さんと言いかけ課長と呼び直した事で、ミキの怒りの度合いが解った。 これはかなり怒ってる! 話し合いも相当難航するかも知れない! それでも話し合う事を了承してくれた! 今日と言う日が重要な日になると、俺は気持ちを新たにし、そして覚悟を決めてた。 ミキが出て行ったリビングのドアを呆然と見つめて居た。 そして俺も会社に行く為に準備を始めた。 帰って来てくれた……話し合うとも言ってくれた ……お互いが向き合わなきゃ始まらない。 取り敢えずは第一関門はクリアしたと胸を撫で下ろした。 会社で仕事をしてる最中もふとした瞬間に、どう話そうか?何から話そうか?と気がつけばその事ばかり考えてた。 仕事に集中出来てない! 俺はどうせ仕事に集中出来ないし捗る訳もないと早々に諦め、事務処理や雑務を始めた。 後程、書類でも報告するがアメリカ支社に電話し最終確認した永瀬との打合せの内容を先に電話で報告し、そして少しアメリカ事情を聞いたりと時間を潰した。 ミキは出社してから1時間程雑務に追われてたが直ぐに外回りに出掛け社に戻る事は無かった。 そのまま直帰するようだ。 俺も午後からは佐藤を呼び、佐藤に任せてた案件を確認する為に打合せに入った。 急ぎで無い限り、今の俺の心理状態では重要な仕事は大きなミスをするとマズイと思い、そう言う仕事は今日は止め取り留め無い仕事をこなした。 その日は冷静沈着で居るように努めてたが、時間が経つに連れ夕方からそわそわしてる自分が解った。 早く話し合い解決したい気持ちと話が拗(こじ)れ最悪な事態になってしまったらどうしようと言う不安な気持ちとで複雑だった。 迫ってくる就業時間終了が早くきて欲しいようなきて欲しくないような何とも言い難い感覚だった それでも時間は確実に進む。 ミキに定時で上がると言った手前、まだ頭の中では何から話そうか?まだ整理できてないが帰りの準備を始めた。 珍しく早い帰り支度に内勤してた佐藤には「デートですか?」と、揶揄われたが「違うが、大事な用があってな。悪い、お先に」と言いオフィスを後にした。 背後からは「お疲れさまでした~」と佐藤の声が聞こえた。 デートか。 それなら嬉しい限りだが……これからが大切だ! 俺とミキの関係性がどうなるかの正念場だ! 祐一に ‘ちゃんと喧嘩しろ!’って言われたな。 今までだって喧嘩が無いわけじゃなかったが…… あのミキの性格から直ぐに謝られ、それ以上は喧嘩にはならないし俺も強くは言わなかった。 祐一の話す通り1度きちんと喧嘩しよう! 俺も不安だった事や嫌な気分だった事も何もかも包み隠さず正直な気持ちを話す。 そして、ミキを傷つける事になったあの場面の事も俺の気持ちを含めて正直に話し、浮気はしてない事を何度だってミキが解ってくれるまで説明しよう、その事は全面的に俺が悪い…謝って.謝って許して貰うまで謝る! それと……本当に永瀬の所に泊まったのか?きちんと聞こう。 永瀬への返事も…ミキの気持ちも。 逃げないで…現実をみるんだ!と自分に言い聞かせた。 ミキに女々しいとか嫉妬深いとか思われても、それも俺なんだ! マンションに近づくに連れ、あんなに悩んでたのが嘘みたいに晴れ、逆に開き直れた。 帰り道でケーキ屋に寄ってショートケーキを2つ買った。 こんな時に?と思うかも知れないが、仲直りしたい!と言う俺の意思表示だった。 俺はここが正念場と気持ちを新たにした!

ともだちにシェアしよう!