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第776話
「香坂、行くぞ!」
「はい」
「じゃあ、上野さん。すみませんが、あと宜しくお願いします。夕方には戻る予定です」
「はい。行ってらっしゃい」
「宜しくお願いします」
ミキも課の留守番をする上野さんに挨拶し、2人で会社を出て駐車場に停めてある社有車に乗ろうとし、運転席のドアに手を掛けた俺にミキが慌てて「運転は俺がします。部下なのに、課長に運転させられません」と、話すが「良いから.良いから誰も見てないし。取り敢えず、早く助手席に座れ!」と手を振り話し、さっさと運転席に座った。
仕方ないって顔で、ミキは渋々助手席に座ったのを確認して直ぐに車を出した。
昨日の夜に、ミキに「明日、手拭い業社に今回のお礼の挨拶に行く。ミキも同行しろよ」と話した
家の中では、あまり仕事の話をしない俺が突然そう話した事に、少し驚いてるようだったが「電話じゃなく?わざわざ足を運んで?業社も喜びます」と微笑んだ。
朝礼でもその旨を田口や佐藤に伝えた。
内勤が多い俺が外回りに出る事は殆どないが、今回はこちら側から無理言って頼んだ手前1度お礼がてら挨拶に行くと理解してくれてるようだった
それから直ぐに田口と佐藤は外回りに出かけた。
俺達は少し内勤して出掛ける事にしてた。
車の中では、仕事中とは言えやはり恋人同士の2人! 話す事はやはりプライベートな話しをしていた。
走り始めて10分程で、ミキが道が違う事に気がついた。
「伊織さん、道間違えてますよ。迷いました?」
仕事中だっだが、プライベートの話をして居た事もあり、課長とは呼ばず伊織さんと素で呼んでた事には、本人は気付いてない。
そんなちょっと抜けてる所も…可愛い!
笑いそうになった。
「ああ、道は合ってる。手拭い業社の前に1件寄りたい所がある。そっち片付けてから向かう」
「えっ! どこの業社?出版社とか?」
「まあ、仕事関係には間違いない。行けば解る」
意味深な答えに、ミキは頭が?(はてな)マークらしい、何とも言えない微妙な顔をし考えてる。
それから数分程で案内標識が出た、それを見たミキもどこに行くか?解ったようだった。
「…伊織さん。この道って……」
「解ったか?ミキの想像通りだ。あと少しで着く!」
「……………」
俺の予想外の行動に、ミキはどうしたら良いか?戸惑って言葉も出ないようだ。
さてと……どうするか⁉︎
まだ、考えが纏まらないまま目的地に車を走らせてた。
キョロキョロ…辺りを見回す。
1時間前だが……まだ来てないか?
「伊織さん」
小さな声で俺の名を呼び、ミキが見つめている方を見ると……居た!
そこに居たのは……永瀬だった。
永瀬は手荷物カウンターの手続きする為に列に並んでた。
俺達は空港ロビーの離れた所で待つ事にした。
田口から永瀬の渡米の日を聞いた時から考えてた
まだ、どうするか?は何も決めて無かったが、 IP企画に電話を入れ、たまたま電話に出た社員に今回仕事をした事などを話し、挨拶したいとか何とか適当に理由を付け出発時間を一応聞いてた。
考えた末に、俺とミキとの仲は解決したが永瀬とは何だかモヤモヤ…したままだと思った。
たぶん、ミキにとっても今日と言う日を逃したらもう、なかなか会う事もないだろうし、きちんと最後のお別れをした方が結果的にすっきりするんじゃないか?と思った。
それと……俺も永瀬に直接聞きたい事があった。
ミキと仲直りした事で今更とは思うが、今聞かないと後々後悔すると思った事もあり、ここにミキと連れ立って来た。
暫く待つと、永瀬は手荷物の手続きを済ませビジネスバック片手にチケットを見ながら歩いて来た
俺とミキも永瀬の側まで歩き声を掛けた。
「永瀬」
「先輩」
俺達が名前を呼ぶと顔を上げ驚いてたが、直ぐに笑顔になり目の前まで歩いて来た。
「わざわざ、見送りに来て下さったんですか?」
「まあな」
俺は素っ気ない言い方になってしまったが、気にしてないようだ。
「ミキも、ありがとうな」
今度はミキに向かって笑顔で礼を言ってた。
「……伊織さんが」
自主的でない事を話すミキに永瀬は「それでも、来てくれて、ありがと」と、やはり笑顔で話す。
俺はあまり時間も無いと思い、ミキにちょっと頼み事をした。
「ミキ。悪いが、コーヒーを3つ買って来てくれないか?」
突然の俺の頼み事に動揺し困惑してたが素直に引き受けてくれた。
「はい」
「ゆっくりで良いからな」
ミキは一瞬不安そうな顔をしたが、俺の意図を理解し「解りました」と言って、俺達の側から離れて行った。
これが最後かも知れないと考え、永瀬と2人で腹を割って話したかった。
「わざわざミキにコーヒーを買いに行かせて…何か話でも?」
「まあな。腑に落ちない事があるんでね。ここで聞かないと、もう聞く機会がなかなか無いだろうと思ってな。もう、なかなか会う事が無いだろ?最後かも知れないしお互い腹を割って話さないか?」
永瀬の顔が受けて立つ!とでも言うようにキリッ!と表情が変わった。
「解りました。俺も成宮さんに言いたい事があったし、丁度良かった。それで聞いたい事って?」
永瀬も?
何か解らないが…まあ、良い。
今回の事で、ミキの俺への揺るぎない気持ちを知り俺達の絆がより深まった事に自信を持って、永瀬と対峙した。
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