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第779話

成宮さんの思ってもみなかった突然な行動に面食らった。 俺もミキも一瞬固まり、そしてお互い顔を見合わせ笑顔が出た。 「‘5分だけ’って?どんだけ嫉妬深いんだよ~」 成宮さんのミキへの愛情の深さに笑うしか無い。 「本当ですね」 ミキもそう言って笑いながらも、成宮さんの後ろ姿を愛おしそうに見て笑顔になってた。 その目と表情が全てを語ってると思った。 完敗……だな。 そう思ってる俺に追い討ちを掛けるように話し出す。 「でも、俺、伊織さんの嫉妬は凄く嬉しいんです!そして束縛も。……伊織さんの気持ちが.愛情が.解って……誰憚(だれはばか)る事なく気持ちのまま俺に向かってくれます」 さっき成宮さんと話した時にも、そう思ったが。 はあ~! 俺の出る幕ねーな。 完敗・完敗・完敗…だ‼︎ 逆に、気持ち良いくらいだ‼︎ 「そうか。ミキ、良い人と出会ったな」 「はい!」 ミキの返事は迷いも無く直ぐに返ってきた。 最後に、これだけ聞きたい。 「ミキ……もし、成宮さんと出会ってなかったら俺ともう一度やり直す気持ちはあった?」 それには、なかなか返事をくれず考えてた。 「正直、解りません。だって…たらればの話しをしても仕方ないです。現実には、俺には伊織さんが居ます。他の事は想像でも考えられないです」 そうか。 想像ですらも、2人の中に入る余地が無いって事か。 これ程完敗だと、逆に清々しい気持ちだ。 「そうだな、たらればの話をしても仕方ないか。 幸せになれよ。成宮さんなら安心して任せられるけどな」 「ありがとうございます。与えられる幸せに甘んじてるだけじゃなく、俺も幸せにしたい!です。伊織さんと出会う前は、ずっと愛情を求めてばかりでした。与えてくれる愛情に満足したりもしてたでも……伊織さんには俺からも愛情を伝え与えたい! 伊織さんが受け身だけだった俺を変えてくれました。お互いが愛情表現し、幸せにならなければ意味が無いって。これまでだってお付き合いが順風満帆って訳じゃなかったけど、その度に伊織さんは根気強く話し合い俺の話も聞いてくれた。そして必ずどんな時も側に居てくれた。そんな伊織さんが大好きです‼︎」 ミキも変わったんだな。 外見は幼さがなくなり益々綺麗になったが、内面はそうは変わらないだろうと思ってた。 俺の顔を真正面から見て話す……強くなった。 そう変えたのは成宮さんなんだな。 やはり…あの人には敵わないな‼︎ 「そうか。幸せなんだな」 ‘うん’と頭を縦に振り、ふわりと心の底から幸せそうに笑った。 俺は思わず、ミキの頬に手を当てようとした時… 手首を掴まれた! 「5分過ぎたぞ!」 渋い顔をした成宮さんの声に2人で笑いが漏れた 「何が可笑しいんだ?」 俺の手を離し、納得いかない顔で話す。 「いや、何でも」 3人で対峙した所に搭乗のアナウンスが流れた。 「そろそろ行きます! 今日、会えて良かった! これで俺も前に進めます。ミキの事、宜しくお願いします!」 成宮さんに改めて頭を下げた。 「任せろ!」 今日、何度も聞いた台詞だったが、本当に成宮さんなら任せられる!と心の底から思った。 そしてミキには 「幸せになれ! どこに居てもミキの幸せを祈ってる‼︎ これからも先輩として居ても良いかな?」 「当たり前です‼︎ 先輩はずっと俺の憧れの先輩です! それは変わりません。先輩も幸せになって下さい! 俺も祈ってます」 「ありがとう」 これで……本当に終わったな。 でも、俺達の大学で過ごしたあの時間は消える事は無い。 良い思い出として、心の中に仕舞っておこう。 「じゃあ、行きます! 暫くは念願のフェスに注ぎます」 「頑張れよ!」 「大丈夫! 先輩ならやれます‼︎ 応援してます!」 「ありがとう」 そう言って2人から離れ搭乗口に向かった。 そうか! あの時も、渡米した俺をこうやってミキは応援してた。 それが…ミキに甘え逃げる弱い自分をどうにかしたくって疎遠にした……それと、どこかでミキの応援が重く感じてたんだ。 あの時、素直に甘え弱さを見せてたら……。 今も続いてたのかな? いや、それこそたられば…か。 ミキの前では、ずっと憧れの頼れる先輩で居たい.恋人で居たい!と言うちっぼけなプライドが………ばかだったな。 失って初めて大切なものだったと……。 今更、遅い‼︎ 目の前の2人が現実で、絆の深さに俺はつけ入る隙はないと完敗した。 ミキの幸せを考えれば……これで良かったんだ‼︎ チケットを見せ搭乗口を通り振り向くと、まだ2人は見送ってくれてた。 俺は手を振った。 成宮さんは微動だにしなかったが、ミキは笑顔で手を振ってた。 その笑顔を見て、そして俺は前を向いて歩きだした。 さようなら……ミキ‼︎

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