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第789話
「ただいま~」
「お邪魔しまーす」
玄関からミキの声と優希さんの声が聞こえた。
そしてリビングに入って来た2人の背後に「邪魔するぞ」と龍臣の声。
龍臣まで来たのか。
ソファから立ち上がり、優希さんと龍臣に声を掛けた。
「ミキ、お帰り! 優希さん、わざわざすみません!で、龍臣まで来たのか?まっ良い。こっち座ってくれ」
初めて俺の部屋に入った龍臣はキョロキョロ部屋を見回しながらソファに座った。
優希さんも龍臣の隣に座り、ミキは「着替えて来ますね」と自室に向かった。
「へえ~、綺麗にしてるじゃん。お前の部屋のイメージとちょっと違うけど」
高校の時に、俺の自宅の部屋に来た事もある龍臣は物が少く殺風景な部屋のイメージしか無いんだろう。
ミキと同棲する前はそんな感じだったが、今はシンプルだが家庭的な雰囲気になってるからな。
「まあな。部屋はミキに任せてる」
優希さんは前に1度ミキがインフルエンザにかかった時に、看病をお願いした事もあり部屋には入って居た。
「龍臣まで来るとは思わなかった」
「成宮から電話あった後に、龍に成宮の所に行って遅くなるからって電話入れたら、それなら自分が迎えに行く!って言って」
「まだ会社で仕事してたからな。そろそろ帰ろうかと思ったら、優希から電話あって伊織の所って聞いて何かあるんじゃねーかと思ってさ。んで、そのまま時間まで仕事してた」
「そうか。悪かったな」
「別に」
雑談してると、ミキが部屋着に着替え自室から出て、そのままキッチンに向かった。
皆んな揃ってから話した方が良いな。
コーヒーを4つ入れ、ミキも俺の隣に座った所で待ちきれない優希さんが口火を切った。
「で、話しって何?」
優希さん.龍臣.ミキと一斉に俺の顔を見た。
何から話そうか。
取り敢えず三田と出会った話からした。
そこまではミキにも話してた事もあり、ミキも
うん.うん…と頷いてた。
「ここまではミキにも話してたんだが、それからなぜか解らないがoxoxox……oxoxox……oxoxox
……という今の状況なんだ」
三田からの告白.駅での待伏せ.会社での待伏せ.そして告白を断った事や迷惑と何度も話してる事.
とうとう今日マンション前に現れた事を一気に話した。
優希さんと龍臣は神妙に聞いてたが、ミキはそんな事になってたの?と驚いてた。
「伊織さん。何で、そんな事になってるのに話してくれなかったんですか?」
怒っては居ないようだが、悲しい顔を見せた。
そんな顔させたくなかったし自分で解決できると思ったんだが……結果的には悲しい思いさせたな
「悪かった! 俺1人で解決できると思ってたしその内諦めるだろうと浅はかな考えもあった」
「一緒に住んでて……俺も気づかなかった。ごめんなさい」
「ミキが謝る事じゃない。全てはあの女が悪い!」
俺達の遣り取りを見てた龍臣が割って入った。
「それにしてもよ。とんでもない女に関わったもんだ。助けて貰っててよ~。ま、一目惚れで告白するのは解るとしても、その後ストーカーになるなんて最低だな。伊織も災難だったな」
「他人事だと思って! でも、マジ最悪! それに話しても全然聞く耳持たないで! あの女の頭の中で、どんどん妄想して話しが勝手に膨らんで進んでる! このままじゃ、俺と付き合ってる事になりかねない!」
「マジか! 頭の中どうなってんだ‼︎ ちゃんと付き合ってる人居るって言ったんだろ?お前、ちゃんときつく断った?」
「ああ、最初に告白された時に話した。そしたら
‘彼女居ても良いから自分とも付き合って、そうすれば自分を必ず好きになるから’ とか言い出して今日なんか ‘彼女とは直ぐに別れられないなら、待つから’ とか言ってさ。俺、一言もそんな事言ってねーのに妄想が進んでて…迷惑だ!とか付き合ってる人が大切だ!とか言っても聞く耳持たねーしで。マンションまで来るしで…最悪‼︎」
「マジ、いかれてんな‼︎」
ここまで神妙な顔で聞いてた優希さんが口を開いた。
「ちょっと、整理しよう」
「ああ、何でも聞いてくれ」
「まずは、告白の時はちゃんと断ったのね?」
「きちんと断った。付き合ってる人も居る事も話した」
「毎日、待伏せされてるの?」
「いや、毎日じゃない。1日開けてとか数日開けてとか神出鬼没なんだ」
「どうして会社やマンションが解ったのかな?成宮が話したわけじゃないよね?」
「駅で待伏せされた時に2回程話したが、後は避けてた。突然、会社の前で待伏せされた。今日も突然マンション前に現れた。俺から会社やマンションの場所を話す事はしてない! 俺が思うに、告白を断ってから会社やマンションまでつけられてたんじゃないか?と思う。その時は俺も告白を断った事でもう会う事もないだろうと女の方だって会い辛いだろうし、もうこれで終わったと思って油断してた」
「そう」
「それとストーカー行為するなら警察に通報するとも言ったが ‘好きな人に会うのに、何で警察に連絡されなきゃならないの?’ とか ‘話してるだけで何もしてないのに?’とか言われた。話しにならねーよ! んで、今日も管理人に変な人が居る!と見回りをお願いした」
「なる程ね。で、成宮は私に何を聞きたいの?」
「無視して避けてたら諦めてくれると思ってたがマンションまでバレて、ミキに被害を及ぶ可能性も出てきた。会社の出入りの人間も見てるだろうし、このマンションに会社で見た事があるミキが出入りしてるとなったら同棲してるとは思わないかも知れねーが、ミキに何らかの接触あるかも知れねーからな。それで、ミキを暫く預かってくれないか?と言う事と弁護士である優希さんにストーカー行為で内容証明送ったり接触禁止命令とか法で何とかならないか?と思って意見を聞きたい」
「伊織さん、俺は平気です。こんな時に、俺だけ避難して……。俺も一緒に……」
「ミキの気持ちは有難いが、何を言っても聞く耳持たないし変な妄想する女だ‼︎ 何をするか解らない。俺も離れたくないが、ミキの安全を考え暫くは離れた方が良い。こう言う時に、会社で毎日会えるのが救いだ」
「……でも……伊織さんが大変な時に側に居ないなんて……」
俺達の遣り取りを聞いてた優希さんが口を挟む。
「成宮の言う通りだと思う。会社バレ.マンションバレしたなら、美樹君の事もいずれ気がつくと思うよ。恋人だと解らなくっても成宮の情報を聞くのに接触してくる可能性はあると思う。ここは暫くは離れて暮らした方が得策。美樹君の事を気にして成宮が動けないのは相手の思う壺になるしね
それと…家に美樹君を預かる事なんだけど……」
優希さんはチラッと龍臣を見た。
「弁護士である優希さんと一緒なら安心だし龍臣の所は人手があるし何かあった時に安全何だが…無理かな?」
また、優希さんは龍臣の事をチラッと見た。
何だ?何かあるのか?
「ん~、1日.2日なら構わないんだけど。家には思春期の子供も居るし、私と龍臣は仕事で遅くなる時も多いから尊も美樹君もお互い気を使うんじゃないか?と思ってね。それと……1匹野獣が居るしね。そうなると…家が1番危ないかも~。」
最後の方はちょっとおちゃらけで笑って話す優希さんだった。
あ~、そう言う事か!
俺も妙に納得したが1人だけ納得して無い奴が喚く。
「優希! 野獣って、俺の事か⁉︎ まさか⁉︎ 俺が美樹君に手を出すと思ってんのか⁉︎ 出すわけねーだろ。伊織が初めて本気になった人なんだから‼︎」
「ま、一応ね」
優希さんはここぞとばかりに釘を刺したようだ。
ミキの事を引用し浮気防止か?
ま、龍臣に関しては俺も心当たりがあるからな。
一応、優希さんじゃないが、釘を刺しておく事にした。
「そうだな。高校の時にも、俺の付き合ってる奴と平気でヤッてたしな。やはり、龍臣の所は色んな意味で危ないか⁉︎」
龍臣は血の気を引いたような顔をしてた。
「知ってたのか?………でもよ~あん時は、お前は誰とも本気じゃなかったし……。言っとくけど俺からじゃねーよ。伊織に妬き持ち焼かせたくって、俺に言い寄って来たんだ。それにそんな昔の話を持ち出しやがって~。……優希と出会う前の事だ! 優希、信じてくれ!」
昔の事であっても、必死に優希さんに弁解する龍臣は本当に優希さんを愛してるんだな。
何だか、強面で野獣な奴が優希さんの前だと百獣のライオンがデカい猫になってるのが笑える。
優希さんの冷やかな目で見られてる龍臣が可哀想になり、フォローしてやる事にした。
「優希さん、昔の事ですし。龍臣が言ってたように、俺もミキと出会う前は誰とも本気にはならなかったのも事実で。別に、その事は何とも思って無いですし、龍臣の言ったように優希さんと出会う前って言うのも本当です。もう時効なんで、許してやって下さい! 俺から話しておいてなんですが頼みます! でも、優希さんがおっしゃる通り、ミキに万が一手を出したら半殺しにします‼︎ いや殺してやります‼︎」
「その時は、私も手を貸そう‼︎」
半分冗談で半分本気の俺と優希さんは顔を見合わせて笑うと、龍臣は情けない声で「優希~~」と叫んでた。
「まあ、冗談はさておき。美樹君の事なんだけど
1番安全安心な所があるから、そこにしましょう」
安全安心な所?
俺とミキには検討もつかずにいたが、龍臣だけは解ったようだ。
「そうだな。そこが1番安全だ! 流石、俺の優希だな」
2人だけが分かり合ってるが……どこなんだ?
そこは、俺達には予想もして無かった場所だった。
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