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第794話
翌日の月曜日には龍臣から指示されたように、いつもの時間帯に会社を出て最寄り駅に向かった。
会社を出る前に、龍臣の部下にLINEしておいた。
♪*今から、会社出ます♪*
♪*了解!♪*
返信を確認し、姿は見えないがどこかで見てるはずだとひとまず安心し会社を出た。
会社付近には女の姿は無かった。
駅か?
それとも今日は居ないのか?
俺としては一刻も早く女との接触は終わらせたかったが、駅付近にも姿は見当たらなかった。
今日は空振りか?
それとも諦めた?
そんな気持ちで駅に向かうと、どこからか出て来たのか?背後から声を掛けられた。
「成宮さん!」
どこから来た?
……姿は無かったはず‼︎
不気味さを感じながらも、いつもの俺なら無視し足早に通り過ぎるが、今日は立ち止まって対峙した俺に気を良くした女はにこにこ笑顔を見せた。
「やっと、私の気持ち解ってくれたのね?ねぇ.ねぇ~、昨日はどこかに行ってたの?マンションに行ったけど……暫く待ってたわ。そしたらね、変な人が何か言ってて腹が立っちゃった。彼女だからって言っても全然話し通じなくって~。ねえ、前の彼女とは上手く別れてくれた?これから私達の事を話し合いたいから、この後食事行かない?ねえ、いいでしょ?」
彼女?
前の彼女とは上手く別れてくれた⁉︎
何がどうなって、そう脳内変換してんだ⁉︎
俺は一言もそんな事言った覚えも無い‼︎
はあ~、話が通じてないのは管理人じゃなく、お前だろ‼︎
「食事は行かない‼︎ 付き合ってる人とは別れない‼︎
今後一切、俺に関わるな‼︎ 迷惑だ‼︎」
はっきりそう話し、何か言ってる女を無視し駅に向かった。
女は追ってくる訳じゃなかったから、取り敢えず構内に入って安心したが……俺はそれが不思議だった。
ストーカー行為をしてるか?と思えば、こうやってあっさり引く……何を考えてるのか⁉︎不気味だ‼︎
まあ、そんな事より……良し‼︎
これで女の顔や姿は確認出来ただろう。
あとは部下の奴に素性やら探って貰えば良い。
昨日、電気屋でICレコーダーを買って、今の会話も録音してある。
それからの俺は逃げたり避ける事を止め、普段通りに生活した。
女は管理人のお陰でマンションに来る事はなく、駅で、その後2回程待伏せされた。
今度は無視を決め込み話し掛けられても素通りしたが、駅の改札口まで着いて来るようになった。
1度足を止め話した事で、押せばどうにかなると思ったのかも知れない。
今度は強行手段に出始めたようだった。
俺は一切話しもせず顔も見ずに、ひたすら無視を決め込み腕を掴まれたら振り払いと徹底的に無視した。
そしてその間も女の妄想話をICレコーダーに収めてた。
俺にとっては女の事何かより、ミキと離れて暮らしてる方が辛かった。
会社では顔を合わせるが、ミキは外回りにも行くし個人的な話は余り出来ずイチャイチャ…なんて以ての外だった。
毎日電話やLINEはしてあるが……俺の方がミキ不足に日が進むにつれ限界に近づいてきてた。
明るい部屋.美味しい匂い.笑顔で迎えるミキの姿……部屋に帰っても今まであったものがなく…
寂しい部屋に……心も寂しい。
ミキの方は初日の電話では、やはり寂しい…と言ってた。
次の日は俺から電話を掛けた時に、ミキから叔母さんとの話を聞かされた。
‘昨日はお弁当買って部屋で食べたんだけど。今日もお弁当買って来たら、叔母さんが ‘ご飯は用意してあるし、遠慮しないでね。短い間でも、一緒に生活してるんだから家族と一緒なんだから。今は健太と良二しか住込みは居ないけど、昔は沢山人が居てね~。皆んな家族だと思って生活してたのよ。だから、独り立ちして1人1人巣立って行くのは嬉しいんだけど、子供が離れていくようで寂しい気持ちもあったんだよ。美樹君がもし良かったら。ここに居る間だけでも、私達の事を家族だと思って遠慮しないで欲しい。もし良かったら、仕事が早く終わった時には一緒にまた料理しましょう。この間は、優希ちゃんと美樹君と楽しかったわ’ と言われ、感動して叔母さんの前で泣いてしまったと言ってた。
ミキにとって [家族]と言う言葉は、心に深く響いたんだろう。
叔母さん達も情深いのが良く解る話だった。
「そうか。そんなに言ってくれるなら、ミキも遠慮する方が失礼だと思う。そこに居る時には、お父さん.お母さんと言う気持ちで接した方が、龍臣の親達も喜ぶだろう」
「うん! 俺もそう思った!」
電話で顔は見えなかったが、たぶん涙を溜めながらも嬉しそうな顔をしてんだろうな。
そんなミキの姿を見れない事が残念で堪らない。
それからも毎日電話してたが、ミキからの話しは龍臣の実家で楽しくしてる話しが良く聞かされた
‘健太君と良二君は高校卒業の資格を取る為に、週に2日通信学校に通ってるんだよ。他の平日は龍臣さんの建設会社でバイトしてるって。将来は、大型免許取って龍臣さんの配送部門で働きたいって言ってる。見かけより全然良い子達だった‘ とか ‘今日は、早く帰って来て叔母さんと夕飯作って、皆んなで食べたんだ。皆んな、美味しい.美味しいって言ってくれた’ と楽しそうだ。
叔父さん.叔母さん.健太.良二と家族みたいに思って、こっちに帰って来たくなくなるんじゃないか?と、ミキが楽しそうに話す度に不安になる。
その事とやはり龍臣の実家での暮らしも気になり木曜日に会社に車で行き、仕事終わりにそのまま龍臣の実家に向かった。
本当に、限界も近づきミキと少しの間でも2人っきりの時間を過ごしたかったからだ。
前触れもなく訪れた俺にも叔母さん達は大歓迎で迎えてくれた。
「お邪魔します。ミキは?」
「美樹君なら、健太達の部屋じゃないかしら?」
健太達の部屋?
……密室に?
俺は眉を顰めたがそんな俺に気付かずに
「夕飯の用意しておくから。終わったら、いらっしゃいね~」
俺は直ぐに叔母さんに健太の部屋を聞き、叔母さんののんびりとした声を背後に聞きながら向かった。
ノックも何もせずにいきなり襖を開けた。
パタンッ!
大きな音に、3人共顔を上げ入口に居る俺を見上げた。
3人は、健太の部屋で畳に座りテーブルにノートと教科書を出し勉強をしてたようだ。
「伊織さん⁉︎」
「勉強してたのか?」
「ちわっす!」
「数学がどうしてもわかんねーから、美樹ちゃんに教えて貰ってたんっす!」
美樹ちゃん!だと~。
気安く呼ぶな!
「俺で解る所は教えてたんですけど……。伊織さん、ここって、こんな感じで良いんですかね?」
ミキに教科書を見せられ質問され解説してやると「流石! 伊織さん! 解り易い!」と煽てられ、俺もその後、健太と良二に数学を教えてやる事になった。
小1時間程、数学と英語を教えてやり、やっと健太達から解放された。
こいつらに勉強教えに来た訳じゃねーのに!と思いながらも、ミキが話す通り案外良い奴らだ!と解ってホッとした。
それから遅くなったが、叔母さんが用意してくれた夕飯をご馳走になり、ミキの部屋で久し振りに2人っきりになれた嬉しさで、めちゃくちゃイチャイチャ…しまくった。
流石にHは出来なかったが、キスは何度もしどこかしらミキの体に触れて居た。
本当に、Hしたい気持ちを抑え我慢するのが大変だった。
実は、我慢出来ずに2日前にシャワー浴びる時にミキを思い自慰行為をしたが、出すもの出して体はすっきりしたが、1人でスル行為はミキが居ない.1人なんだ!と更に感じ、寂しさと愛しさが増し虚しくなってその日だけで止めた。
だから、久し振りのイチャイチャ…は嬉しかったが、逆に部屋に帰って悶々とする事にもなった。
これまで同棲してから喧嘩で1~2日会わない時があったが(主にミキが真琴君の所に逃避する)これ程長く離れるのは初めてだった事もあり、精神的な癒しもなくなり気持ちが落ち、体の疼きも日々増してた。
何で⁉︎
何もしてない俺達がこんな目に遭わなきゃいけないのか⁉︎
日に日に、怒りも増す。
それでも明日には龍臣から調査報告と優希さんとも対処と対策を話し合い解決に向かうはずだ!
龍臣が「色々面白い事が解りそうだ」と意味深な事を話してたが、聞いても「金曜日の話し合いの時には、はっきり報告出来ると思う」と言われた
この生活も、もう少しだけの辛抱だな。
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