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第802話

まだほんのり噛み跡が残り赤くなってる手の甲を撫でた。 「ごめんな、ここまでさせて……。俺の為に拒絶の言葉を発しないようにしてくれたんだな。昨夜の俺は自分本意のセックスしか考えてなかった…ミキは俺の為にこんな風に献身的に耐えてくれたのに……それなのに俺は……自分が楽になる事しか考えてなかった。幾ら、薬の所為だとしても… ミキの事を考えずに……本当に済まない‼︎」 撫でてた俺の手にもう一方の手を重ね 「さっきも言ったけど、龍臣さんに説明されてたから大丈夫です。それに……これは俺が片手にやった事ですから、伊織さんは罪悪感を感じなくって良いんですよ。伊織さんが苦しんでる姿は見てられなかったし一緒に乗り越えていきたかった。 それに自分本意って言うけど薬の所為で伊織さんの意思とは関係なく体がそうなってしまったんでしょ⁉︎ それに……俺も男だから男の体の事は解ります。伊織さんの所為ではありませんよ。薬の所為です。だから、気にしないで」 そう話すが……確かに薬の効果で何度ヤッテも勃ち上がり出しても出しても治らなかったが……最後の方はミキの淫らで色っぽい姿と……犯してるようなそんな嗜虐な状況に興奮してたのも本当だ……それは俺の意思だったのかも知れないし薬の所為なのかも知れない……今となっては解らない。 それもあってミキの手の甲を見た時に…罪悪感が湧き起こった。 ごめんな。 心でそう謝った。 ミキの優しさが心に染みる。 だからこそ言わないと……。 「あと1つ話さないと…いや謝らないといけない事がある」 「何?」 「あの女に薬盛られて……ずっと体の変化に耐えてたんだが……時間が経つにつれ……この苦痛から逃れられるなら.楽になるなら.楽にしてくれるなら……それしか考えられなくなった。もう誰でも良い……それこそ目の前の女でも良い……女に興味がない俺でも突っ込めばヤル事は一緒だ! それで楽になる‼︎って一瞬考えて……目の前の女に手を伸ばそうとした‼︎ 本当に済まない‼︎」 俺の話を聞いていくうちに、ミキの顔から表情が消えていくのが解った。 「……それで?」 ……声も冷たい。 「手を伸ばそうとした時に……あの女が下衆な笑いをした。その笑いを見てなけなしの理性を一瞬取り戻した。そして、この女の思い通りになってたまるか! 下衆な策略に嵌るもんか‼︎と思ったと同時に……前に祐一の店のトイレでの…あの時のミキの辛そうな悲しそうな顔が浮かんだ。また、あんな顔をさせるのか⁉︎ そんな顔をさせてたまるか!と思い止まった。気が付いたら、女を突き飛ばしトイレに逃げ込んで閉じ籠った。幾ら、薬を盛られて頭が回らず朦朧としてたとしても… 一瞬でも裏切ろうとした。本当に済まない。俺の体と心が弱かった所為だ。済まない‼︎ 謝ってもミキの気持ちを考えると簡単には許して貰えないかも知れないが……本当に済まない。この通りだ」 ミキの前で頭を下げて誠心誠意に謝罪した。 ふう~! 息を止めて聞いてたのか?息を吐き、表情がなかった顔から少し困ったような顔に変わった。 俺の話を聞いてどう思っただろうか? 実際は何も無かったが……一瞬でも裏切ろうとした事に関してはやはり怒るよな⁉︎ 俺はミキがどう思い何を話すか気になるが、自分でも最低だ!と言う罪悪感もあり審判を待つ気持ちで居た。 「……そうですね~。伊織さんの話を聞いて何て答えたら良いのか⁉︎ 正直な所困ります。一瞬でも裏切ろうとした事に関しては……正直…悲しいです!……けど、あの状況では、よっぽど追い詰められてたって事を考えれば……そう考えても仕方無いのかも…そう思います。ただ、なぜ黙っててくれなかったのか?とか.聞きたくなかった!とかそう言う気持ちと正直に俺に向き合おうと言う伊織さんの気持ちも伝わります。もし……あの状況に逆に俺が居たらと考えると……伊織さんのように強くは居られないと思います。たぶん…目の前の人に縋ってたかも知れない……結果的に、そうしなかった伊織さんはやはり信頼できる人だと思ってます」 「結果的には何も無かったが……確かに…黙ってれば、あの時の俺がそう考えた事は誰にも解らないしミキに言う必要もないのかも知れない。わざわざ気分を悪くするような嫌な事を聞かせる必要もないだろうが……俺はそれでもミキの前では正直な自分で居たい。その一方で、自分の中で話す事で罪悪感を払拭しようと言う勝手な気持ちもあったと思う。本当に済まない‼︎ こんな話し聞いて気分悪いよな⁉︎ 罰は受けるつもりだ。‘別れる’って言う事以外は何でも受け入れるつもりだ。それで許してくれ!」 「伊織さん、そこまで思い詰めなくっても……。 一瞬、考えただけでしょ?結果的には何もなかったし、あの辛い状況で良く頑張って耐えたと思ってます。罰なんて…」 「いや、それでもミキを裏切ろうとした事には変わらない! そんな自分が許せないんだ‼︎ 頼む! 何でも言ってくれ!」 「ん~、困ったな…。じゃあ……洗濯溜まってたから洗濯お願いします。あとは……俺が動けないから掃除もお願いします!」 「はあ⁉︎ そんな事で良いのか⁉︎」 「伊織さんが重く考えてるだけで、あの状況なら仕方無いと情状酌量の余地ありですよ?でも、次はありません‼︎からね⁉︎」 「解った‼︎ ありがとう! 次なんて無いから安心しろ‼︎」 ぐうぅぅ~! 「お腹鳴っちゃった~」 「パン買ってきてある。今、持ってくるから」 そしてミキの好きなパンを数個渡し俺は早速家事をしようと行動に移した。 「俺はさっき食った。ミキはゆっくりしてろ! 暇だろうし雑誌とスマホここに置くな」 「ありがとうございます」 そして寝室を出て洗濯を始めた。 ミキと離れて生活してたこの1週間で洗濯は1度だけしたが、どうせ1人だし纏めて後でしようと思ってた洗濯物は結構溜まってた。 部屋の掃除も仕事終わって寝に帰るだけだし汚れる事はないとずっと掃除もしてなかった。 ミキを迎えに行く前に掃除すれば良いと言う考えもあった。 明日迎えに行くつもりで、今日纏めて洗濯も掃除もしようと思ってたが……やり始めると結構大変だった。 日頃ミキが豆に家事をしてた事に改めて感謝した いつも俺が居心地良い空間で生活できるように配慮してたんだな。 そう思い洗濯.掃除.風呂掃除.トイレ掃除まで一通り時間掛けて家事をした。 怠けてた事もあり結構重労働だった。 やっと全ての家事が終わりへとへと…になり寝室に向かった。 「お疲れ様~」 「ん、疲れた~。ミキの有り難みが身に染みた~。いつも家事してくれて、ありがと~な」 「大層な事はしてないですけどね。少し休んだら?」 ベットの片側を開けてくれた。 ミキの隣で座りながら、ゆっくりしてたが話してる間に疲れが出たのか?いつの間にか俺は寝てしまった。 どの位寝てたのか?ミキの声で起こされた。 「伊織さん! 夕飯出来ましたよ~。起きれる?」 「ああ、寝ちまったのか⁉︎ 夕飯?もう、そんな時間?夕飯作ったのか?体、大丈夫なのか?」 「立て続けに言われても、どれに答えて良いか返事に困ります。えっと、夕方に少し体動かすつもりで散歩がてらスーパーに行ってきました。それから夕飯作りましたよ。体はゆっくりさせて貰ったお陰で大丈夫です。ちょっと動作はまだ鈍いしあっちこっち痛みもありますけど、起きた時より全然良くなりました。冷めちゃうから、夕飯にしましょう」 「ああ、凄げ~良い匂いがする。ミキの手料理も久し振りだ! 楽しみ♪」 ミキの後を着いてダイニングテーブルに着くと… 「ミキ? これはどう言う事…だ⁉︎」 「何が?椎茸の肉詰めと椎茸とキノコのバター炒め.椎茸のマヨピザ.椎茸のお味噌汁とキノコの炊き込みご飯ですけど?ちゃんと残さず食べて下さいね♪」 「……………」 俺が唯一嫌いな食べ物が椎茸と知ってるはず…… これも罰!なのか⁉︎ 「さあ、食べましょう♪頂きま~す♪」 「……頂き…ます」 箸を持ち俺が食べるのをにこにこしながら待ってる。 どうするか?1番食べられそうなのは炊き込みご飯か? 炊き込みご飯を一口食べた。 他のキノコも盛り沢山入ってるお陰で大丈夫だ! 良し! 「この炊き込みご飯美味い!」 「でしょ.でしょ! 他も食べて‼︎」 迷う俺をにこにことした顔で待つミキに何も言えず、意を決して椎茸の肉詰めを頬張り数回噛み直ぐに飲み込んだ。 「美味しい?」 「……ああ」 それからミキも箸をつけ、俺の苦行の食事が始まった。 これも罰なんだ!と甘んじて罰を受けたが……やはりミキも思う所はあったのか⁉︎ ……あの優しいミキの静かな復讐⁉︎罰⁉︎…怖い一面を知った。

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