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第815話

そこに小さなチャペルが佇んでいた。 「ここに…こんなチャペルがあったんですね」 「たぶん…結婚式して、それから中庭に出て写真撮ったり談笑したりして、皆んなで祝うのかもな」 「そうかも。小さな可愛いチャペル♪」 「入って見るか?」 「えっ! だめですよ~」 「鍵が掛かってたら止めよう。クリスマスだし試しに…良いだろ」 「解りました。けど、鍵掛かってたら本当に諦めて下さいね」 「鍵掛かってたら入れねーって」 そう言ってチャペルのドアに手を掛けて見た。 キィ……。 「ドア開いた‼︎ ラッキー♪」 「本当に⁉︎ 大丈夫かな⁉︎ 怒られない⁉︎」 「大丈夫.大丈夫! 寒いから、ちょっと中で暖まって出れば良いよ」 「ん……少しだけね」 ミキは不安そうにしながらも、俺にごり押しされ渋々中に入った。 「うわぁ~、あったか~い♪ あっ! マリア様‼︎」 チャペルの中に入った途端、直ぐに奥のマリア像の方に歩いて行く。 カチャッ! 俺は誰にも邪魔されないように鍵を閉め、バージンロードをゆっくり歩きミキの元に行く。 チャペルの中は暖房は点いて無かったが、外気と遮断されてただけあって、やはり外よりは暖かく感じた。 バージンロードの左右に長椅子で5列ずつ並び、スタンドガラスに祭壇。 祭壇の後ろには、大きなマリア像が微笑み見下ろす小さなチャペル。 こじんまりしてるが雰囲気は良いな。 ジッとマリア像を眺めて居たミキに声を掛けた。 「ミキ」 「伊織さん。小さな可愛いチャペルですね。このマリア像凄く母性を感じて慈しみの心って言うか母の深い愛かな。慈愛って言うのかな。何て言葉にすれば良いか解らないけど……。表情から、そう言う心を感じます。宗教的な事は解らないですけど……凄く良い像ですね」 「聖母って言うくらいだからな。見てると、こっちが気持ちが洗われるって言うか.真っ新な心になるな。生まれて間もない純粋で無垢な気持ちってこう言う事なのかもな。母の愛を感じるな」 「うん! 解る気がする!」 俺達は暫く黙ったままマリア像を眺めて居た。 数分だったと思うが、静寂な中で2人だけの時間そして俺は少し緊張して居た。 そんな中で、俺はスーっと静かに息を吐き意を決して、ミキの肩に手を掛け向かい合うようにした 「ん?何?」 ミキの目をジッと見て、またスーっと息を吐き、そして片膝を着いて跪(ひざまず)いた。 ポケットに入れて置いた物を取り出し、ミキの目の前でそれをパカっと開け、そのままの姿勢でミキを見上げ一気に言葉にした。 【ミキ! 家族になろう‼︎ 俺と結婚してくれ‼︎】 勢いと一緒に大きな声ではっきりと言い切った。 ミキは…と言うと、暫くわけが解らずに居たらしく茫然としてたが、目の前に差し出された結婚指輪2つと俺の真剣な表情を交互に見て、やっとこれがプロポーズだと気がついたらしい。 そしてミキからの返事は 【はい。伊織さんの家族になりたいです‼︎】 そう言って、ふんわりと笑った。 俺の好きな笑顔だった。 絶対に受け入れてくれるとは自信があったが…やはり本番になると緊張した。 いや、今日一日ずっとこの事は頭の片隅にあった 俺はたぶんずっとどこかで緊張してたと思う。 「あ~良かった。大丈夫だとは思ってたが…やはりプロポーズするとなると緊張した。この指輪はクリスマスプレゼントと同時に結婚指輪だ。嵌めてくれるか?」 「はい」 そのままミキの細い左手の薬指に嵌め、その指輪にチュッ!っとキスをした。 「永遠の愛を誓う‼︎ どんな事があってもミキとずっと一緒に居る‼︎ 約束する‼︎」 「……伊織さん」 下からミキの顔を覗き込むと目に涙を溜め笑顔を見せた。 俺は立ち上がり、ミキを抱きしめた。 「伊織さん、ありがと。ありがと」 暫くミキは俺の胸で静かに嬉し涙して居た。 「ミキ、俺にも指輪を嵌めてくれないか?」 落ち着いたミキの耳元でそう話すと、抱きしめてた俺の腕から離れケースの中から先程より大きめな指輪を俺の左手を持ち薬指に嵌めた。 ミキの両手を握り向い合う。 「これで晴れて夫婦だ。宜しくな」 「こちらこそ…不束者ですが、宜しくお願いします」 お互いの左手の薬指には、シンプルなプラチナのマリッジリングが輝いていた。 そして近くの長椅子に並んで座り、マリア像を眺めミキは薬指の指輪を触って話す。 「伊織さん、凄く嬉しいです。けど…どうして、改めてプロポーズしたんですか?いつも冗談で ‘俺の奥さん’とか言ってたし…俺も一緒に生活してるから、家族だとは思ってましたけど」 今更って思うミキの気持ちも解るが……。 「いつも冗談っぽくは言ってたが、心の中では本気だった。ミキに負担かけないように.重荷にならないように冗談っぽく言ってた。付き合い当初はまだミキもそこまで気持ちは熟して無かったと思う。俺は付き合って結構直ぐにミキと一生一緒に居ようと決めてたし、ミキの気持ちがそうなるまで待つつもりでずっと居た。この3年近くで色々あったが2人で乗り越えてきた。そろそろミキの気持ちも俺に追いついてきたんじゃないか?覚悟も出来たんじゃないか?って思った。俺もきちんとしたい気持ちも強くなってたしな」 「付き合った当初から…そうだったんだ。俺、いつも気にしてたから……伊織さんのそう言う気持ちとか気付かなくって…」 少し落ち込むミキの頭をぽんぽん…とし励ます。 「そりゃ~世間一般から見たら、まだまだ男同士は受け入れられないからな。ミキが気にするのも解るし、俺達が変な目で見られて居心地悪い思いするのが嫌だからだろ?ミキの気遣いは解ってるから、その事は気にするな」 「……はい」 「それと……本当は、きちんと養子縁組とかして戸籍の上でも夫婦としたかったが会社の事もあるし……。今はしない! だが、何年後か何十年後かには、きちんと養子縁組もしたい‼︎ その位、本気なんだ。今は、お互いの気持ちと信頼関係だけだが、それでもきちんとプロポーズし意識を変えたいと……。俺の言ってる事解るよな?戸籍はまだどうにも出来ないが、気持ちの上では夫婦であると言う意識を持って、これから家族として生活するって事だ。結婚したからには、簡単には別れるとか言えないぞ⁉︎ それに浮気もな」 「解りました……本当なら…俺が会社辞めて…他の所に就職すれば養子縁組も出来るんでしょうけど……。伊織さんは俺の事を考えて無理には…… そう言う優しい伊織さんが好きです」 「いや、ミキが今の仕事好きなのも解ってるし、俺もやり甲斐を感じてるからな。今は、どうにもならないが……先は解らないだろ?俺が辞めるかも知れねーし.ミキが辞めるかも知れねーし。お互いが満足いく形で養子縁組出来るまで待とう。爺さんになってからでも、俺は構わない。ミキがきちんと俺と夫婦であり家族だって認識してればな」 「ありがと……」 また、涙ぐみ俯くミキの頭をぽんぽん…した。 「ほらほら、奥さんにはいつも笑ってて欲しい」 手で涙を拭い泣笑いを見せた。 「俺も伊織さんには笑ってて欲しい。お互い何でも話せて…偶には喧嘩しても直ぐに仲直り出来るそんな穏やかな生活したい。今だって…俺は幸せです」 「俺も毎日が幸せなんだ。幸せ過ぎて…時には怖いと思う事すらある。この幸せが誰かに奪われるんじゃないか?無くなるんじゃないか?ってな。だからこそ……束縛なのかも知れないが…きちんとしたかった。ミキに言っておく! 俺は嫉妬深いし束縛も激しい! ミキと出会う前までは、そんな事は全然無かったが、自分でもそんな感情があるなんて驚きだった位だ。それ程、離したくない愛する人が出来たって事だと思うと……驚きと嬉しさがあった。そう言う幸せを教えてくれたのもミキだ‼︎ 責任持って最後まで付き合ってくれよ‼︎ 俺の嫉妬と束縛に嫌だ!と言っても、もう遅いからな」 俺の左手に自分の左手を重ね笑顔を見せた。 「大丈夫‼︎ 俺も伊織さんに負けない位…嫉妬深いし束縛しますよ。俺…伊織さんがモテるのが……本当に心配なんです。もう少しカッコ悪ければなぁ~って、これまで何かある度に何度も思いました。ごめんなさい。それ程好きなんです」 「俺は確かにモテるが、俺はミキ一筋だ‼︎ 元々、女はだめだしミキ以外は目にも入れないから安心して良い。こう言っちゃなんだが……ミキこそ気をつけろよ」 「えっ! 俺?」 やはり全然自分の容姿には鈍感なんだよな。 「ミキは素直で優しいからな。直ぐに人を信じるし……隙が多い。だから俺は心配なんだ」 敢えて、外見には触れずに話した。 今までミキの鈍感さでどうにかなってたしな。 「……自分では隙があるとは思って無かったけど確かに……流される所や寂しさで…。そう言う所かな。気をつけます」 「もう寂しいなんて言う事もないだろうしな。ま、俺が寂しい思いはさせないから。俺達は家族なんだからな」 「……伊織さん、大好き!」 俺に抱きついた。 ギュッと強く抱きしめ、そして顔を上げさせ頬に手を当て顔を近づけた所でドアがガチャガチャ…音がした。 「あれ?やっぱ鍵掛かってる」 「え~残念~。クリスマスなら開いてると思ったのに~」 外からの声に、ミキの唇に人差し指を当て静かにして居た。 それからガチャガチャ…やってたが、開かないと解ると離れて行ったようだ。 暫く様子見て、ミキと目が合いクスクス…と笑いあった。 続きとばかりに再度顔を近づけキスをした。 額に額を当て 「愛してる。生涯変わる事は無い‼︎ 俺の愛する家族だからな」 「うん‼︎ 俺もずっとこの先も愛し続けます」 また涙を溜めそう言った。 聖母マリアに見守られ俺達は誓い合った。 ずっとこの日を待ってた。 正式な夫婦ではないかも知れないが、プロポーズし受け入れきちんとした事で、これからの俺達はまた家族として絆を深くなるはずだ。 認識してるのと.してないとでは、大きな差がある今はそれで良い‼︎ お互いが納得する形で、また時期がきたら1つ上の階段を登れば良い‼︎ まだまだ俺達には未来がある。 指輪の裏にある刻印に、ミキはいつ気が付いてくるのかな? 俺の気持ちがそのまま刻印されてる。 ミキと出会わなかったら解らずに一生を終えただろう。 ミキとの出会い.愛する人.自分自身より大切な人. 俺の家族.ミキ自身が俺の宝物……それを教えてくれ気付かせてくれた……感謝の気持ち。   〜Thank you for telling me true love〜    (真実の愛を教えてくれて、ありがとう)

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