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第822話

年末は2人でTV見ながらミキの作った年越し蕎麦を食べ、元旦には初詣に行きゆっくり過ごした。 正月三が日が過ぎ、俺の方から連絡し約束してた親との食事会にミキと連れ立って行く事にした。 ミキは「ドキドキ…する」と胸に手を当て何度も話してた。 「そんなに畏まる必要は無い。形式な事だし報告だけだから」 「でも、俺達の事は知ってるんですか?」 「まだ話しては居ないが ‘大事な人を連れて行く’ と話してあるから大体の予想はしてるんだろ?」 「え~! その言い方だと……女性が来るって思ってませんか?」 「いや、それは無いだろ。わざわざ言う必要も無いと思ってたが、俺の性癖は薄々気付いてると思う。ま、今日がカミングアウトかな」 「伊織さん!……適当過ぎです」 「でもよぉ~、俺達の家族の事は話しただろ?家族関係が薄いって言うか.連絡も用事がある時しかしないしな。元々が、そうなんだから今更って感じだし。今回も一応家族だから報告ってだけ。だから、ミキは何も気にしなくて良いし大丈夫!」 伊織さんはそう言うけど……不安だな。 やはり親なら結婚は女性として孫も見たいんじゃ……。 性癖を薄々気付いてると言うけど……知っててもやはり一縷の望みは捨てたくないんじゃ…。 伊織さんは自分の親だから楽観視してるけど…はあ~気が重い。 そうこうしてるうちに待合せのレストランに着いてしまった。 フランス料理の店で、ちょっと家庭的な感じの店だった。 個室が一部屋あり、そこに通された。 部屋に入ると、伊織さんのお義父さん.お義母さんが既に座って待ってた。 部屋の中に入って来た俺達を見て一瞬表情が強ばわった気がしたが、直ぐに2人共にこにこ…笑顔を見せた。 さっきのは何だったんだろう? やはり女性を連れて来なかった事に落胆した? ………だよね。 でも、気を取り直して笑顔を見せてくれた2人に感謝した。 並んで座ってる2人の前に、俺達も座った。 伊織さんはお義父さん似なんだな。 目鼻立ちがはっきりとし、とても男らしいダンディな雰囲気でスーツが凄く似合う素敵な人だった 将来は伊織さんもこんな風になるのかな。  お義母さんは黒のドレスに身を包み若々しく、少し気が強そうな綺麗な人だった。 美男美女の凄くお似合いの熟年夫婦って感じがした。 第一印象でそう思ってると、俺には信じられない事をお義父さんの口から出た。 「久し振りだな。顔を見るのは2~3年振りか? 元気か?」 そんなに会って無いの? 俺は驚き、伊織さんの顔を見た。 言われた伊織さんは何でも無いと平気な顔をしてたけど、俺が見るとちょっと苦笑いしてた。 え~! そんなに気薄なの? 家族なのに! 色々事情はあるのは解ってるけど…ここまでとは思わなかった。 愕然とした! 家族って……俺が思い描いてた家族像とは違う。 俺は家族を事故でいっぺんに失ったけど……生きてる家族が居ても……居ないのと一緒なんだ。 伊織さんが ‘ミキと出会うまでは、祐一と龍臣以外は割り切った付き合いしかしてこなかった’ と言ってたのも頷ける。 家族に対してもこうなんだから、ましてや他人には尚更なんだろう。 それでも信頼出来る祐さんと龍臣さんが居てくれた事に感謝した。 2人が居なければ、他人との付き合いはもっと冷淡だったんだろう。 「本当に。前回会ったのって…確か…日本に赴任する時だったかしら。あっ! その後にも車を借りに顔を出したわね」 赴任の時って……もう3年近く前だ。 お義父さんだけじゃなく、実家に在るお義母さんとも…そんなに会って無いの? 更に、驚いてた。 「そんなに前か?ま、連絡無いって事は元気な証拠だよ。必要な時にはこうやって連絡はするし」 必要な時以外は連絡しないと言う伊織さんはそれが当たり前の様に話す。 お義父さんもお義母さんも特にそれに対しては何も言わない。 これが伊織さんの家族の中では普通なんだ。 「さて、話は食事しながら聞こうか」 店員を呼び、既にコース料理を注文してたらしく運ぶ様に頼んでた。 料理が運ばれるまで世間話や仕事の話をして暫く談笑してた。 その様子を見て…話しはしないわけじゃないんだ 普通に会話してるし笑顔も見せてる。 嫌い合ってたら、こうはならないよね? 伊織さんの家族関係は俺には解り兼ねた。 料理が運ばれてセッティングが終わると店の人が出て行くと「まずは、久し振りの再会に乾杯するか」「そうね」そして静かに乾杯した。 伊織さんとお義父さんはノンアルコールで、お義母さんと俺は白ワインで乾杯した。 食事を開始すると直ぐに伊織さんは世間話でもするように淡々と話す。 「今日呼んだのは、会わせたい人が居るって言ってただろ?こいつが香坂美樹、俺の大切な人だ。ずっと付き合ってて同棲もしてる。この間、正式にプロポーズした。ま、報告だけしておく」 え~! 料理食べながら話す事⁉︎ まるで世間話の延長みたいに……。 「そうか。伊織が決めたなら私は何も言う事はない」 お義父さんは淡々とそう話す。 「ありがとう」 伊織さんも淡々とお礼を言う。 「美樹さん、伊織の事を宜しく頼みます!」 料理を食べる手を止め、俺に向き合い頭を下げた 俺も手を止め、改めて挨拶した。 「香坂美樹です。伊織さんとはもう3年程お付き合いさせて頂いてます。こちらこそ宜しくお願いします」 頭を下げた。 今まで黙って聞いて料理を食べてたお義母さんがナプキンで口を拭き、居住まいを正し伊織さんと俺を見て話す。 何を言われるのか……ドキドキ…した。  

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