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第823話
「最初に謝っておくわ。ごめんなさい。これから失礼な事も話すけど……私の本当の気持ちなの」
本当の気持ち…謝る?
きっと反対される!
でも、覚悟の上だ!
お義母さんに何を言われるか?ドキドキ…が止まらないのと息を詰めた。
「伊織から久し振りに連絡あって ‘会わせたい人が居る’って言われて、本当に嬉しかった。こう言う時が来るとは思って無かったから…。さっき2人を見て……ごめんなさい……女性じゃなかった事に、やはり…解ってた事だったけど、落胆したのも本当なの。たぶん少し顔に出てたかも…ごめんなさい。美樹さん、気を悪くしたわよね?」
それも覚悟の上だったから、俺は黙って頭を横に振った。
「俺が女がダメな事は薄々解ってたんだろ?俺は全然女はダメ! そう言う事なら、ミキの方は女性も相手に出来るんだよ。でも、俺が強引に口説いた。ミキを責めるならお門違いだ!」
伊織さんは俺を庇ってくれる。
「そうじゃないの! 美樹さんを責めてるんじゃないのよ。自分を責めてるの……伊織がそう言う風になったのは……私達の…ううん…私の所為よね
何となく伊織の性癖の事は薄々は感じてたわ。でもダメね。認めたくない気持ちもあって……一瞬でも期待してしまったの。ごめんなさい」
「由紀恵……君だけの所為じゃないよ。私にも責任はある。だが、今更言っても仕方ない事だ。伊織が幸せなら、それで良いじゃないか?」
「そうね。それが1番大事な事ね。美樹さん、伊織の事宜しくお願いします」
「こ.こちらこそ宜しくお願いします」
自分達を責めて後悔してるご両親に俺は胸が痛くなり目に涙が溜まってきた。
泣いたらダメだ!と思うけど……止まらない。
隣に居た伊織さんが俺の頭をぽんぽんし慰めてくれた。
たぶん、ずっと後悔してたんだろう。
何とか家族関係の修復もしたかったんだろうな。
でも……気が付いた時には子供達は大人になってて、今の関係に落ち着いてしまったんだろう。
お義母さんの言葉から俺はそう勝手に解釈した。
「正直に話すと……父さんと母さんを恨まなかったと言ったら嘘だった。それが影響したのか?俺が元々そう言う性癖に生まれたのか?は定かじゃないが、俺はこれで良かったと思ってる。ミキと出会えたんだからな。今は父さんも母さんの事も正直……上手く言えないが…恨む気持ちも何も無いかな?ただ…産んでくれた事には感謝してる」
両親への今の正直な気持ちを話す伊織さんの言葉は冷たいようだけど……以前よりは改善されてると言いたいんだと思う。
「ありがとう」
お義母さんがそう言った事で、伊織さんの気持ちは通じてるんだ…やはり親子なんだ!
涙ぐむお義母さんの肩を静かに抱き慰めてるお義父さん。
この2人が偽りの関係で仮面夫婦だなんて思えなかった。
こうしてると仲の良い夫婦にしか見えない。
「てかさぁ~。そろそろ、そっちもいい加減きちんとしたら?いつまでお互いのパートナー待たせてんの?」
伊織さんの発言に2人共目を見開き驚いてた。
まさか伊織さんがそんな事を話すとは思って無かったらしい。
俺も何も聞いてないけど……。
黙り込む2人に、更に伊織さんは話し掛けた。
「母さんも意地張らないでさ。父さんも世間体とか面倒くさがらずにさ。2人共自分達のパートナー大切じゃないのか?幸せにしたいって思わない?俺、ミキと出会って家族って何なのか考えさせられたよ。ミキはさぁ~、家族を事故で失って家族とか人の絆とか凄く大切にするんだよ。そんなミキの側に居て俺も変わった。これまで家族の事はあまり考えずに必要な時に連絡すればそれで良いじゃんと思ってた。俺の家はそう言う家族なんだってね。別に、それで良いと思ってたけど、俺が本気で好きになって大切な人だと思う相手が出来てきちんと家族になりたい!って思う様になって、父さんと母さんの事も少しずつ考える様になった。このままじゃ相手に悪いんじゃね?幾ら、理解があるって言ってもさ。やはり自分の好きな人と一緒に誰にも遠慮せずに居たいじゃん。生涯を共にしたいじゃん。そう考えると父さんも母さんも考える時期なんじゃねーかな?って。良い機会だから、この事も話そうと思って来た」
なぜかミキが涙ぐんでた。
そんなミキをまたぽんぽん…とした。
俺達のそんな光景を目の当たりにして2人が微笑ましいと見てたのは気が付かなかった。
「そうだな。長い事こう言う生活だったから、別にそれでも良いんじゃないか?と思う様になってた。面倒事を避けてた気がする。そろそろきちんと話し合う時期なのかも知れないな。遅いかも知れないが……」
「まだ遅くねーんじゃね。だってさ、まだ2人共これから何十年って生きるだろ?これから先をお互いの大切なことパートナーと生きていくって考えたら遅くないじゃん」
「……そうね。まさか伊織にそんな事を言われるとは思わなかったわ。大人になったのね」
「俺、幾つだと思ってんの?俺も波瑠も、もう立派な大人だよ。自分達の事は自分達で考えていける。だから俺達の事は気にしないで自分達の幸せを考えなよ。どんな家族の形でも.あまり会わなくても……俺と波瑠にとっては父さんも母さんも家族なんだからさ」
これまでの頑なだった気持ちが素直に話した事ですっきりした。
俺はこれまで何もしなかった、いや放ったらかしてた…本来はもっと早くこうすれば良かったと後悔もあったが、2人の顔を見てまだ遅くないと晴れやかな気持ちになった。
「ありがとう。伊織や波瑠には可哀想な事をした傷付けたとずっと心の中にはあった。言い訳がましいが2人の為にも、このままでも良いと思う気持ちもあった。伊織に言われて……逆に教えて貰うとはな。もう大人だな。私達も歳を取るはずだ残り少ない人生をこれからきちんと考えるよ」
「そうね。そう言う時期なのかもね」
「ま、良く2人で考えな。皆んながそれぞれの形で幸せになれば良いんだからさ。俺はミキと幸せになる! な、ミキ」
「はい! 俺は伊織さんと一緒に居る事が俺の幸せです。お義父さんもお義母さんも幸せになって下さい」
「ありがとう。伊織の事、宜しくお願いします」
「私達は何もしてあげられなかった。あの時期は自分の事ばかりで……後悔しても遅いけど……伊織と……波瑠斗の事は幸せになって欲しいとやはり親だもの考えてるわ。それは本当よ。伊織の事宜しくお願いします」
「解りました。不束者ですけど宜しくお願いします」
「さてと、話も終わったし料理食べようぜ」
「そうだね」
伊織さんが湿っぽくなった雰囲気を変えようと話題を変えたのが解って、それに俺も合わせた。
「ミキ、海老すきだろ?やるよ」
「え~良いの?じゃあ、お肉半分あげる」
「マジ! ラッキー♪」
クスクスクス…笑うお義母さん。
「何?」
伊織さんがそう聞くと
「だって、伊織が子供みたいなんだもん。伊織のそんな姿を見るのっていつ以来かしら」
「俺はミキの前だといつもこうなの!」
「あらあら、美樹さんも大変ね」
「本当に! 外では凄く良い男なんですけどね」
「外ではって! 家だってカッコ良いじゃん」
「はい.はい。伊織さんはずっとカッコ良いですよ?」
「何?その疑問系は?」
「………カッコ良すぎて心配です」
「まあ、俺はモテるがミキ一筋だ! ミキ以外は目にも入らない!」
「凄いな。伊織はベタ惚れか?」
「ああ、出会った時に一目惚れで、ずっとベタ惚れだ!」
「凄い惚気ね。親の前で恥ずかしくないのかしら
聞いてるこっちが恥ずかしいわ」
「……すみません」
「ミキが謝る事はねーよ。事実だ。俺は誰に対しても正々堂々と胸張って言える!」
「本当に変わったな」
「本当ね……良い意味で変わったわ。美樹さんのお陰ね」
「皆んなに俺が変わったって言われる。自分でもそう思う。大切な人が出来ると変われるんだよ。
俺は今の自分が好きだ。これもミキのお陰だ」
「俺も伊織さんと出会って少しずつですが変わってきました。伊織さんは俺にとって信頼出来て尊敬出来る人です」
「2人共出会うべくして出会ったんだな。幸運の持ち主だ。幸せになりなさい」
「はい」
それからは伊織さん達は仕事の話や波瑠の話など今まで話す機会がなかった事もあり、これまでの事をたくさん話してた。
今日の事が切っ掛けで、また新たな家族関係に成れると俺は信じてる。
だって伊織さんもお義父さんもお義母さんも楽しそうだもん。
帰りには何度も何度もお義母さんが頭を下げ「伊織を宜しくね」と言ってたのが印象に残った。
やはり親なんだな。
家族ってやはり良いよな。
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