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第824話

ご両親との顔合わせの食事会が終わり、部屋に戻った俺はソファにグダ~と横になった。 自分で思ってる以上に緊張してたらしい。 部屋に入ってホッとし緊張の糸が切れた。 やっぱ、ここが1番落ち着く。 もう、ここは俺の家なんだ。 伊織さんが俺の側に来てソファに座った。 俺は甘える様に伊織さんの太腿に頭を乗せ膝枕して貰った。 いつもとは逆だ。 俺の頭を撫でる伊織さんの手が気持ち良い。 「ミキ、疲れたか?」 「ん~……疲れたって言うより緊張した~」 「そうか。どうだった俺の親は?」 「ん~……お義父さんはダンディな方で男前だったな。伊織さんはお義父さん似だね。お義母さんはスレンダーで若々しくて綺麗な人だった。歳を召しても2人共美男美女って感じでお似合いの2人だと思った。伊織さんが話す程仲が悪い様には見えなかったけど?」 「そう見えたか?まあ、昔は色々修羅場もあったが時間が解決してくれたんだろうな。それにお互い歳を取ったしな、情や労りの気持ちもあるのかもな。ま、どっちにしろ今の関係は当たり障り無いって感じで返って良好なんだろう」 過去に色々あって今があるんだ。  今日の雰囲気では解らなかったけど…伊織さんに聞いてたけど…俺が思ってる以上に壮絶な修羅場はあったんだろうな。 「どうなるのかと思ったけど、2人共俺達の事は許してくれたみたいで良かった~」 「俺も良い歳だし反対はされないだろうが、少しは心配はあったな。まあ、反対された所で、俺が言う事聞くわけはねーし。反対されたら ‘報告だけ’って言って帰って来てた」 「そんなつもりだったの?良かった~、最悪な事にならなくって。俺達の事より2人はこれからどうなるんだろう。伊織さんが言った様に皆んなが幸せになるのが1番だけど…」 「まあ、なるようになるんじゃねーの。俺はずっと考えてた事や言いたい事は言ったし、後は自分達が誰を大事にしこれからの人生を誰と歩むのか?考えるだろ。俺は切っ掛けを与えただけだ。あとは自分達で話し合うしか無い」 冷たいようだけど、2人の事を考えてるのが解った。 「2人が幸せだと思う方にいけば良いね」 「そうだな。どんな形になっても、それが俺の家族の形だ。色んな家族の形があっても良いと思う」 「伊織さんがそこまで家族の事考えてるのちょっと意外でした。波瑠の事は別だけど。それとずっと会って居ない事や連絡も何年もして無いなんて……ちょっと俺には考えられないけど」 伊織さんの家族への考えを知りたかった。 俺には凄い愛情深いのに…。  「家族の事を考える様になったのは、ここ1年位かな。社会人になるまでは恨んだり嫌ってたからな。それからは疎遠になった事で、親の事は何とも思わなくなった。親は親、俺は俺って感じで、必要な事があれば連絡する程度だったが、ミキと出会って付き合っていくうちに、ミキの家族への思いや人との絆を大切に思ってる事を知り、俺も少しずつ変わった。ミキと同棲していつかきちんと結婚して家族になりたいと思う様になって、そこから親の事も考え出したかな。自分の幸せを考えるとやはり1番大切な人と居て、これからを共に人生を歩むべきだ!と。それに、やはりパートナーに今の状況は失礼なんじゃないかな?ってな。 大切な人に悲しい思いさせるのは……胸張って幸せだ!と言えないのは……ってな。ミキと出会ってなければ、親達のパートナーの事まで考える事はしなかったと思う。ありがとな」 「違うよ。たぶんいずれ伊織さんはパートナーの事を含めきちんと話してたと思う。伊織さんは優しい人だから」 「そう言ってくれて、ありがとう。気分を悪くしたら悪いが……俺な……ミキと出会わなきゃ……たぶん…どうせ本気で好きな奴出来ねーだろうしそれならセックスフレンドの2~3人ぐらい居て、偶に一夜の相手を見つけて、そんな割り切った付き合いして適当に遊びながら暮らしていくんだろうと思ってたし、その方が楽で良いとも思ってたそれで年老いたら誰にも相手にされず1人寂しく暮らしていくんだろうなって思ってたんだ。別にそれでも構わないと思ってた。今、考えるとそう思ってた自分が恥ずかしいが……。でも、ミキと出会って俺の人生は変わったし俺自身も変わった大切にしたい!幸せにしたい!と思える相手に出会えて、それが幸せな事なんだ!ってな。そう考えたら…親の事もそろそろちゃんとしなきゃ…ってなそう思えたのはミキのお陰だ」 「俺はいつも伊織さんが俺の家族のお墓参りに行ってくれる事に感謝してました。伊織さんの家族は気薄と言ってたけど……俺の居ない家族への配慮や愛情で伊織さんも家族に飢えてるんだと思ってた。俺も伊織さんも家族って言葉に切望してたんだね。だから惹かれ合ったのかも。会った瞬間にお互い ‘この人だ!’ってピンッ!ときたんだよ。家族として人生を共にする人だってね」 「そうかもな。若い時はカッコつけて口では生意気な事や割り切ってる様な事言ってたが、今思えば表面上だけのポーズだったのかもな。自分で口にする事で思い込んでた節もある。歳を重ねて色んな経験と人との出会いの中で寂しさとか弱音を吐け信頼出来る人が欲しくなったのかもな。それが家族って形で大切な人と一生一緒に居れる。俺もミキとはちょっと違うかも知れないが、家族に飢えて渇望してたんだな」 「でも、こうやって愛する人と家族になれて俺は幸せです。自分が幸せだと周りの人も幸せになって欲しいとそう思います」 「そうだな。俺も自分が幸せだから、親の幸せが何か考える余裕が出来たんだな。俺は今幸せなんだな。人の幸せを考えられるんだから」 「ずっと幸せで居れば周りの幸せを考えられますね」 「そうだな。俺達が幸せじゃなきゃ他の奴の幸せなんか考えられないもんな」 「うん!」 「じゃあ、取り敢えず俺に小さな幸せをくれ」 頭をずっと撫でてた手を止め、俺の唇に顔を近づけてきた。 チュッ!チュッ! 軽いキス。 キスをして離れていく伊織さんの顔には微笑みがあった。 大きな荷物と責任を下ろし清々しい顔をしてた。 ~後日談~ この1ヶ月後に、お義父さんから伊織さんに電話があった。 「由紀恵とは正式に離婚した。財産分与もきちんとし家は今のまま由紀恵に渡した。伊織に切っ掛けを貰ってあれから話し合い、今はすっきりしてる。今、一緒に暮らしてる人にきちんと結婚する事を話した。泣いて喜んでくれた。それを見てずっと我慢してくれてたんだと改めて感じたよ。これからは大切な人と人生を歩んでいく。でも、俺達は家族だから、何か困った事やそうでなくても連絡くれよ。偶には、美樹さんも一緒に会いたいそして出来れば私の大切な人に1度会って欲しいその時が来るのを楽しみにしてる」 そう言ってたと伊織さんから聞いた。 伊織さんも晴れ晴れとした顔をしてた。 「今度、会いに行くか?」 「うん!」 もう、伊織さんには蟠りはなくなったようだ。 これからは新たな家族の形になるんだろう。 もちろん、お義母さんからも同じ様な連絡があった。 ~後日2~ 世話になった龍臣の両親にも報告に行ったら、2人共「良かった.良かった」「お幸せに」と凄く喜んでくれた。 そして居間で一緒に俺達の報告を聞いてた良二と健太は寂しそうな顔をして小さな声で2人でボソボソ…話してた。 「なあ。美樹ちゃん、とうとう人の者になっちまったな~。あ~俺達の美樹ちゃんが~」 「……それって……人妻って事?良いよなぁ~人妻って。あ~何か響きがエロい!」 「人妻って言ったら、エプロンしてキッチンで料理作ってさ~。トントン…って音が聞こえて……後ろ姿が色っぽいんだよなぁ~」 「そうそう! んで、背後からガバッと…」 小さな声で話す2人の下らない妄想は俺にはしっかり聞こえた! パコンッ! パコンッ!と軽く頭を叩いた。 「お前ら~、今、ミキのエプロン姿想像したんじゃねーだろうな!」 俺は2人に睨みを効かせ話す。 「ち.違います、違います。世間一般的な話です」 「美樹ちゃんの事は想像してませんよ~。信じて下さい」 「本当か⁉︎」 『はい! 誓って本当です』 居住まいを正し胸を張って話す2人を一応信じてやるか。 「解った。なら良い! ミキの事で変な妄想や想像は禁止‼︎」 『はい! 肝に命じます』 そう言って口の根も乾かないうちにブツブツ…言ってた。 「マジで、嫉妬深いよな」 「こんなに束縛されて……美樹ちゃん可哀想~」 「はあ?何か言ったか⁉︎」 『何も言っておりません! 成宮さんの気の所為であります!』 敬礼して話す2人につい笑ってしまう。 こいつらにも世話になったし、気の良い奴らなんだよな~。 俺達3人の会話を聞いて叔父さんも叔母さんも大笑いし、ミキだけは「伊織さん! 健太君も良二君もそんな子じゃないから~」と2人を庇う。 「美樹ちゃ~ん」 「いつでも帰ってきてね」 調子良くミキに話す2人をミキは笑って「また、2人に会いに来るよ」と言ってた。 2人はデレデレ…とだらしない顔をしてた。  全く! 男に興味無い良二や健太もメロメロ…にする天然無自覚.小悪魔なミキには困ったもんだ。 でも、皆んな俺達を祝福してくれてた。 ここにも俺達の理解者が居る事に感謝してた。

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