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第833話 其々の夜(沙織x大輔)
「ごめん、不安にさせた?俺がずっと言いたかった事は……俺達の子供が欲しい!って事」
えっ! 子供⁉︎
いきなり子供の話を言われ、思ってもない事で驚いて、大ちゃんの顔を見上げた。
にこにこ…笑ってる。
「子供って…赤ちゃん?」
「そう! 俺達の赤ちゃんが欲しい! 結婚当初は会社の事もあるし、新婚生活もしたいから2~3年は2人で良いよね!と沙織さんに言われて、俺もまだ良いかなぁ~って思ってた。2人の生活も凄く楽しいし良いんだけど……俺、家族が欲しいなって最近思ってきて。街で、家族連れの人達見ると沙織さんに似た勝気で元気な子が欲しいなぁ~って」
「それを言うなら、大ちゃんみたいに優しい頑張り屋の子がいいわ。でも、私が妊娠したら…会社は?事務や経理は?私がしてるのよ」
「それを言ってたら、沙織さんずっと妊娠出来ないじゃない。事務員を募集しても良いし」
事務員?人を入れるの?
子供出来たら…私が会社に戻る場所がなくなってしまう。
大ちゃんの側に居て支えられなくなる。
そんなの嫌!
「私……新しい人は…必要ないわよ。私、子供産んでも大ちゃんの側に居て仕事したいわ」
赤ちゃんが居たら…今までのようには仕事できないかも知れない……私の我儘なのも解ってる……
でも、大ちゃんの頑張りを側で見て支えたい!
私の返事に大ちゃんは少し考えてた。
「それなら沙織さんが妊娠中は無理ない程度に会社で仕事して貰って、赤ちゃんが出来たら在宅ワークでもいいし、会社に数時間だけ勤務する事があったらお義母さんにその間子供お願いしても良いんじゃない?色々選択肢はあるよ」
「……在宅ワーク⁉︎」
「そう。それなら新しい事務員もいれる事ないしどうしても必要なら短期で契約社員を雇っても良いし。仕事の事はどうにでもなるよ! 俺は沙織さんとの子供が欲しいんだ。子供も直ぐには出来ないかも知れないけど……俺、今までは子供出来ないように気を付けてたから。これからは沙織さんが良いって言ってくれたら……いつ子供出来ても良いようにしたい。無理に作る必要も無いけど、これからは自然に任せていきたい」
大ちゃんが子供出来ないように気を付けてたのは知らなかった。
これまで私の意見を尊重して……。
大ちゃんはもう決めてるんだろう。
畳かけるように必死に説得してくる。
周りの人達は皆んな私が主導権を握ってるように思われるけど…最終的には決めるのは、いつも大ちゃんだ……そう言う男らしい所が好きな所でもある。
「沙織さんが会社の事を気にかけてくれてるのは解ってる。今までの取引先に加えて、海堂さんが紹介してくれた新規のクライアントも何社か出来たし、業績が急激にアップしたわけじゃないけど軌道に乗り安定してる。この先は、どうなるか解らないけど家族が増えたら、また俺も一家の大黒柱として頑張れる! だめかな?」
一家の大黒柱……大ちゃんがそんな事を言うなんて…大ちゃんの責任と覚悟が伝わった。
大ちゃんも大人の男になったのね。
頼もしくなった。
確かに、新婚生活を楽しみたい! 将来は子供が出来るだろうから、短い2人の生活や時間を過ごしたい!とは思ってた……その反面、会社の事以外で子供が産まれて家庭の事までは、まだ大ちゃんの重荷になるだろうと思っても居た。
だけど…大ちゃんは子供や家庭が仕事の糧と考えてた……大ちゃんらしいな。
家族を持って、更に飛躍して欲しい!
私の不安は消えていった。
「解ったわ。でもね、1つだけ条件があるわ。お願い事って言う方が正しいからしら」
私の言葉に大ちゃんの方が動揺してる顔をしてた
私が何を言うかドキドキ…してるのかしら?
可愛いわ。
「な.何ですか?」
「大ちゃん! 私達、夫婦でしょ?」
「は.はい!」
「そろそろ……沙織さんじゃなく ‘沙織’ って呼んで欲しいわ。子供が出来たら…子供の前で ‘沙織さん’ は、変じゃない?」
付き合ってた時からずっと ‘沙織’ と呼んで欲しかった、そして付き合いが長くなれば成る程、その思いは強くなったけど……大ちゃんの性格を思うと…その内に言ってくれるようになると長い目で見てた。
結婚したら流石に…と思ってたけど、結婚しても変わらない呼び方…他人行儀で…寂しかった。
大ちゃんには、そんな気持ちは全然無いと思う…素直な人だからね。
大ちゃんは思っても見なかった事を言われた…とポカンッとした顔をしてた。
可愛い!
「呼んでくれないの?」
「よ.呼びます.呼びます!………さ.沙織…」
遠慮がちに小さな声だった。
「聞こえないわ」
「……沙織!」
息を吸い、今度はしっかりと大きな声で言った。
「はい、大輔さん」
私がそう返事をすると頭を掻いて照れてた。
「沙織さんの方が大輔さんって言うのも変ですよ」
照れ笑いしてる……可愛い!
「ほら、また沙織さんに戻ってるわよ?沙織さんって言ったら返事しないわよ?」
プイッと横を向いた……怒ってる振りだけどね。
「さ.沙織~」
焦ってる大ちゃん……可愛いわ。
「何?」
「つい長年の癖で……慣れるようにします」
「よろしい!」
大ちゃんの頭を撫でてあげた。
その手を掴み握りしめ真剣な顔をする。
ドキッ! 真剣な顔…カッコいい!
「沙織! 俺と賑やかな家庭を一緒に築いて下さい
沙織と子供は絶対に俺が守りますから」
男らしい大ちゃんにドキドキ…が止まらない。
「ふふふ……2度目のプロポーズみたいね。凄く嬉しいわ。宜しくね、一家の大黒柱さん!」
「はい! 成宮さん達の結婚式見て…もう一度、今の俺の気持ち言いたくなった。俺達も将来の事を考えていく時期だと思った」
「そう、大ちゃんの気持ちは解ったわ。お互い焦らずに無理なく自然の成り行きに任せてましょう! 私もいつ赤ちゃん出来てもいいわ!でも、子供出来たら、今までのようにヨシ君達と会えなくなるのが寂しいわね」
「子供が出来ても会えば良いじゃないですか?子供連れて皆んなとBBQしたり、大将の所なら飲み会にも連れていけますよ。それに俺やお義母さん達に頼んだって良いし。無理に会わなくなる必要はありませんよ。ヨシ君達だって寂しいと思います。そこはストレスなく臨機応変にしましょう。俺もそうします」
「そうね。今日も思ったけど……良い仲間を持ったわ。これから皆んなの状況も変わっていくだろうけど……ずっと、この先も友達で居たいわ」
「俺もです! 家族と同じ位…大切な人達です。沙織、子供が1人のうちは3人で暮らそう。将来2人.3人と子供が増えたら、俺ももちろん子育ては協力するけど、沙織の手に追えなくなる前に、お義父さん達と同居しよう! お義父さん達も孫と暮らせたら喜ぶだろうし、沙織も息抜きも出来るし仕事もしたかったら無理しない程度に短時間でもすれば良い」
「大ちゃん……ありがとう」
大ちゃんの話に感激して胸が熱くなった。
私の両親の事まで…将来を考えて……この人と結婚して良かった。
私は幸せ者だ!
大学の先輩.後輩の間柄から付き合うようになって
大ちゃんの事をどんどん知るようになって、私は ‘この人は絶対将来良い男になる’と直感した。人柄や学生のうちに会社を起業する行動力と目標に向かう姿勢やら頑張りに……側に居て、男として育てていきたい!と思った……結婚して、大ちゃんの中でも変化があったのかも……責任と覚悟.子供の事、そして私の両親の事まで考えてくれてた……懐の深い人になった。もう、支えるとか育てたいとか痴(おこ)がましい。私の直感が当たってた…凄く良い男になった。今後もっと成長し頼り甲斐のある男に……ずっと側で見守っていきたい!
「沙織と俺の子供が出来たら…嬉しいな」
「大ちゃん、めちゃくちゃ子供可愛いがりそう。
子供ばっかりじゃなく私の事も忘れないでね?」
「もちろん! 子供は可愛いと思いますが…沙織が居ての子供です。沙織と俺の子供だから可愛いんです」
「私が1番?」
「今から子供と張り合うつもり?もちろん!沙織が1番です! 沙織、愛してます!」
「ふふふ……私もよ! 子供の話してたら欲しくなっちゃった。大ちゃん似の子が欲しいわ」
「俺は沙織似の子が欲しいです」
「楽しみね♪」
「はい! 沙織……寝室に行きませんか?……ロマンチックに…上手く誘えなくって、すみません!」
ちょっと不器用で真っ直ぐな大ちゃんらしい誘い方だった。
「ふふふ…大ちゃんらしいわ……連れてって下さる?」
「はい! 捕まって下さい」
大ちゃんはお姫様抱きで寝室に連れって行ってくれた。
大ちゃんの匂いと抱きしめる腕……あったかい。
その中で、私は夢を見てた。
たぶん、大ちゃんに子供の話をされた事で……でも、とっても幸せな夢だった。
公園で私似の活発な小学1年生位の男の子が大ちゃんとサッカーをしてた。
木陰でピクニックシートを広げておままごとをしながら2人を応援する私と大ちゃん似のおませで可愛い5歳位の女の子。
彼女の髪の毛はいつも可愛い髪型にし可愛いお洋服を着ている。
私達に手を振る大ちゃんと男の子に笑顔で手を振り返す。
そして私は膨らみ始めたお腹を撫でてた。
そんな幸せな夢を見てた。
たぶん近い内に現実になるのかも知れない。
予知夢⁉︎正夢⁉︎……幸せな家庭……良いかも‼︎
私は夢を見ながら笑顔になってたかも。
そしてこう思った。
この人を選んで良かった! 私を選んでくれて、ありがと。
私達にとっても凄い良い思い出の夜になった。
俺の腕の中でスヤスヤ…眠る沙織の寝顔を見てた。
「疲れさせちゃったかな」
偶には、俺も激しく抱きたくなる時もある。
今日は、ヨシ君達の結婚式を見て、自分達の結婚式の事を思い出したりして気持ちが昂ってた所為もある。
沙織さんは…いや、沙織は時々 ‘大ちゃんじゃなきゃ、こんな我儘な私は結婚出来無かったかも~’ なんて冗談っぽく話すけど……沙織なら引くて数多だったはず。
大学で初めて会った時に ‘綺麗な人だな’と思った
少しずつサークルで親くなるにつれ、綺麗なだけじゃなく性格も良いのも解り、どんどん俺は好きになった。
でも、その時には沙織には彼氏は居た。
沙織は良い所のお嬢様なのに、そんな事を微塵も感じさせない程庶民的で困ってる人を見過ごせない優しさがあるが、善悪をはっきり話す所もあり気の強さで損をするような所もあった。
俺はそんな沙織に憧れて、そして惹かれていったが、俺には…高嶺の花の人だと思ってた。
俺より良い男がたくさん居る中で、引くて数多な沙織が俺を選んでくれた。
ダメ元で、沙織に交際を申し込んだ時に「私も頑張り屋な大ちゃんの事好き」と言われた時には、天にも昇る程嬉しかった。
俺を選んでくれた沙織に後悔されないように、俺を選んで良かったと思って貰えるように……今までも頑張ってきたし、これからも頑張る‼︎
沙織……俺を選んでくれて、ありがと。
大切にするよ‼︎
これからも君と将来生まれてくる子供を守っていく。
愛してる‼︎
今日と言う日は、俺にとってもまた気持ちを新たにした日となった。
~その後~
大ちゃんは、私を ‘沙織さん’ とはもう2度と呼ばなくなった。
‘沙織’ と呼ばれる度に、私は大ちゃんの事がもっと好きになる。
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