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第852話 コンヴァージョン(変化)
朝食を終え、ロビーでの待合せ時間を決めチェックアウトまで各部屋でゆっくり過ごす事に決まり
ぞろぞろとレストランを出て、何となく名残惜しく立ち話をしてた。
俺は龍臣と矢島君と話をしてた。
やはり話題は祐一達の結婚話だったが、詳しい内容は聞いて居なかった事もあり「良かったな」「祐一達も付き合いは長かったからな。このままなのかと思ってたけど、良かった」「成宮さん達の事が良い刺激になったんじゃないんですかねー」と話しをしてた。
その直ぐ近くでは、祐一と真琴君と優希さんが何やら立ち話をしてた。
真琴君が照れてる所を見ると優希さんから祝福の言葉を受けてるらしい。
束の間の立ち話が終わり、そろそろ部屋に行くか?となった時に、ミキに声を掛けようとしたがキョロキョロ…辺りを見回してもミキの姿は無かった。
「あれ?ミキは?」
「ヨシ君なら、あそこで沙織と話してますよ」
矢島君が指刺す方向を見ると、まだレストラン内の片隅で沙織と立ち話をしてる。
何やら神妙な顔で沙織の話を聞いてるミキの姿が気になる。
真琴君のウェディングドレスの件をまだ諦めてないのか?
ミキに真琴君を説得してくれ!とでも頼んでるのか?
ったく! 仕方ねー奴だなぁ。
後で、部屋に戻ったらミキに話を聞いて沙織に俺から言ってやろう!と決め、ミキに助け船を出す事にした。
「お~い、ミキ。そろそろ行くぞ~」
俺の声にハッとした顔をし沙織と2人で俺達の所に合流し、皆んなでぞろぞろ歩き各部屋に移動した。
その時にも、沙織と2人で後ろで小声で何やら話してたが、俺達も話をしながら歩いてた事もあって内容までは聞こえ無かった。
皆んなと分かれてから、部屋に向かって歩いて居る時に俺が話しかけても「ん?あっ!そうだね」と聞いてるんだか?聞いてないんだか?心ここに有らずと言う感じで、何やら考え込んでるのか?神妙な顔をして上の空な返事が返ってくる。
やっぱり!
後で、さり気なく聞いてみよう!
そう思いながら、俺達の部屋に入った。
「あー腹いっぱい」
そう言いながらソファに座るとミキも隣に座ってきた。
「ん…俺も」
まだ、神妙な面持ちで何やら他の事を考えてるような生半可な返事をしてきた。
「それにしても祐一達には驚いたな」
さり気なく祐一達の話題に触れた。
「う…うん。でも……マコ、凄く嬉しそうで良かった」
「そうだったな。ま、祐一も ‘そろそろ俺達もきちんとしないとな’ って、俺が結婚報告した時に話してたからな。近いうちに…とは思ってたが」
「えっ! そんな話してたの?知らなかった。伊織さん! 何で、教えてくれなかったの?」
そう俺に問い詰めるように言ってから、ハッとした顔に変わった。
責めるように言った言葉を言ってしまった!と思ったんだろうと俺は理解してた。
「そう言ってただけで、具体的にいつ.どうするか?とか聞いて無かったし、ミキに話して、変に期待させても…と思った。それに、祐一にもタイミングとかあるだろうし。近いうちかな?って思ったが、ミキにもだが誰にも言わずに居た。それにこう言う事は周りで言われて行動する事じゃないしな。飽くまで、祐一達2人の事だからな」
「そ、そうだよね。伊織さんの事を問い詰めるように言って……」
そう言いながら、またハッとした顔をした。
何なんだ?
さっきから変だぞ⁉︎いや、沙織と話してからか⁉︎
そしてまた神妙な顔をして考え込んでるミキの姿に訳が解らない俺は耐えきれずに、何を沙織に言われたのか?聞こうと口を開き掛けた時に、それまで神妙な顔をして考え込んでたミキが真剣な面持ちで突然立ち上がった。
「コ…コーヒー…入れますね。い…伊織も飲むでしょ?」
俺の返事も聞かずに、さっさとコーヒーを入れに行くミキの後ろ姿に俺は声を掛けた。
「ああ、頼む」
そう言ってから、今度は俺がハッとする番だった
そしてミキを見たが、何事も無かったようにコーヒーを入れて居た……。
今、’伊織’って呼び捨てにしなかったか⁉︎
聞き間違いか⁉︎
朝食の時の沙織達の事が羨まし過ぎて幻聴でも聞いた?
ミキがさっさと離れた為に、確かな事は解らず半信半疑だったが……そうだったら嬉しいな!と幻聴でも良いと思ってた所に、ミキがコーヒーを2人分手に持ちやって来た。
「はい、コーヒー」
「ああ、サンキュ」
本当は今直ぐにでも確認したかったが、俺は幻聴なら落胆すると思い、その事には触れずにミキが入れてくれたコーヒーカップを手にし口を付けた時だった。
「美味しい?……い.伊織…」
俺はコーヒーカップを口につけたまま固まってしまった。
小さなか細い声だったが……確かに ‘伊織’と…。
そして数秒後……徐々に嬉しさが込み上げてきた
コーヒーカップをテーブルに置き、ミキに向き直った。
「今……‘伊織’って…」
ミキは照れながらも、俺の様子を伺うように上目遣いで見て話す。
「…変かな?……ちょっと照れ臭い」
その顔も可愛くって堪らなかったが、今はそれ所じゃない!
「全然、変じゃない! 凄く嬉しい‼︎ めちゃくちゃ嬉しい‼︎」
俺は思いもしなかった展開で、嬉しさが溢れ過ぎてテンパって日本語が変だったが、自分ではそれすら気が付かない程だった。
「い.伊織がそんなに喜んでくれるなら……もっと早く呼んであげれば良かった。遅くなって…ごめんなさい」
ずっと、そう呼んで欲しかった。
もう、諦めの境地に居たから尚更嬉しかった。
ミキは '遅くなって’と言って謝るが、これから先の2人の人生や生活を考えると全然遅いとは思わない!
逆に、無理してないだろうか?
付き合って数ヶ月の時だったか?…もう、だいぶ前で時期は忘れたが…ミキに ‘伊織’ と呼んで欲しくって、セックスを盾に散々焦らして快感で朦朧としてる時に強引に約束させた……そうでもしないと、ミキは言ってくれないだろうと判断し強引な手段をとったが……セックスの時に強引な手法ではやはり俺が強く望んでる事は伝わらなかったのか?それとミキの性格的な事もあり、結局は、無理だったようで、今に至る。それなのに…なぜ突然の心境の変化をしたんだろう?
嬉しさと共に、そんな疑問も頭に浮かんだ。
「いや、謝る必要はない! 強制ではなく、そうミキの方から言ってきてくれた事が……そう言う気持ちが嬉しい。ありがと!……でも、無理してないか?」
頭を横にし、笑顔で ‘伊織’と呼ぶ事にした理由(わけ)を教えてくれた。
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