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第853話 コンヴァージョン(変化)
「実は…切っ掛けをくれたのは、沙織さんなんです」
沙織⁉︎
なぜ、ここに沙織の名前が……あっ! そう言えばレストランで……てっきり、真琴君の話をしてると思ってたが……ミキが神妙な顔をし始めたのもその時からだったな。
「沙織が⁉︎ 何か言ったのか?」
「変な事は言われてませんよ。レストランを出る前に、偶々近くに居た沙織さんに ‘良かったですね。沙織さんの事 ‘沙織’って、矢島さんが嬉しそうに何度も呼んで幸せそうでした’ と、沙織さんも呼ばれて嬉しそうにしてたから、そう声を掛けたんです」
ミキも気が付いてたのか。
あの場では、そんな素振りも見せなかったが……鈍感だなっと思ったのは悪かったな。
こっそり2人を温かく見守ってたって事か。
「それで?」
「そうしたら、沙織さんが嬉しそうに話してくれました。‘実は、昨日の夜に色々話す事があって、ずっと言えずに居た事を大ちゃんに良い機会だからって思い切って言ってみたの。夫婦になってもいつまでも沙織さんって呼ぶの他人行儀だな~と思ってた事.沙織って呼び捨てにして欲しいって。ずっと、大ちゃんがそう呼んでくれるの待ってたんだけどね。大学の先輩後輩って仲から付き合い始めて、その時には ‘沙織さん’って呼ばれてたし私が年上って事もあっただろうし、大ちゃんの性格からして直ぐには無理だろうとは思ってたけどね。何度か、これまでも言おうとしたんだけど…そんな小さな事に拘ってると思われのも……と、思うと言い出せなくなってたの。大ちゃんは何とも感じて無かったとは思うわ。たぶん、長い付き合いで ‘沙織さん’って呼ぶのは癖になって当たり前の事だったんでしょうけど……付き合ってる時はそれでもまだ良かったんだけどぉ……夫婦になっても変わらない ‘沙織さん’ 呼びに……凄く他人行儀で寂しかったの。そう打ち明けてくれました」
沙織がミキに打ち明けた内容には、俺は大いに共感して居た。
沙織のその気持ちは痛い程凄く解る。
「それから?」
「何だか……沙織さんの話を聞いてるうちに…俺も…身に覚える事があって…考えさせられました
沙織さんに言われました。‘私の気持ちを話したら大ちゃんも解ってくれて…それから大ちゃんはずっと寂しい想いさせたからって、たくさん‘沙織’って呼んでくれたの。凄く嬉しかった! たぶん自分も慣れる為でもあったんでしょうけどね。そう言う努力とか私の気持ちを考えてくれる所も嬉しかったの’と言って。更に、俺には言い辛そうだったけど、こうも話してくれました。‘ヨシ君……伊織も私と同じ気持ちだと思うわ。会社の上司と部下それに年上で付き合った時から、長い間 ‘伊織さん’ 呼びでしょ?私達と似た状況じゃない?伊織も、ずっとヨシ君には ‘伊織さん’ じゃなく ‘伊織’って呼んで欲しいかったんじゃないのかしら。好きな人なら尚更そう思うはずよ。夫夫になっても他人行儀な呼び方は寂しいわよ?夫夫になった今なら、良い切っ掛けじゃない?‘伊織’って、呼んでみれば?この機会を逃すと、この先呼べなくなっちゃうわよ?……今更、照れたりとかヨシ君の性格的な事もあるだろうけど、頑張ってみても良いんじゃない?絶対、伊織は喜ぶわよ。好きな人の喜ぶ顔見たいでしょ?頑張って!’ と、最後は励まされました。沙織さんの話を聞いて……沙織さんの気持ちが、い…伊織の気持ちを代弁してるのかな?って……。ただ年上で失礼の無いようにって付き合い初めにそう思って ‘さん’ 付けにしたのが、今では何も考えずに当たり前になってました俺は何も考えずに居たけど……。沙織さんの話を聞いて……考えさせられました。そして反省もしました。好きな人だからこそ…大事な人だからこそ……‘伊織’ って呼ぶべきだった。俺……友達に揶揄われて ‘ミキ’って呼ばれるの凄く嫌だったけど…大好きな家族は親しみを持って ‘ミキ’って呼ぶのは好きだった。大事な人達から ‘ミキの事を好きだから、そう呼ぶんだよ’って言われてるようで……家族は特別ってそう思えた。伊織にも同じ事だったんだね。いつまでも他人行儀に呼ぶんじゃなく親しいからこそ…家族なんだもんね」
沙織がそう話してくれたのか。
ミキの言う通り、沙織の気持ちや話した内容は俺の気持ちそのまま代弁してた。
ありがと.ありがとう!…沙織。
感謝しても仕切れない。
俺はもう話す事はないと思った、沙織が全部代弁してくれたからな。
そして、その気持ちを汲んでくれ変えようと努力してくれるミキにも感謝した。
「もう俺が話す事は無いな。全て、沙織が言ってくれた」
ミキは申し訳無さそうに眉を下げ話す。
「い.伊織……ごめんなさい。俺は沙織さんにそう言われて初めて伊織の気持ちに気付きました。だいぶ前に ‘伊織’って呼んで欲しいって言われた時には深く考えずに居て……その内に、そう言われた事も忘れてた。同じ境遇の沙織さんだからこそ…伊織の気持ちを理解して……遠回しに、伊織の気持ち代弁して俺に言ってくれた。他の人に言われて気がつくなんてね。伊織に申し訳ない気持ちと伊織の気持ちに気が付いた今言わないと…もう呼ぶタイミングを失うと思った。まだ、慣れなくってぎこちないけど……これからは ‘伊織’って呼ぶね」
もう俺の気持ちは充分に伝わってる。
‘伊織’ と呼ばれる事も凄く嬉しかったが、何だかミキの言い方も砕けた感じになった気がして、以前よりもっと.もっと身近に感じる。
本人が言うようにぎこちないが、それもいずれ普通になるだろう。
今度こそは、元に戻らないで欲しい所だが……いや、今度は大丈夫だ‼︎
「本当は、ちょっと諦めてた。そんな呼び方に拘ってる俺は狭量なのかも知れないが……呼び方1つで、もっと.もっとミキを近くに感じたかった。そう思わせるのは、今までもこれからもミキ1人だけだ! さっきは無理してないか?って言ったが
……俺も今回逃したら、もうミキからは言い辛くなるだろうと思う。ちょっとだけ…俺の為に頑張ってくれ! 俺を喜ばせるつもりで……そうしてるうちに呼び捨ても慣れてくるだろうし自然になっていく」
「はい! 頑張ります! 伊織と俺の為に…」
俺とミキの為に…か。
そうだな。
これから長い人生2人で歩んでいくんだもんな。
「ありがとう‼︎ また1つ幸せを貰った」
「まだまだ2人でいっぱい幸せになろうね」
そう言って俺とミキは顔を見合わせ微笑んだ。
沙織達の名前呼び.祐一達の結婚宣言.優希さんの意外な可愛いらしさと龍臣達の絆と其々に何らかの変化があった……そして俺達の間にも変化があった。
それぞれ幸せへの良い形での変化だ。
こうやってそれぞれに合った形の家庭になっていくんだろう。
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