853 / 858
第855話
駐車場に車を停め、雪がある道を歩く。
「滑るなよ」
「うん!」
「転びそうになったら、俺に捕まれよ」
「ゆっくり歩いて行くから」
雪道は、俺達みたいな都会人には普通に歩く事は難しい。
やはり心配になり、ついついミキに声を掛けてしまう。
過保護と揶揄われるか?と思ったが、祐一も龍臣も矢島君もやはり似たように声を掛けてた。
愛だな~。
「伊織~。やっぱり、ちょっと捕まって良い?」
「ああ、転ぶ前に捕まっておけ」
「うん!」
俺の腕を掴んで、ゆっくり.ゆっくり歩くミキに歩調を合わせ歩く。
雪道には、俺達の前に来てた観光客の足跡もあったが、寒いこの季節に来る観光客は少ないらしくそんなに多くの足跡では無かった。
そして小さい橋を渡り、暫くすると白糸の滝が見えて来た。
「わぁ~、見えてきた~」
「思ったより、でかいな」
落差は3m程の滝だが横幅は80m程あり、まるで落ちる滝が幕のように見える。
凄く寒いが、つい滝に見惚れてしまい自然と隣に居るミキの手を握り無言のまま暫く鑑賞してた。
大きく派手では無いが、この冬景色と落ちる滝が何とも落ち着く。
穏やかになり心が清らかになる気がした。
ミキも同じ気持ちだったのか、暫く俺と一緒にただ滝を見つめて居たが、白い息を出しながら一言言った。
「癒されるね」
「ああ」
そう言って、また滝を眺めた。
まるでミキのようだな。
澄んでる空気.清らかな滝……素直で純粋な心.優しさと穏やかな空気を纏うミキとが重なる。
俺に、いつも癒しを与えてくれる。
思わずギュッと繋いでた手を握り締めた。
皆んなも暫く、俺達と同じように滝を眺めてたが沙織が「皆んなで、滝をバックに写真撮ろう」とその場の空気を変えた。
寒くなって来たしな!と俺も思ってた。
皆んなも同じだったようで、直ぐに滝をバックに集合写真を数枚撮り.ミキ達4人で撮ったり俺も龍臣達と撮ったりとし、そして最後にはカップルで自撮りしてた。
寒さもあってか?自然と体が近くなり寄せる顔も近い。
他の奴らも似たり寄ったりだったので、この寒さが自然とそうさせてくれ、これはこれで良かった
他の観光客も数組居たが、やはり同じ状態だった
夏季には、結構マイナスイオンとか言って多くの観光客が涼みに来るんだろうが、冬は寒いからなそれでもこの寒さはカップルには逆に自然と触れ合えるから良いのかもな。
「寒くなって来たからよ~。蕎麦食べに行って、あったまらねー」
龍臣の意見に『賛成‼︎』と言い、白糸滝を後にした。
そして検索してた蕎麦屋に入り、天ぷら蕎麦を堪能し体を温めた。
寒かった事もあり、皆んな「美味い.美味い」「体が温まる~」「美味しいね」と口々に話しながら食べた。
寒い冬に食べる温かい蕎麦は美味しさが格別だった。
蕎麦屋を出て近場を歩くと、ミキの念願だった蕎麦クレープの店があった。
ホテルを出て車に乗ってから、前に2人で行った時とは道が違ってた事もあり、蕎麦クレープが売ってる店があるか?心配してたミキは店を見つけて蔓延の笑顔になり、真琴君や沙織.優希さんに嬉しそうに話し連れ立って店の前まで行ってた。
その姿が可愛くて、ついつい俺は笑顔になってた
「お前、だらしない顔してるぞ」
龍臣に言われて、自分がそんな顔をしてたと初めて気が付いたが、照れ臭くなりつい悪態をついた
「可愛いもん見て可愛いと思ったら、そんな顔になるんだよ!」
「はあ~、お前って恥じらいってもんがないのかね~」
「そんなもん生まれてから持ち合わせてねーな。大体、龍臣に言われたくねーし!」
俺と龍臣の会話に側に居た祐一は呆れ、矢島君は少し困った顔をしてた。
「伊織~、食べないの?」
俺は龍臣や祐一と矢島君を見たが、3人共首を振ってた。
「俺達はいいや。好きなの買って来いよ~」
「うん♪」
店の前で4人で何にするか?キャッキャッ…言ってるのが解る。
それを少し離れた所で待ってた俺達は愛おしい目で見てた。
俺だけじゃなく、お前らも結局そうなんじゃねーかよ~。
ま、皆んなの気持ちも解るしと思い、何も言わずに居た。
ミキ達は蕎麦クレープを手にし、そのままぞろぞろ…と蕎麦屋の駐車場まで歩く事にした。
食べ歩きとばかりに美味しそうに食べるミキの顔が可愛くついつい見てしまう。
勘違いしたミキがいつものように話す。
「あっ! 伊織も1口味見する?この間とは違う味のクレープにしたんだよ~。はい!」
いつものように俺の口元にクレープを差し出す。
はあ~、こう言う所が天然なんだよなぁ~。
ま、いつもの事だから本人は解んねーだろうな。
俺は別に構わないが……。
俺も一口パクッと口に頬張った。
「ん、美味いな」
「でしょ.でしょ♪まだ、食べる?」
「いや、もう良い。あとは、ミキが食えよ」
「うん♪この生地の香ばしさが良いんだよね~」
そう言って ‘美味しい.美味しい‘ と言って食べてた
そんな俺達の事をニヤニヤ…しながら見てる龍臣や沙織と羨ましい目で見てる真琴君と矢島君。
そして呆れて見てる祐一と優希さん……周りの反応は俺が思ってる通りだったが、天然のミキは蕎麦クレープに夢中で気が付いて無い。
空気読めない天然って最強だな。
ミキの事を思ってか?誰も揶揄う事はしなかったが、自分の気持ちに素直な人がもう1人居た。
「沙織~、俺も味見したい」と口を開け待つ矢島君。
そう言われ、少し周りを気にしながらも嬉しそうに矢島君の口元にクレープを持ってく沙織。
それを皮切りに龍臣も真似をすると優希さんは照れ隠しで少し嫌そうだったが、無言で龍臣の口元に持っていくと、それを見た真琴君が自分から祐一に少し照れながら口元に持っていくと祐一は何も言わずにパクついた。
何だ⁉︎
結局、皆んなイチャイチャ…したかったんじゃねーかよ~。
ミキの天然のお陰で甘い雰囲気になった。
駐車場で車に乗り込む前に矢島君から声を掛けられた。
「さっきは、成宮さん達に便乗してしまって」
「ああ、あれな」
クレープの事かと思ったが、俺は何とも思ってなかった。
「俺、実は前々から成宮さんとヨシ君が人目も憚らずに堂々とあ~いう事するの ‘いいなぁ~’ って、ちょっと羨ましかったんですよ。俺、どうしても年下と言う事で外ではしっかりしなきゃ!って虚勢張ってた所があって…沙織の事 ’沙織’って呼ぶようになって、以前より2人の仲がより縮まった気がして…今までも遠慮してるつもり無かったけど
…何か勇気が持てたって言うか……上手く言えないんですけど……虚勢張ってたのがバカらしくなって、さっき2人の事を見て他人は関係無いんだ俺達は俺達なんだ!と思ったら、素直に思ったまま沙織に向かうのが1番良いと……2人を見て…沙織に甘えたくなって…ちょっと恥ずかしいけど……でも沙織が嬉しそうにしてたから……間違って無かった。これからも2人を見習って素直になります」
「そんな風に俺達を見てくれてたのか?ありがと
沙織は矢島君に対してだけは、素直だからな。2人の時間を大切にする事に、年上とか年下とか関係ないよ。男のメンツとか虚勢とか、そんなもの邪魔でしかない。正直で素直な気持ちで接してくれれば、それが1番嬉しいんだ。沙織の事…いや妹の事を宜しくな」
「はい! その言葉2回めですね。沙織が成宮さんにとって妹なら……俺は義理弟ですね。俺も、これからはそう言う気持ちで成宮さんに接していきたいです! 色々相談にもこれから乗って欲しいです」
「解った。ま、あまり出来が良くねー義理兄だが宜しくな。いつも妹にはこき使われ嫌味を言われバカにされてるがな」
はははは……
「それも愛情の裏返しですよ。沙織はブラコンですよー」
「それはない.無い!」
2人で笑ってた時に「大ちゃ~ん、早く乗って~」
と沙織の声がした。
「今、行く!」
そう言って爽やかに沙織の元に向かった矢島君を笑顔で見た。
沙織も良い男を捕まえた!
矢島君なら気の強い沙織なんかより、もっと素直で可愛らしい女も言い寄ってきただろうに。
外見も良いし爽やかで好青年だし誠実でしっかりしてるし性格が良い……それなりにモテただろう
学生時代に起業した事と沙織一筋で他の事は目に入らなかったか?それとも気が付いてても知らないふりでやり過ごしてた⁉︎……いや、沙織がそう言う煩わしさとかは全て蹴散らしてたのかもな⁉︎
沙織ならやりそうだな。
でも、本当に良い男を捕まえた。
沙織の男を見る目は間違えは無かった。
矢島君が車に乗り込むのを見て、俺も祐一の車の後部座席に乗り込みミキの隣に座った。
「何、矢島さんと話してたの?」
俺と矢島君が2人っきりで話す光景が珍しかったようだ。
「ん?大した話じゃないよ。次のチョコレートファクトリーの道の確認だよ。沙織達も楽しみにしてるって言ってたからな」
「それは俺もマコも楽しみにしてるよ。ね、マコ」
「うん! どんなチョコあるのか?楽しみ~♪チョコ以外にも売ってるのかなぁ~」
「検索して見る?」
「止めとけよ。これから行くんだから、何も知らない方がワクワクするだろ?」
『それもそうだね~』
声を揃えるように言い、2人の顔はウキウキ…ワクワク…し笑顔になってた。
そんな2人を見て俺も笑顔になったが、頭の中ではさっきの矢島君との話を思い出してた。
さっきミキに聞かれた時に、俺は敢えて矢島君との話の内容は話さなかった。
矢島君とミキは少し似た性格をしてるが、大きな軸は違ってる。
矢島君は学生の時に起業するバイタリティや芯がしっかりし何事にもポジティブな考えをするが、ミキは優しすぎる為に優柔不断な所があり、どちらかと言うと内向的な考えをする。
そこが2人の決定的な違いだ。
優しいし穏やかで人の気持ちを考えてやれる所は似てるがな。
さっき矢島君は ‘人の目も憚らず……’と言ってたが、本来のミキは他人の目を気にする事は言わなかった。
それはミキ自身も思う所はあるんだろうが、俺が周りの人に好奇の目で見られる事を避ける為だ!と言う事も俺は解ってる……ミキの気配りと優しさからだと言う事もな。
何でも話せて俺達の仲を認めてくれる仲間だからこそ、ミキも気にせずに振る舞い、あ~いう事をナチュラルにしてた。
その事を知らない矢島君は良い様に捉え、前向きな考えを持った。
余計な事を言って、がっかりさせたくは無かった
矢島君達は普通のカップル、いや夫婦なんだからそれこそ人の目を気にする必要はないんだからな
‘沙織’ と呼ぶ事で距離感がもっと縮まった気がする’と言ってた。
似たような性格のミキもそう思ってくれてれば…
俺は嬉しい。
キャッキャッ……と話すミキと真琴君を見て、俺はそんな事を考えてた。
ともだちにシェアしよう!