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第867話
「寝たか?」
「ああ、寝たな」
さっきまで2人でキャッキャッ…と話してたが、今は、電池が切れたように静かに眠ってる。
車の揺れと温かな車内で気持ち良さそうに、俺の肩に頭を乗せ寝てる。
真琴君も前席で窓に頭をつけ寝てるようだ。
「疲れが出たのかもな」
「疲れさす事したのか?」
くっくっくっ……祐一を少し揶揄ってみた。
「……まあな。お前こそ」
こいつに嫌味とか揶揄うのは無駄だな。
返しが面白くねー。
「それは否定しねーな。ここまで良く持った方だ
ま、それ以外にも緊張やら色々あって、やっと帰れると思ったら安心してドッと疲れが出たのかもな」
「そうかもな。でも、楽しかったな」
「ああ、良い思い出になった。皆んなには感謝してる」
「そうか。なら、良かった。伊織、良かったな」
「ああ、ミキのウェディングドレス姿は見れたし考えもしなかった結婚式も出来たしな。思わず感動した」
「結婚式もだけど。名前だよ、な・ま・え」
ここまで何も言われなかったが、祐一も気が付いてたのか。
「ああ、そっちな。気が付いてたのか?」
「そりゃ~解る。俺だけじゃなく、皆んな気が付いてたって。お前、ミキが ‘伊織’ って呼ぶ度に
嬉しそうにしてるからな。キモかったぞ」
祐一が俺を揶揄うが、嬉しさでスルーした。
「そうか、顔に出てたか。やっと呼んで貰えた」
そして俺は祐一に以前にも呼び捨てする事を半強制的にしてみた事や殆ど諦めてた事.今回沙織がミキに話してくれた事を話した。
「そうか。沙織さんがな。似たような状況下で…伊織の気持ちが1番解ってたのは、沙織さんなのかもな。伊織本人に言われるより沙織さんに言われた事の方が、ミキの心には響いたんだろうな。何にせよ、良かったな」
「ああ、呼び捨てにするようになってから…何だか遠慮もなくなったような……もっと、ミキを近くに感じる気がする。たぶん、俺の気の持ちようなんだろうけどな」
「はははは……。それは気の所為だと思うが…。俺が見た所、ミキは伊織に遠慮してる感じはしなかったけどな。まあ、良かったじゃん。朝食の時には普通に呼んでたと思ったら、突然、チェックアウトの時に呼び名が変わってたから、この短時間に何があったか?と思ったよ。そう言う事だったのか」
「沙織のお陰だ」
その短時間で、ミキは ‘伊織さ…’と呼びそうになっては ‘伊織’ と呼び直し、‘伊織さん’と呼んだ時には ‘伊織.伊織.伊織……伊織.伊織’と10回唱えて一所懸命慣れようと努力してる姿を俺は嬉しく思いながら見てた事を思い出し、つい頬が緩む。
「それにしてもお前って、名前呼びに拘るタイプだっけ?…違うか、ミキだからか」
「そうだな、ミキだからだな。ミキと付き合う前は、そんな事に拘った事も無いし……それ以前に特に相手に対して興味も薄かったからな」
「やっぱ、愛か」
「だな!」
そうい言って笑い合った。
「俺の事より、祐一達の結婚宣言には驚いたぞ。ま、そろそろ何らかの行動は起こすだろうとは思ってたがな」
今度は、祐一が昨夜に真琴君と2人になった時の話を聞かせてくれた。
「凄え~な。真琴君は1人でそこまで祐一との事を考えてたんだな。普通だったら、親には隠れてとか.カミングアウトするのも勇気いるのにな。それだけ真琴君は将来を見据えて祐一との事を真剣に考えてるって事だな。お前、幸せ者だな」
「ああ、俺もマコと幸せになる為とマコの家族に安心して貰う為に、きちんとケジメつけるつもりで、マコの家族に挨拶しに行こうと思ってる。近々、養子縁組して戸籍上でもマコと家族になるつもりで居る事を話して承諾貰う。マコが俺の知らない所で頑張ってくれたからな。今度は、俺が頑張る番だ!」
決意の込めた真剣な声で話す祐一。
「そうか、頑張れよ。世間一般では理解されずに拒否られたり絶縁されてもおかしくない所を、真琴君は1人で頑張ったんだ。真琴君は家族に愛されてるんだろうな、そんな感じがする。家族の不安や心配させないように、祐一が幸せにしないとな。責任重大だな」
「そうだな。もちろん俺にはマコが必要だし、幸せにするつもりでは居る。けど、俺だけじゃなく2人で幸せになる為に、マコと一緒に考えていくよ」
「そうか。……何だか、羨ましいな」
「はあ?結婚式挙げたばっかのお前が何言ってんだよ」
「結婚式挙げて、皆んなに祝福されて凄え~嬉しかった。本音を言えば、龍臣や祐一みたいに養子縁組して戸籍上でも家族になりたい気持ちはあるんだ。でも、現状では無理なのも解ってる。ミキも俺も今の仕事は好きだしやり甲斐も感じてるからな。将来的には、いずれ養子縁組はしようと思うてるが………まだまだ先だろうな。俺達は意識的には夫夫として家族として暮らすと言う口約束でしか無い……やはり不安はある。ミキを信じて無いとかじゃないが……ミキはモテるしな。それなのに鈍感で無自覚だから……不安だ」
祐一に心の中にある本音を話した。
「お前達どっちもモテるからな。伊織がそう思ってるのと同じで、ミキも心の中では同じ事思ってると思うぞ。お前達は相手の事を思い過ぎて肝心な事を言わないから、これまで色々誤解があったんだろ?これからは夫夫なんだ、遠慮や思った事は話し合うべきだろ?それに養子縁組してもしなくても不安や心配は、俺も龍臣も伊織と変わらないって! 男女の夫婦だって離婚するんだし、養子縁組も解消すれば離婚と一緒だぜ。それに! お前、少し欲張りだっつーの!」
「欲張り⁉︎」
「今の現状に満足せずに、もっと.もっとって! どうにもならないなら、今の現状に満足して、がっちり地盤を固めろよ! 欲張ったって良い事ねーぞ」
「………そうだな。確かに、俺は欲張ってた。もっと、ミキとの絆を強固にし俺から離れられないようにしようとしてた。それも、やはり不安があるからなんだろうな。……祐一の言う通り、取り敢えず地盤を固めなきゃな。ミキが不安にならずいつも幸せな気持ちで笑って居れるようにしないとな」
「ミキだけじゃなく、お前もな」
「確かにな。俺が幸せな顔をしてるとミキも自然と笑ってるし……そうだな。何だか、吹っ切れた気がする。先の事を欲張るより、今を大切にしていくよ」
「それが良い! ま、伊織に説教臭く言ったが、俺自身にも言い聞かせてる所がある。俺もどっちかと言うと話す方じゃないからな。だから、マコがたくさん話してくれるのを聞くのが楽しいんだけど、マコも俺の性格理解してくれてるからあまり言わないが、こんな商売してるからマコも不安や心配事はあるだろうし……これから夫夫になるのを良い切っ掛けにして、俺も急には無理だが少しずつ変わっていこうと思ってる」
「そうだな。誰もがお前の気持ちに気付いてやれる訳じゃねーんだからな。寡黙ぶってねーで、少しは話せって!」
「はははは……確かにな。マコにも、その点では甘えてたのかもな。マコは俺の気持ちを理解しようと先回して話してくれたり、さり気無く俺に話す切っ掛けをくれたりしてるからな。俺を理解してくれるのは、お前らとマコだけ……貴重な人間だから大切にしないとな」
最後は照れてそんな言い回しだったが、俺と龍臣も大切な人間と祐一の中で位置付けられてると言ってるのは解った。
「真琴君の方が大人だな」
照れ臭くって俺はそう話した。
「外見は子供で中身は大人ってか⁉︎」
「……コナンかよ!」
思わず突っ込んだ!
『…………』
はははは……ははは……
くっくっくっ……はははは……
一瞬の沈黙の後に、2人で声を出して笑った。
俺も祐一に心の中の不安を話した事で少しスッキリした。
男女の結婚や養子縁組したって……‘俺だけじゃなく誰でも不安や心配はあるんだ’とそう考えると気持ちも晴れた。
「お前らって、根本的な所が似てるんだよ」
突然の祐一の言葉に何を言い出したのか?と思った……俺とミキの事を言ってるのか?
「お前らって……俺とミキか?全然、似てねーじゃん」
捻くれた性格の俺と素直で優しいミキ……全然似てねー。
「違う.違う。性格じゃなく求めてるものが一緒なんだよ」
「はあ⁉︎ 意味わかんねー。解るように言ってくれ」
時々、祐一は小難しい事を話す。
「だから、お前は高校の時に付き合っては別れ.付き合っては別れって付き合う奴をコロコロ変えてだじゃん。付き合う相手が切れた事ねーじゃん。大学は大っぴらにはしてなかったが、それなりに付き合ってたり.そう言う出会いの店に行って遊んでただろ?」
「お前、昔の事を今更ほじくり返して、何だっつーの?お前も一緒に行った事あるじゃん」
俺はこっそりミキが寝てるか?確認した。
こんな事聞かれたくねーし。
「大丈夫、寝てるよ。解んねー?お前さぁ~、人を愛せないくせに、いや愛そうともしないくせに
そのくせ誰か側に居て欲しいって言うタイプだって自分で解ってる?ミキもお前とは違うけど、愛されたい.愛したいって思ってるじゃん。お前らって愛に飢えてるって言う所とか.寂しがり屋な所が根本的に似てるんだよ。だから、惹かれ合ったのかも知れねーけどな」
自分では、そんな事考えても思っても居なかったが……人間観察が趣味と言う程の祐一が言うならそうなんだろうな。
「自分では解んねーけど……ミキの事は、祐一の話す通りだと思う」
「ミキだけじゃなくお前もな。お前は家庭環境が影響してるんだろうけど、ミキは家族を失った事が原因なんだろうな。自分達は解んねーかも知んねーけど、心の根底にそう言う気持ちがあるんだよ。逆に、俺とマコは真逆だからこそ惹かれたんだと思ってる。マコの一所懸命さや明るさに俺は救われてる。俺には無いものを持ってるから惹かれた」
「俺とミキは似た者同士で、お前らは真逆って事か……どこでどう巡り逢うのか解んねーな。結局は、お互いが必要としてる所に収まったって事なんだろうな」
「そうだな。俺にはマコ.お前にはミキって事なんだろう。お互い、巡り逢えた相手だ。幸せにしないとな」
「だな!」
こんなに饒舌な祐一も珍しい……祐一も思う事があって誰かに吐き出したい気持ちだったのかも知れない。
いつも寡黙で淡々として人に弱味を見せないからな。
熱く語った自分が照れ臭くなったのか?祐一が話題を変えてきた。
「伊織、眠くなったら寝て良いぞ」
「どっかで運転代わるよ」
「お前ら、明日仕事だろ?俺は休みだから大丈夫だ」
「解った! でも、疲れたら遠慮せずに運転代わるからな」
「おう! サンキュ」
それから祐一と少し話してたが、俺も自然と言葉が少なくなり、俺の肩に頭を乗せるミキの頭に頭をくっつけて眠って居た。
こうしてサプライズの結婚式と其々のカップルに色々あった旅行は終わりを告げた。
俺達だけじゃなく、皆んなにも思い出になる旅行になったはずだ。
良い仲間を持った俺達は幸せ者だ!
ありがとう‼︎
そして、これからも宜しくな‼︎
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