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第39話

外に出て香坂の腕を掴んで路地の奥に連れて行き抱きしめた。 はあ、やっと触れた、香坂を腕の中に抱いて実感できた。 顎に手を掛け顔を上げ見つめ合う。 俺から軽くチュっと口付けて唇の厚みを感じるように今度は強めに口付け舌を咥内に挿れ絡ませる上顎も舐め又舌を絡ませてクチュクチュと音をさせ軽くチュっと口付けて離した。 香坂は力が抜けて俺に体を預けてくる。 また、抱きしめて、ずっと腕に抱いていられたら…と思う。 「香坂、大丈夫か?歩けるか?」 自分で仕掛けて置きながら聞く。 「はぁはぁ…はい、……大丈夫ですけど…」 いきなりで戸惑っている姿に 「悪い、今日はずっと人目があって我慢してたからな、でも少しぐらいはいいだろう。明日、会社だから今日はこれで我慢するから」 また、軽くチュって口付けて 「また明日、会えるからな、今日は帰るとするか」 柔らかく触り心地がいい髪をぽんぽんすると香坂は少し照れて赤くなっていて可愛い。 まずいな、もうこれ以上一緒に居たら我慢出来なくなる。 その前に帰ろうと香坂を連れて歩き出した。 路地から大通りに出てタクシーを止めようとすると 「課長、電車で帰ります」 「送って行くから乗れ」 何も言わさせず勝手にタクシーを止めて乗せた。 「課長、電車で帰れるのに勿体無いです」 それ程酔って無い様だがほろ酔い加減って感じか。 待ち合わせで軟派されてたんだ、酒が入った今は頬は桃色.目は潤んで.濃厚なキスで赤く色づいた唇.色っぽさが増して電車なんか乗せられるか誰にも見せたく無い。 全く本人は無自覚で困るがそこが抜けてて可愛い所だが 「ん、送って行きたいと言う俺の我儘だ」 香坂の頭をぽんぽんしその手を下ろし運転手に見えない所で手を繋ぐとピクっとして運転手を気にして桃色の頬が紅くなる顔を見て 「おやじ楽しそうだったな、香坂の事気に入ったようだ」 気を散らす様に話し出す。 「本当ですか、だったら嬉しいです。大将とは古いお付き合い何ですか?」 「社会人成り立ての頃に友人に連れて行かされてそれ以来か、おやじ余計な事話さないけど人情味あって料理も美味いからな、俺の隠れ家だ」 「判ります。店もこじんまりしてリラックスできますし大将も優しいです」 「香坂には優しいが他の奴には結構厳しいぞ、俺も説教じゃ無いが人生の先輩として諭すように色々言われたからな」 「どんな事言われたんですか」 興味津々らしい。 あんまりかっこいい話じゃ無いが香坂にはそんな時代もあったと知って貰いたい。 「若かった時の話だぞ。社会人になって今迄、遊んでた奴らが自分の目標や大切な人の為に頑張ってる姿が、当たり前だが、学生の時とは変わっていくのに焦ってたんだな。なんか自分だけ何も無いし結局差(し)が無い会社員になってると考え仕事も遊びも適当にしてたんだ。そんな時におやじがそんな適当にしてたらそういう奴しか集まらない、まず何か1つ一生懸命に出来る事を探せ、そうすれば道が拓けてくる。何も無いなら男は仕事で結果出す事だそうすれば周りも変わるし自分も変わるって言われてその時の俺には胸に響いて仕事から頑張ってみるかって思ったんだ。今は差がない会社員とは思って無い。逆に世界を相手にしてると自負している要は気持ちの持ちようって言うか考え方次第だったんだそれをおやじは言いたかったんだろうな」 若い頃の話しで恥笑すると 「良い方と出会ったんですね。課長でもそういう時代があったなんて信じられないです」 「そうか?まぁ、そういう時代があったから今があるんだ。それからは考え方次第だと視野を広げ色んな方面から考えるようにしてるがまだまだおやじには敵わない」 今、思えば昔の自分はガキだったと苦笑いする。 「そんなの人生経験が違います。課長は俺達から見たら仕事も出来て頼り甲斐がある人です、田口さんも佐藤さんも上野さんもそう思っています」 「それは会社での俺か。男としては?」 顔を赤くして 「男としても包容力があって優しくかっこいいです、仕事の時も男としても憧れます」 照れて話す姿が可愛い抱きしたいがタクシーの中だったと思い諦める、その代わり繋いだ手を強く握り「ありがとう」 嬉しい言葉に素直に返す。 タクシーの運転手が「ここで大丈夫ですか」って言われて香坂の家に着いた事が分かった。 「ここで良いです、課長ご馳走さまでした。また明日会社で」 繋いだ手を離すから寂しくなるが 「明日な。もういいから早く部屋に入れ、ゆっくり休めよ」 「はい、ありがとうございます。おやすみなさい」 タクシーを降り歩き出す後ろ姿を見て離れる寂しさを感じマンションに入って行くのを見届ける。 明日逢えると気持ちを切り替えタクシーを走らせた。

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