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第69話

何もする事無く、テレビをぼんやり眺めていると ピンポン♪ ん、誰だろう?こんな時間にと思いながらスコ-プ穴から覗くと課長が立っていた。 「えっ」 慌てて玄関ドアを開け「課長、どうしたんですか?」 「ん、取り敢えず入っていいか?」 「狭いですけど、どうぞ」 課長が家に来るのは初めてで緊張してしまう。 「適当に座って下さい。インスタントだけどコ-ヒ-入れますね」 キッチンに向かいコ-ヒ-を入れ戻ると課長は部屋を見回してた。 「あんまり見ないで下さい。課長の所と違って狭いんで、はい、コ-ヒ-です」 「いや、1人暮らしならこんなもんだろう。香坂らしく綺麗にしてるし飾りも多いんだな」 「ありがとうございます。それよりどうしたんですか?家に来るなんて何か有ったんですか?」 「何も無いが…。何か無いと来たらダメなのか?香坂の部屋に1度来たかったんだが…」 「全然、ダメじゃないですけど…部屋狭いから課長ゆっくり出来ないんじゃないかと」 「いや、香坂の部屋は落ち着く。香坂の匂いがする」ニヤっと笑う。 「えっ何か臭いですか?落ち着くからアロマとかやってるんですけど」 「いい匂いって事だ」本当に天然だ。 「良かった、ホッとしました」 「……ぷっあはは…はははは…もう、我慢出来無い。ははは…香坂、可愛いけど。どうしたんだ?そのヘヤピン…ははは」 うさぎのヘヤピンで前髪を留めている姿が可愛い、実はドア開けた時から余りの可愛さに笑うのを我慢していた。 慌ててヘヤピンを取ろうとする。 「可愛いからそのままでいい。普段からしてるんだろう?いつも通りにしてろ」 観念して「……はい、家帰って来たら、前髪邪魔なので直ぐにピンで留めるか結っちゃうんです」 頬を赤らめて話す。 「でも、どうしたんだ、そのピンは?まさか香坂の趣味じゃないだろう?」 「俺の趣味じゃないですけど…実は大学の時、イベントサ-クルに入っていて、そのサ-クルは月に1回位、施設で人形劇や劇などをボランティアでやってて、その時に女の子2人からうさぎのヘヤピンと苺のヘヤゴムを貰ったんです。捨てられなくって使ってます…」 香坂らしいと思いながら 「そうか、別に誰に見せるわけじゃないし、俺の部屋でも気にしないで普段通りにしてろ。それに似合ってるしな…くっくっくっ」 今度、うさぎのヘヤピンと苺のヘヤゴムを俺の家用に買って置いてやろうと考えていた。 「笑わないで下さいよ。課長が不意打ちで来るから、変な格好見られちゃったんですから」 恥ずかしいのか顔が熱いのか頬に両手を添えて言う姿が可愛い。 「香坂、抱きしめさせろ。今日、まだ、全然触れてないんだ」 腕を引き寄せ抱きしめる。 いつの間にか香坂を抱きしめるとホッとするようになった、それだけで幸せを感じる。 もう俺にとっては無くてはならない存在なんだと改めて思う。 「課長、こんな素の俺も愛してくれますか?」 顔を上げ上目遣いで、頭を横に傾げて聞く姿は、ダブルで可愛い、これも素でやるんだから堪らない。 絶対に他の奴らには見せてたまるもんか、俺だけに見せて欲しいと願い、漆黒の目を真っ直ぐ見て 「勿論だ、愛しさが更に増した」 ふわりと天使の顔で笑い「課長、大好き」 ギュっと抱きついて俺の胸に顔を埋める。 ああ、凄え可愛い、可愛すぎるとデレデレする。 こういう幸せな時間もいいなと考える。 「実は、昨日、車納車されたから試し運転がてら、香坂を俺の部屋に連れて行こうと考えていたんだか、今日、ここに泊まっていいか?車はパ-キング入れてるから安心しろ」 「泊まるのは良いですけど、俺のベットシングルで狭いですよ。課長のダブルとは違いますよ」 一緒に寝るのが当たり前の設定で話す香坂に嬉しくなり 「狭い方がくっついて居られるだろう。今日は何もしない。ただ、抱きしめて寝たいんだ。たまには、そんな日が有っても良いだろう」 ふふふ「課長が良ければ。俺も泊まって欲しいです」 また、ギュっと抱きつかれ、さっき何もしないと言ったが、これでは、身が持つか不安だな。 頭を撫でて「折角、車で来たんだ。少し荷物持って行こう。普段着とかこの間買ったのだけじゃ足りないだろう」 「えっ良いんですか?邪魔じゃ無ければ、少し替え用に持って行きます。少しだけ待ってて下さいね」 名残推しく「別に、明日の朝でもいいだろう」 「朝、バタバタするの嫌ですから、2〜3着と下着類入れるだけですから」 早速、荷作りする為にクロ-ゼットに向かう。 着回しが効く服と下着類などを詰め込んで 「あっ、そう言えば明日、課長に会ったら渡そうと思ってだけど、今、渡しちゃおう。忘れないうちに」 クロ-ゼットの上の棚から取り出し 「喜んでくれるかな」「気に入ってくれれば嬉しいけど…」 不安になりブツブツ独り言を言い 「でも、思い出だしお礼の意味もあるから」と意を決してリビングに荷物と一緒に持って行く。 香坂が荷作りをしている間に、部屋をグルっと見回し飾ってある物を見て 「本当に手作りするのが好きなんだな」 写真立ても一工夫して着物の端切れを利用してあったり、貝殻が貼ってあったりする。 感心しながら見てるとプラスチックの金魚鉢に青や水色.透明色のビ-玉にこの間海で拾ってきたと思われる大きめの貝殻や巻貝が飾ってある。 「熱帯魚の水槽とも違って、これも癒されるな」 他にも、ちょっと見るとアロマキャンドルのガラス容器も一工夫して、ビ-チグラスが貼ってある。 手に取り「火を灯したら綺麗だろうな」と眺めていた 居心地の良い部屋に、香坂の人柄が溢れてるなと思い一緒に暮らしたら…と、直ぐには無理だが思いが募った。

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