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第86話

マンションに着き部屋に入って、俺はソファに香坂はキッチンに行き、直ぐにコ-ヒ-を入れて持ってきた。 おやじが香坂の事をヨシ君と呼び、祐一と真琴君はミキと呼ぶ。 俺は……そんな事を考えていた時に「はい、課長」コ-ヒ-を置かれた。 香坂が課長と呼ぶのが今日はやけに感に触る。 もう、限界だと感じた。 「香坂、そこ座れ、話しよう」 いつもの体勢になると顔が見れないしイチャイチャモ-ドになるから横に座らせた。 「はい、何ですか?」 俺の気持ちを知らない香坂はニコニコと素直に座る。 言い出し難いが意を決して 「香坂……」 「何ですか?課長らしく無いですよ」 不思議顔で俺の顔を覗き込む。 そうだな、香坂の言う通りだ。 イジイジと考えてるのは俺らしく無い。 「……香坂、俺にはミキと呼ばせてくれないのか?大切な人にしか呼ばせ無いと聞いたが、俺は香坂にとっては大切な人には慣れて無いのか?」一気に言った。 目を見開いてびっくりした顔で 「どうして?それを……」 「前々から祐一と真琴君が、ミキと言ってたのが羨ましかった。上司と部下と言う事もあって中々言い出せずに居た。いつかはと思ってたが、この前4人で会った時、真琴君がまだミキって呼ばせて貰って無いんだ。それじゃ、任せられ無いって言われた。俺には呼ぶ権利は無いのか?」 「……課長、そんな事無いです。課長は俺にとっては無くてはならない人で大切な人です。…課長が良ければ呼んで欲しいです。本当はミキって、ずっと呼んで欲しかった」 香坂の話を聞いて抱きしめた。 「あぁ、良かったぁ。…ミキ」 初めて呼ぶ声が少し震えていた、ずっと呼びたかったからだ。 「ミキ…大切な人しか呼ばせない理由は、聞いていいか?」 何かあるのだろう。 それもミキにとっては、大事なことなんだろうと考えていた。 「……課長には、聞いて欲しいですが…」 「言ってくれ、ミキの事は何でも知りたいんだ」 「前に、祖母とイギリスに1年だけ行ってたって言いましたよね」 2人で出張の時に聞いた事があった。 「聞いたが」 「あの時、祖母が体が動く内に祖国で過ごしたいって言いましたが、それもあるとは思うけど、たぶん俺が小学校の時に、1部の男子に名前のことで、揶揄われて虐められてたから。環境変える為に、祖母は一緒に連れて行ってくれたんだと思います」 「そうか、そんなに酷かったのか?虐め」 「漢字を読む事が出来るようになってからですね。美樹ってミキって読めると解って、1部の男子が女みたいな名前と揶揄われて、それで女の子が俺を庇うから、尚更、揶揄うんですよ。でも、俺小さい頃は良く女の子に間違われてたから、それもあるのかも」 ミキの話を聞いて、たぶんその男達はミキの事好きだったんだろう。 良く好きな子を虐めるってやつだな。 だが、小さいときはどんな事でも傷つく年頃だ。 「そうだったのか、それで」 「だから、良く祖母に女の子みたいな名前で嫌だって泣いて言ってたから、祖母が素敵な名前なのにミキは、おばあちゃんやお母さんお父さんがミキって呼ぶのが嫌かい?って聞かれ、家族は皆んな大好きだから呼ばれるの嫌じゃ無いって言った時に、ミキにとっては家族は大切な人なんだね。じゃあ、これからは、ミキって呼ぶのは大切な人にしか呼ばせないって言っておあげって、それから虐めてくる人に大切な人しか呼ばせないって初めて口答えしたんです」 「家族は皆、ミキって呼んでたのか?」 「はい、物心ついた時には呼んでました。何でも祖母がよしきと発音しずらかったのが、キッカケで両親も呼ぶ事にしたらしいです」 「仲が良かったんだな」 「はい……イギリスから祖母と帰国して、俺は中学はインタ-ナショナルスク-ルに通って、高校.大学は普通に日本の学校に行きました。スク-ルに通ってた時に、祖母が亡くなり…」 涙ぐみ始めたミキに「大好きな、おばあちゃんだったんだな」 「はい、色々教えてくれました。それから両親と妹と4人暮らしで、俺が大学受かった高3の時に……」 何か思い出したのかポロポロと頬を伝う涙を拭き取ってやり 「どうした?泣くな」 「春休みで、妹が遊園地行きたいって、前から言ってて、その日、俺は友達と約束してて、大学手続きと準備で出掛けて一緒に行かなかったんです。夜、中々、帰って来ないと思ったら…ヒクッヒクッ…交通事故に遭って両親は即死、妹は病院で息を引き取り…うッ…ヒクッ」 ポロポロ流れる涙 、そんな悲しい事があったなんて普段は微塵も感じさせない。 「ヒクッ…相手の居眠り運転だったんです。春休みは葬儀やらで、忙しくなんとかやってました。でも、誰も居なくなってから広い家で寂しくって怖くなった。大学入って広い家に、1人で居るのも寝るのも寂しいから女の子と沢山付き合った。付き合っては、直ぐ別れまた付き合うを繰り返し、付き合ってない時は、誘われた子と一緒にいたりとそんな事してたから、友達も出来なかったんだと思う。そんな時、マコに会って、マコに誘われてイベントサ-クル手伝うようになり、疲れて何にも考えずに寝られるようになった。それに、施設の子達は、家族の温もりも知らない子が居るのを知って、俺は家族の温かさを知ってる事に感謝しなきゃと思うようになって、マコや支えくれる人が居たから1人寝も出来るようになりました。どうしてもって時は、マコが来てくれて家族を失って、尚更、ミキって呼ぶ人が居なくなったことを痛感してたんです。大切な人に呼んで欲しいけど、俺の前から居なくなると考えると…ヒクッヒク…」 そんな理由があったのか。 「ミキ、大丈夫だ。俺は絶対何があっても居なくならないし側に居る。誓う」 精一杯抱きしめる。 「…課長…絶対に居なくならないで」 縋り付くように抱きつくミキに、前より愛しさと守ってやりたいという気持ちになった。

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