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第5話  今の気持ちと昔の話 R15

僕はどうしたんだろうか。隣にいるのは隣人の陸らしい。そう言えば昔隣人だったのも陸という名前だった。もしかして同一人物かもしれない。でも思い出せない。昔の記憶は全部蓋をしてしまったから。悲しかった事も、嬉しかったことも辛かったことも悔しかったことも忘れてしまった。どんなに考えても思い出せない。 思い出したくても嫌な記憶しか浮かばなくて。そう思ってしまうのはどうしてなんだろう。 その嫌な記憶も心の奥に閉まってしまっているのは、小さい頃の記憶も今の記憶すら忘れてしまっているのは…。思い出したくても思い出そうとすると頭がキリキリと痛くなる。 いつから僕は、男に身体を売るようになったんだろう。 思えば、あれがすべての始まりで、いつでも戻れると思っていた。 でも初めてしまったことは、なかなか戻れない。 自分を追い込んだって、何も変わらないのに ただ身を焦がすだけなんて思っていなかった。 僕が男に体を売ったきっかけのすべての始まりは、お父さんに犯された時だった。 お父さんは、お母さんが浮気をしてしまったことの反動から僕を抱くようになった。 最初は嫌で嫌で仕方なかったのに、いつからか受け入れてしまっている僕がいて、 そんな関係になっちゃいけないって分かっていても戻れなかった。 そもそも、お母さんがしなければ、こう悩むことも、死のうとすることもなかったのかもしれない。 ある時、お父さんはこう言ったんだ。 「お前を抱くのは、好きだからじゃない。 ただ、あいつの代わりに愛が欲しいだけなんだ。」と。 お父さんとする行為は愛はなかったけど、ただ、気持ちよくて、でも終わった後は、虚しさと、悲しさが残るんだ。その時はお父さんに愛をもらっているんだって錯覚して勝手に思い込んでいた。 でもその頃の僕は分かっていたのかもしれない。愛情ではないんだってそこに愛が生まれないことも歪んでいた愛情だったということも。 今さら後悔したって遅い。 死のうとしたって死ねないんだから。生きたくないのに生かされる。 この世の中に未練なんてあるはずないのに死ねないだなんて残酷なんだろう。僕は死にたいのに体は死にたくないのか。 バットエンドはハッピーエンドにならないのかななんて悟ってしまうんだ。

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