3 / 15
3
『じゃあ、とりあえず抱いていい?』
『はい!!!』
『いいんだ……』
そこはもっと深くツッコめよ――とダメ出ししたかったが、据え膳食わぬは男がすたるので、霧咲はその晩榛名を抱いた。
榛名は抱かれている最中、気持ちよすぎるのか頭のネジが吹っ飛んでいた。霧咲が抱くまで、その身体は一度は暴かれそうになったもののほとんど処女だったにも関わらず、榛名は乱れに乱れまくった。
『ああんっ!あっ!そこいいっ!もっとぉ!だんなさま、もっとおく、そこ、激しく突いてぇっ……!!ああっすごい!きもちい……もうっ、好き!旦那様、好きです!すきぃ!!』
『へえ、榛名も…っ、俺のことが好きなの?』
『すきですっ!あんっ、だいすき!あっ、ていうかっ……愛してる!!』
『それは嬉しいなぁ……!もっと言ってくれたら、更に激しく抱いてあげるっ』
『んぁっ!これ以上激しくされたらっ、も、いっちゃうっ!でも……して!すきっ!旦那様、好きぃっ!おれのことめちゃくちゃにして……あんっ、あんっ!すき、すき、はぁんっ!だめぇ、そんな、つよすぎるっ!いくっ!いっちゃうっ』
『君、最高だね……くっ、俺もイくよ……!』
『あんっ!旦那様ぁっ、すき、好きぃ……も、だめ、こわれちゃう!……あぁぁっっ!!』
……………
自分が盛大に煽っている癖に『加減をしろ』だなんて、いったいどの口が言ってんだ――と霧咲に毎朝脳内でツッコまれているのを榛名は知らない。
そんなお互いに合意の上すぎる性行為を彼らは一晩に最低は3回、それを週3ほどのペースで行っている。ちなみに霧咲の年齢は40に近く、榛名は30に近い。二人揃って元気だ。
しかし榛名は、霧咲が思っていた以上に頑固だった。こんなに自分を激しく求めていて、なおかつ抱いている最中は世界の中心で叫ぶように(むしろ叫んでいる)愛を語りまくっているのに、朝になるとスッと冷静になって冷たいとも思える態度に変わるのだ。
情事中の卑猥で奔放な言葉もすべて、『私 がいつそんなこと言いました?』とでも言わんばかりである。もはやツッコんだ方の負けだ。
霧咲は、そんな矛盾だらけの榛名の態度も込みで面白がって――愛して、いるのだが、そろそろいい加減に身を固めないと周りが末期で煩くなってきたし、自分も榛名とならば結婚したいし、早くこの素直じゃない小鳥を四六時中素直にさせたいと思っている。
そのためには、ある計画に本腰を入れて取り組まなければならない。こちらも少々面倒だが、榛名と結婚する上ではどうしても欠かせないことなのだ。この計画が成功すれば、榛名も素直に自分を受け入れてくれるだろう、と霧咲は信じている。
*
榛名はいつも霧咲の支度を手伝い、部屋の中で霧咲を送り出すための言葉を言う。他の使用人には二人の関係は秘密のため、門前でおおっぴらに送り出すことができないからだ。
そんなこと気にしなくても、俺たちのことはもう全員が知ってるよ――と、霧咲は榛名に教えていない。秘密の関係だと思いこんでコソコソと行動する榛名を、心底面白可愛いと思っているからだ。
そして他の使用人たちもそんな主人の悪癖をよく理解しているため、余計なことを榛名に言ったりすることはいまのところない。
「……それでは旦那様、行ってらっしゃいませ、お気をつけて」
「うん、きみも気をつけてね」
「私はこの屋敷の敷地内からは一歩も外へ出たり致しませんけど」
「でもほら、もしかすると君が可愛いから誰かが下心を持って近寄ってくるかもしれないじゃないか」
「………」
霧咲家の使用人で、そんな命知らずなことをする馬鹿は存在しないが。しかしそこで榛名は、前の屋敷で起こった自分の悲劇をふと思い出してしまった。
(いやだな、また、あんなことがあったら……)
「……榛名?どうしたの?」
「い、いえ!なんでもございません」
「そう」
榛名は、自分が元主人の娘の婚約者に襲われて追い出された経緯を霧咲に話していない。相手が貴族だったためほとんど抵抗らしいことが出来なかったとはいえ、男に襲われただなんて恥ずかしくて言えなかったのだ。
今は霧咲に抱かれている自分のことを恥ずかしいだなんて思っていないけれど、それとこれとは別なのだった。
ともだちにシェアしよう!