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榛名は屋敷の広い庭の掃除をしながら、少し腰を庇っていた。 (いててて……昨日も激しかったから、なぁ) 昨夜のことを思い出すと、無意識に顔が火照ってくる。霧咲とはもう何回もシているのに、毎回初めてのようにドキドキするのだ。 榛名は、これまで自分自身の色恋沙汰とは無縁の人生を送ってきたのに、そのせいなのか色々大事な段階をすっ飛ばして、霧咲との激しいセックスにどっぷりハマってしまっていた。 しかも、少しは加減をして欲しいと口では苦言を呈すものの、本音は手加減無しで抱いてほしいと思っている。抱いて貰っているが。 自分がこんなに淫乱だったなんて知らなかったが、与えられる快楽を知ってしまった以上、もう知らない頃には戻れない。 こんな誰にも言えないような爛れた関係をいつまでも続けてたらいけないと、榛名は頭では理解している。しかし、自分の口から辞めたいだなんて絶対に言えない。 ――霧咲のことを、愛しているので。 情事の最中、気持ちが昂ってついぽろっと気持ちを口にしてしまうけど、きっと霧咲は真剣に受け止めてはいないだろう……と思っている。一応、自分のことは愛人レベルで好いてくれているらしいので、好きだと言われて別段悪い気はしないのだろう。セックスが更にきもちよくなるためのスパイスみたいなものだ。 (俺は、真剣に好きだけど……) でも、榛名にはどうすることもできない。自分の性別は変えられないし、今から貴族になれるわけでもない。身体の関係を止めてくれとも言えないし、つまるところ、今は受け身でいるしか他ないのだ。 「はぁ……」 「榛名さぁん、首筋、キスマークが見えてますよぉ~?」 「わあぁっ!?」 いきなり背後からメイドの有坂に声を掛けられて、榛名は飛び上がるほど驚いた。そのせいで、また腰がズキズキと痛む。 「いたたた……」 「ありゃっ大丈夫ですかぁっ!?ごめんなさい、脅かすつもりは無かったんですけど……いや、やっぱり嘘ですぅ、脅かしました。ごめんなさぁい」 「いや、別にそこは正直に言わなくてもいいけど……。と、と、ところでその、キスマークって……?」 今朝着替えた時に全身をくまなくチェックしたのだが、そんなものは無かったはずだ。 「首の後ろですぅ。それってどう見てもキスマークですよね?鬱血してますよぉ」 (首の後ろだなんて、そんな分かりにくいところにいつの間に……!もう、ほんとにあの人は……好きっ!!――じゃなくて、なんとか誤魔化さないと!!) 「む、虫刺されだよっ?」 「下手くそかよ。……まあ安心してください、私誰にも言いませんから!付けた相手はもちろん旦那様ですよね?」 「な、な、なんっ!?」 「えへへ」 「うぅ……」 苦し紛れのような言い訳は、有坂には全く通用しなかった。しかし、霧咲との関係がバレてる以上は下手に欺くよりも味方になってもらった方が得策か、と思い榛名は観念したようにゆっくりと頷いた。 「本当に誰にも言わないでね……?」 「分かってますよぅ。ところで中の掃除が終わったので、私も庭の掃除手伝いますぅ!榛名さん、休んでてもいいですよぉ、腰痛いんでしょう?庇ってるから」 「あ、ありがとう……でも大丈夫」 「無理しないでくださいね!」 有坂は、まだ20代前半のメイドだ。入った順でいうと榛名のすぐ上の先輩になるのだが、年下だからと敬語を使ってくれている。 そんな彼女に、ナニをしたせいで腰が痛むのかを完全に見抜かれていることが、榛名はたまらなく恥ずかしかった。しかしこの際だと思い、この屋敷に来てからずっと気になっていたことを有坂に尋ねることにした。 「あ……あの、さ。聞いてもいいかな?」 「何をですかぁ?」 「旦那様って、なんで今まで誰とも結婚しなかったの?すごくかっこいいし、優しいし、紳士だし……社交界でも誰もほっとかなかったと思うんだけど……」 これは榛名が霧咲に聞きたくても聞けない疑問だった。本人からは、一度も結婚したことがない、ということしか聞いたことがなく、どうしてこんな素敵な人がずっと独身なんだろう?と不思議だったのだ。 「うぅ~ん……単に結婚したいと思える人がいなかったんじゃないですかぁ?うちの旦那様、ちょっと変わってますしね」 「はは……」 それは榛名も同意だった。めちゃくちゃモテるだろうにわざわざ男の榛名に手を出すなんて――変わっているというか、単純に趣味が悪い。 でも霧咲の趣味が悪くて良かった、と榛名は思うのでなんだか複雑な気分だ。

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