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有坂は、主人――霧咲は男が好きだから今まで結婚していなかったのに、何故抱かれている本人がそれに気付かないのだろう?と逆に不思議だった。
そんな鈍いところもこの年上の後輩のいいところなのかもしれないが。他の使用人には自分たちの関係は一切バレていない、と思い込んでいるところも含めて……。
(でもこんなに思い悩んでいる榛名さんにまだプロポーズしてないなんて、旦那様も悪い男ですぅ。よし、ここはひとつ私が一肌脱ぎましょう……!)
有坂は、霧咲と榛名に早く正式にくっついて欲しいのだ。榛名はここで働き始めてまだ日は浅いが、生真面目で温和な性格と真摯な仕事ぶりが評判で、なかなか皆に好かれている。しかも主人が珍しく執着し寵愛している貴重な存在だ。
二人で話しているところを見れば互いに愛し合っているのが丸わかりなので、早く結婚してふたりとも幸せになってほしい――と思っているのは有坂だけでなく、今の霧咲家の使用人全体の総意でもあった。
「……でも旦那様は、近々結婚なさる気かもしれませんね」
「えっ?」
「ここだけの話ですけど、水面下で色々とご準備なさってるみたいですよぉ?婚約披露パーティーみたいな……多分ですけどね!私も若葉先輩に聞いただけなのですぅ」
「婚約披露、パーティー……」
「もしそうなったら私達使用人も準備に腕が鳴りますぅ。たっくさんお客様がいらっしゃるでしょうからね!うふふ、楽しみですね」
「そ、そう……だね……」
つい今しがた自分と霧咲の関係を暴露したばかりなのに、霧咲の婚約披露パーティーの話をするなんて……この年下ぶりっ子先輩はなかなかにドSだ、と榛名は思った。というか自分で撒いた種なのだが、できれば聞きたくない事実だった。
(旦那様、近々結婚されるんだ……)
(うふっ、これでようやくニブい榛名さんも気付けましたかねぇ)
もちろん鈍い榛名には、有坂の思惑など一ミリも伝わっていない。
(もしかすると、旦那様も俺との爛れた関係をいつまでも続けるわけにはいかない、と思っているのかな……)
だから、榛名に知らせずに婚約披露パーティーとやらの準備をしているのだろう。そして唐突に婚約者を榛名に紹介して、『おまえのような身分の者が俺の正式なパートナーになれるわけがないだろう、何を期待していたんだ?妾の立場でも十分だというのに身の程を知れ』などと、今までの優しさが嘘のようなきついことを言われるのだ……。
そうだ、きっとそうに違いない。だってあの人ちょっと変わってるし。
「榛名さん、どうしましたかぁ?」
「なんでもないよ。掃除の続きをしよう」
「はぁーい」
(うふふ、これで二人とも幸せラブラブハッピーな新婚さんですぅ)
(知らない女とのラブラブ新婚生活を間近で見せられるなんて心から冗談じゃない……ああ、また転職を考えなきゃ……)
婚約披露パーティーなんていうのは有坂の口から出任せだが、霧咲が何かを計画しているというのは使用人の間でも密かに噂になっているので、きっと榛名と結婚するために何かやっているというのは明白だ。特に心配することは何もなかった。
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