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「えっ?えぇっ!?な、なんっ……」 なんでこんなに拍手喝采されてるの!?と榛名は混乱したが、霧咲は冷静に「榛名、返事は!?」と急かしてくる。そこでまだ霧咲のプロポーズが成功した訳では無いと悟った観衆は再びシンと黙りこくった。 「いや、返事って言われても……」 「君はさっき俺のことを愛してると言ってくれたけど、離れようともした。そんなの絶対に許さないよ。ねえ、頼むから俺と結婚すると言ってくれ、榛名」 「だ、だっておれは男だし。き、貴族じゃないし。跡継ぎだって産めないし。だから結婚なんて、そんなの……」 そこで、使用人たちが霧咲の援護射撃に入った。 「今どき身分の違いなんて、全然大した障害じゃないですぅ!」 「誰もが憧れるシンデレラストーリーよね」  さきほど男を屋敷から叩き出した、有坂アンド若葉の怪力コンビだ。 「!で、でも俺は男だからシンデレラなんかじゃ……」 「性別だって、当人達が愛し合ってれば大した問題じゃないですよぉ!」 「うん、むしろ萌えるしね!」  萌えるってなんだ……?と思いつつ、榛名は更に反論する。 「俺と結婚したら跡継ぎができないじゃないか!次の領主はどうするんですか!」 「それは……旦那様?」  若葉がちらりと霧咲を見た。 「うん、それは今から紹介するよ。――亜衣乃、入っておいで」 「え……?」 すると、野次馬の塊がモーセの海のように綺麗に分かれて――その中から、一人の美しい少女がゆっくりとこちらに歩いてきたのだ。 艶やかな長い黒髪に大きな目。まだ10歳くらいだろうか。利発そうな雰囲気と整いまくった顔のパーツはどこか霧咲に似ている。 「か、隠し子がいたんですか!?」 「違うから!!……紹介するよ、榛名。彼女は俺の姪でね――」  霧咲が紹介しようとしたが、それは少女によって止められた。 「いいわ伯父様、自己紹介くらい自分で出来るから。――霧咲亜衣乃(あいの)です。どうぞお見知りおきを、榛名さん」 「あ、はじめまして、榛名です……」 霧咲に姪が居たなんて、榛名は初耳だった。それどころか、きょうだいがいることも知らなかった。両親ももう居ないようだし――色々と事情があるのかもしれない。 「この子に俺の跡を継いでもらうよ。実はずーっと説得していてね……先日ようやくいい返事が貰えたんだ」 嬉しそうに言う霧咲に、亜衣乃は噛み付くような口調で言った。 「伯父様がしつこ過ぎるのよ!私は将来領主なんかじゃなくて研究者になりたかったのに!」 「好きなものになればいいさ、ただ肩書きだけでいいから領主もやってくれってこと……。俺が死ぬまでは面倒なことは全て請け負うから」 「それは当たり前よ。……もう、私が了承しないと好きな人に振られるから何としてでも頼むって伯父様が脅すから!でもちゃんと両想いなんじゃない、心配して損したわ!」 「え……」 色々と呆気に取られている榛名に、亜衣乃がズバスバと言う。その口調と物言いは可愛らしい容姿をひどく裏切っており、研究者志望ということもあり物凄く頭のいい子なのかもしれない――と榛名は思った。 「さぁて、榛名さん。これで伯父様と結婚するのに何の障害もなくなったわよ?これで私の伯父様とは結婚して頂けるのかしら」 「え、と、それは……」 「もう!好きなら結婚してあげてよ!じゃなきゃ私伯父様が死ぬまでずうぅーっと毎日毎日ウザったい泣き言を聞いてやらなければいけないじゃないの!そんなの絶対にごめんだわ!」 「……おまえ、俺に似て色々と酷いね、亜衣乃」 「ご自分で分かってらっしゃるなんてさすがですわね、伯父様」 「……………」 榛名は一気に色んな情報を詰め込まれて、まだ頭と心が整理できていない。戸惑っている様子の榛名を霧咲は見つめていたが、その手を取ってゆっくりと立ち上がらせた。 今度は、振り払われなかった。

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