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第256話

「私達は幸田瞬助のファンなの、ちゃんとルールがあって、みんな必要以上に近づかないようにしてるのにあなただけが、あなただけがルールを破っていつもそばにいて…許せない」 イライラした様子でコウジに詰め寄る。 「待って、僕は幸田のファンじゃないし、友達なんだから、そんなこと言われても困るよ」 ほら、面倒なことになった。瞬助がオープン過ぎるから。心の中で大きくため息をつきながらもなんとか対応する。 「うるさい!そんな姿で、もう幸田くんに近づかないで!」 興奮が収まらず、摑みかかる勢いだ。 「ちょっと落ち着こうよ、ね」 両手を広げ、なだめてみるが… 「うるさいうるさい!」 怒鳴りながら突然墨汁を浴びせかけてくる。 「ちょ、」 左側の頬や茶色い髪、肩へ墨汁がかかり洋服も黒く染まる。 ここまでされて流石にキレそうになるコウジだが、女の子に手はあげれない。 落ち着け、落ち着け、僕!! 心の内で唱えながら、ぐっと我慢して冷静に語りかける。 「…僕の話を聞いて、幸田にはちゃんと彼女がいるし、僕は男子でクラスメイトで同室なだけのただの友人なんだから、」 嘘も交えながらだけど、とにかく落ち着いてもらおうとする。 「キスやハグだって男子同士ふざけることもあるし、そんなたいした意味はないんだよ、けど不愉快な思いをさせたなら謝るから、ごめんなさい」 そう頭を下げる。 「けどね、幸田に本当に好かれたいならこんなことしちゃダメだよ」 言い聞かせるように一度言葉を切り説得を続ける。 「僕は平気だけど、君が、自分の価値を落とすだけだから、もうやめよう?」 「…、」 「わかった?」 「……ッ」 女子生徒は体を翻し、そのまま逃げるように走り去って行った。 「はぁ、もう…」 髪も服も墨汁を浴びて真っ黒に汚れてしまった。 大きくため息をついて… 手で墨汁を拭いながら寮に戻る。

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