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第261話

それから髪と顔を洗い終えて浴室から出る。 「髪、墨取れたか?」 「うん、ほら」 墨がついていた側を見せながら濡れた髪をとく。 「良かった、ホイ」 瞬助は立ち上がりタオルを渡してくれる。 「ありがと、瞬はもういいよ、怪我してるんだし、あとは僕がするから部屋で休んでて、」 怪我の具合を心配するけれど。 「大丈夫!つか、だいぶ取れたから、見てみろ」 そう自信げに見せてくる。 「あ、本当だ、ありがとう」 シミになるのを覚悟していたけれど、だいぶ薄くなっていた。 「どういたしまして、やるからには完璧にしたいからラストスパートするわ、」 「え、いいよもう」 「ダメ、俺が元通りにして見せるから」 そう、屈んで近づき瞳を重ねて囁く。 「…わかった、ありがと」 責任を感じているからか譲ろうとしない瞬助に、ため息をつきつつも、その気持ちに素直にお礼をいう。 「おう!…待ってろよ」 離れ側に優しく口付けて微笑んだ後、再び洗面台の前に座って作業を始める瞬助。 その様子を見ながら、髪を拭いて新しい服を着直すコウジ。 そっと瞬助に近づいて様子を見る。 「なあ、コウジ」 すると、洗い流しながら不意にきいてくる瞬助。 「ん?」 「やったヤツ、名前とか学年は分からないのか?」 「…知ってどうする気?」 首を傾げながら、何やらまだ気にしている風な瞬助を窺う。 「いや、気になるから」 「分からないよ、分かっても教えない」 「なんで?」 「ろくなことになりそうにないし」 知ったら瞬助、直接文句言いに行きそうだし。 「なんだよ」 「とりあえず今回はもういいから、怪我したわけでもないし…」 そっと瞬助の肩に手をかけて、忘れるように伝えるが… 「怪我してからじゃ遅いだろ!」 振り返り、また怒りを思い出したのか苛立つ瞬助。

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