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第262話
「そんな大ごとじゃないから」
「だってお前、墨だからまだ被害が少ないけど、かけられたのが硫酸だってみろ、取り返しがつかないだろ!」
「そんな、想像し過ぎだよ」
やはら瞬助の思考はぶっ飛んでいると思いながらも、瞬助の真剣な様子に困りながらなだめようとするが…。
「前だって後ろから抱きつかれるとか、お前、無防備なんだよ、もしナイフでも持ってたらやられてるだろ」
以前抱きつかれたことを持ち出してくる。相当根に持っている様子。
「ちょ、瞬?」
「心配なんだよ、これ以上コウジに何かあったら」
その言葉を聞いて、ドキリと胸が鳴るコウジ。
「…瞬、大丈夫だよ」
一呼吸おいて、そっと、瞬助をなだめるように、後ろから抱きしめる。
「コウジ…」
その行動に、瞬助も驚いて言葉に詰まる。
「うん、でも…ありがとう」
心配してくれて。
振り向く瞬助の頬にそっとキスを落とす。
「コウジ…」
コウジは瞬助の背中の温もりを感じながら思う。
なんか、不思議な感じ…
あぁ、そっか、今までこんなに心配してもらえたことないからだ…
子供の頃から同学年に僕より強い子はいなかったし、お前なら大丈夫、コウジなら大丈夫。そう言われて大きくなったから、自分でも大丈夫だと思ってて…
こんなに心配されるの、なんだかむず痒い。
けど、愛されてるってこういうことなのかな…
「僕ね、結構、今まで自分のことは自分で守ってきて、誰かにこんなに心配されること自体なかったから、瞬助がこんなに心配してくれることが不思議で…」
「心配するのは当たり前だろ」
瞬助は右手でコウジの頭を寄せるように、まだ乾ききっていないしっとりしている髪を撫でて、囁く…。
「うん、」
瞬助が怪我した時、本気で心配して、駆けていってしまったけど…
「瞬は、僕が怪我する前から心配してくれる、」
やっぱり、
大丈夫、大丈夫だけじゃ、瞬助は納得しないよね。
頼れる時は頼ったらいいのかな…。
「だから、当たり前だろ!」
「これからは怪我しないように、気をつけるから、おかしな事があればちゃんと瞬助を頼るし…あとは僕を信じて瞬助」
瞳を重ね頷き伝える。
「…コウジ、マジで、気を付けろよ、何かあれば一番に俺に言えよ」
「分かった、ありがとう」
瞬助の優しさと温もりを感じながら、ちょっとだけ素直になれたコウジ。
それから瞬助が洗ってくれた上着を浴室乾燥にかけ、ようやく部屋に戻る。
とりあえず瞬助を休ませる為、瞬助の部屋へ。
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