52 / 275

第52話

「っ…」 瞬助の前にいられなくなって… ばっと身体をひるがえして、逃げるように部屋から走って出て行く… 「コウジ!!」 後ろから聞こえる声も無理やり無視するように走り続ける。 教室の近くのトイレに入って、手洗い場の鏡で自分の顔を見る。 泣いたせいで、少し目が赤くなっていた… くやしい… 結局、瞬助はしたいだけで…僕のコトなんか考えてもくれてない。 そうだよね…瞬には代わりはいくらだっているんだから… 今は、僕が珍しいだけなんだ… どうせ本物の女の人にかなうわけないのに… 『お前SEXしたことある?』 『俺はあるぜ、めちゃイイ女と…』 思い出される、瞬のコトバ… 身体を許して…やっぱ女の方がよかったなんて言われた時には… 立ち直れない… 言われなくとも…そう思われるのが、つらいから… それが恐いのに… 「どうした?」 不意に声をかけてくる人物。 「えっ」 「泣いてる?」 顔を覗きこんできたのは、風紀委員で一緒の当番になった広井先輩だった。 「い、いえ、目にごみが入って…」 驚きながらも目をこすり、そう伝える。 「大丈夫か?クスノキ」 自然に心配してくれる。 「はい、せ、先輩こそなんでこの階に?」 三階が一年、二階が二年、一階が三年の割り振りになっている教室。 三年の先輩がなぜ二年の階に?と驚いてしまう。 「1階のトイレがいっぱいだったんだよ。1年のトコは3階だから行くのはめんどくさいしさ、っていうかよくここは使ってるんだ。2年の時に使いなれてるしね」 にこにこ話かけてくれる先輩、なんとなく和んでしまう。 「…そう、ですか…」 「大丈夫?痛い?」 元気のない様子を心配する。 「い、いえ、平気です」 「そっか、お大事に、金曜頑張ろうな!じゃ」 いつもの調子で去っていく広井。 「はい、ありがとうございます」 そう、お礼を言って見送る。

ともだちにシェアしよう!