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第4話 放課後①

 放課後、和樹は田崎の自転車の後をついて行った。田崎とは一年と三年で同じクラスになった。部活も同じで、選択科目のクラスでも顔を会わせており、何かと縁はあったのだが、とりたてて親しくもならなかった。和樹は誰とでも気さくにしゃべるし、誘われれば何人かで遊びに行ったりもする。そういう時に田崎もメンバーに入っていることはあったけれど、必ずというわけではない。二人だけでどこかに出かけたこともなく、だから、田崎の家に行くのも今日が初めてだ。しかし、「お互いの自宅を行き来して、何かと言ってはつるむ固定的な親しい友達」というのがほかにいるかと問われれば、いない。そう考えると、漫画や音楽の趣味が似ていて、個人的に貸し借りをする仲である田崎は、充分「親しい」と言える間柄かもしれなかった。 「ここ。」田崎が自転車を止める。このあたりでは一般的なサイズの一軒家だ。和樹が自転車を壁に寄せて置いている間に、田崎はドアの鍵を開けていた。何も言わずに入っていくので、和樹も慌てて後に続いた。鍵がかかっていたということは家人は留守なのだろうとは思ったが、一応、「お邪魔します。」と小声で言ってみると、案の定「誰もいないよ。」と田崎が言った。  促されるままに二階の部屋に入ったが、入ったと思ったら田崎は無言で出て行き、戻ってきた時にはコーラと緑茶のペットボトルを一本ずつ手にしていた。「どっちが良い?」と聞く。無愛想ながらも気は使ってくれているようだ。和樹は緑茶を選んだ。  六畳ほどの部屋にベッドと机と本棚。田崎らしい、実にシンプルな部屋だった。学習机と別にもうひとつ小さなデスクがあり、そのデスクには不釣り合いな大きなモニター、それにやけに有機的なフォルムをしたキーボード、それからペンタブレットだろうか、和樹には馴染みのない物もあった。そして、足元にはパソコン本体が鎮座していた。周辺にはプログラミング関係の本が置いてあり、シンプルな部屋で唯一自己主張をしている一角となっていた。 「あ、マックなんだ?」 「うん。」 「ゲーム?」 「いや、お絵描き。」意外な返事だった。  もしかして田崎の奴、こう見えて美少女アニメとかメイドとか猫耳とかの二次元好きなのか。そんなことを考えつつ、部屋をもう一度見回したが、それらしきポスターやフィギュアは見当たらない。本棚にぎっしり詰まった漫画のタイトルもチェックする。やはり、それ風のものはなさそうだ。和樹の視線の動きに気付いたのか、田崎は珍しく笑いながら「都倉が想像してるようなのじゃないよ。」と言った。それから、本棚にあったファイルを一冊取りだすと、和樹につきだした。「これ。」

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