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第5話 放課後②

 ファイルを開くと、写真のようなイラストのような風景の作品が目に飛び込んできた。写真かイラストか戸惑ったのは、それが極彩色だったからだ。自然光ではこんな写真にはならないはずだ。でも、イラストにしては写実的すぎる。 「これ、写真?イラスト?」疑問をそのままぶつける。 「両方かな。写真をレタッチして、削ったり描き足したり。」 「え、これ、おまえが描いたの?」 「そう。元の写真はプロのカメラマンの作品だから、俺の作品とは言えないけど。」 「すげえな。」俺はファイルをめくった。次のページにも似たようなテイストの作品があった。「知らなかったよ。田崎にこんな技術があったなんて。」和樹は心から感心していた。じっくり見たくなって、その場にあぐらをかいて座り、ファイルをめくっていった。 「誰にも言ったことない。親にも。」いつの間にか和樹のすぐ隣に座っていた田崎。くっつきそうなほど顔が近くにあって、ようやく表情が少しだけ読み取れる。自分の作品を見つめているその横顔は恥ずかしそうだ。「初めて他人に見せた。」 「すげえな。」と和樹はもう一度言った。無表情の田崎が、このモノトーンの部屋で、こんな極彩色の作品を作っているなんて、誰が想像するだろう。「これいいな。この中で、一番好きだ。」和樹はあるページで手を止めた。    それは星空のようでいて海の中のような、不思議な作品だった。紺に近い深い青の中に、点々と光。フレームの端に植物の葉先のようなものがある。南の島で見上げる夜空だと思うが、光の点々は海の中を漂うプランクトンみたいにも見えるのだ。濃紺の中にバラ色の雲のようなものも見えるし、黄色い閃光のようなものも見える。他の極彩色と比べるとぐっと地味だが、良く見るとやっぱり色にあふれている。 「ああ。」田崎は和樹を見た。「これは、俺が一から描いたんだ。誰かの写真ベースじゃなくて、ぜんぶ俺が。」嬉しそうだった。田崎のことを散々無表情だの無愛想だのと評していた和樹だが、その認識は改める必要があるらしい。まるで、この作品みたいだ、と和樹は思った。一見しては地味だけど、良く見ればちゃんと彩られ、光を放っている。

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