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第6話 放課後③
和樹は田崎の顔から作品に視線を戻した。左下に小さく何か文字があった。デザイン化されていて読みづらい。
「R……と、T、かな?」
「俺のイニシャルだよ。別にひねってない。」と言う。
「署名か。」
「そう。今のところ、完成させたのはそれひとつだけ。やっぱり、一から描くのは難しくて。」
「でも、すげえよ。才能あるよ。」和樹は改めてまじまじと作品を見た。すると、田崎の手が伸びてきて、ファイルを取り上げてしまった。
「もういいだろ。恥ずかしくなってきた。」頬が少し赤らんでいる。田崎は立ち上がり、ファイルを棚に戻そうとしたが、ギチギチに詰めこまれた他の本のせいで、元の場所にうまく入らない様子だった。和樹も立ち上がり、田崎がファイルを差し入れようとしているらしい本と本の間に指を入れて、どうにか隙間を押し広げてやった。「ありがと」と言いながら、田崎がようやくファイルを押しこんだ。少しだけ、指先が触れた。2人の手が並ぶと、田崎の手の白さが目についた。
「おまえ、白いな。」
「引退以来、ろくに日光浴びてないからな。」
「俺だってそうだけど、全然違うよ。」和樹は自分の左腕と田崎の右腕の袖をまくって比較した。背格好は同じぐらい、筋肉のつきかたも同じぐらい。でも、やっぱり田崎のほうがずっと色白だ。それとも、俺が地黒なのかな。スイミングは小学生のころからずっとやってきていたから、元がどんな色だったかわからない。
「今も筋トレとかしてるの。」と田崎が言った。
「してるよ。でも、腕立てと腹筋ぐらいだから、筋肉は随分落ちた。」
「俺も。やっぱり現役の時とは変わるよな。」
「おまえは変わり過ぎだよ、なんだよ、その髪。」田崎の前髪を軽くつまみあげる。
「髪は関係ないし。」田崎は和樹の手を払って、不機嫌そうにベッドに座った。確かにこの部屋には学習机やパソコンデスクの椅子はあるが、ソファを置くスペースはなく、座布団やクッションもない。のんびり座ろうと思うとベッドになってしまう。和樹も田崎の隣に座った。
「なんだよ。」と田崎が言う。
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