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第7話 告白①

「だって、他に座るところないだろ。」 「そこの椅子とか。」田崎は顎でパソコンデスクの前の椅子を示した。折り畳み式の簡易な椅子だ。学習机のほうには、いかにも学習机のセット品にありがちなキャスター付きの椅子があったが、似たり寄ったりだ。 「いやだよ、座り心地悪そうだもん。」 「わがままだな。」口ではそう言っているものの、本気で怒っているのではないことはわかる。この短時間に、随分と田崎の表情が読みとれるようになったものだ。 「そう言えば俺、何しに来たんだっけ。」間の抜けた質問をしながら、目の前の本棚を見ているうちに、思い出した。漫画を読みに来たのだ。田崎から借りていたバスケ漫画シリーズを、ベッドに腰かけたまま目で探した。 「これだよ。」田崎は、和樹が探していたのとはまったく違う場所、ベッドの枕元に手を伸ばした。巻かれた帯は真新しく、書店カードも挟まれたまま。いかにも買ってきたばかりだ。 「おお、これこれ。なあ、これの一巻前も見せてよ。ストーリー忘れちゃった。」 「いいけど。」田崎はそう答えた。が、動くそぶりがない。 「どこにあるの? その本棚?」少し待っても一向に動かないので、せかすようにそう言って立ちあがった。つられるように田崎もようやく動き出す、と思いきや、ただ、黙って和樹を見上げただけだった。 「勝手に探していい?」そう言って本棚に近づこうとした時、田崎が和樹の手首をつかんだ。 「ちょっと、座って。」田崎の言うなりに、元の位置に座った。「今日、都倉を呼んだ理由を話す。」田崎は手首をつかんだまま、でも、和樹から目をそらして言い出した。 「理由って、だから、これだろ。」和樹はさっきの最新刊を指差した。田崎はこちらを見ようとしない。ただ、和樹の手首につかむ指先に力がこめられた。痛いじゃないかと言いかけたその時に、「好きなんだ。」と、田崎の口から、思いがけないセリフが出てきた。同時に、手首の指がほどかれた。  何の話だ。「好きなんだ」って何だよ。この漫画のことか。聞き間違いか。  黙っていると、田崎が長いため息をついて「ごめん。」と呟いた。

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